第6話 マッチ売りの少女
突然の地震だった。
大型の診察機器が倒れてきて、看護師のわたしは反射的に患者さんを守ろうとしたけど、一緒に押しつぶされて死んでしまった。
そして気が付いたら幼いマッチ売りの少女に転生していた。
最初は童話の『マッチ売りの少女』の世界かと警戒したけど、そうじゃなかったみたい。
まず『マッチ売りの少女』の世界だったらデンマーク語のはずなのに、わたしが日常的に喋っているのはフランス語だった。
それに周りの人たちは優しいし、お金がなくて困ったこともあるけどそれなりにやっていけてる。
なんでも最近町長が変わって、ものすごく景気が良いみたい。
童話の『マッチ売りの少女』って、日本版はあれでもマイルドになってて、原作はかなり悲惨なのよね。
当時のデンマーク社会への批判色が強く、周りの人はみんな冷たくて意地悪で、履いてた木靴を通行人に盗まれても誰も助けてくれないし、そのため雪が降る中、裸足でマッチ売って凍傷で足の指が無くなり、最終的に凍死。
そんな世界でなくて良かったわ。
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「おいらの言葉わかんないだろうけど……、心優しい王子様からの贈り物だ。うまく使ってくれ」
びっくりした。
ツバメがサファイアを持ってきて、しかも日本語で喋った。
その瞬間、理解した。
この世界は『マッチ売りの少女』じゃなく、『しあわせの王子』の世界だ!
でもなんでツバメが日本語を?
そう考えた時、わたしの頭の中にあった以前からの疑問が解けた。
わたしは青い屋根の家に住む若い劇作家を訪ねた。
そして出会い頭に日本語で言った。
「コンニチワ、転生者さん」
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予想通り、この人は元日本人だった。
以前から前世で読んだことがある漫画やアニメのストーリーそっくりの話を書く劇作家だと思ってたけど、最近リバーシそっくりのボードゲームまで作ってたのよね。
と思ってたら、なんとこの人、わたしが押しつぶされた診察機器使ってた担当技術者だった!
どういう偶然? それとも運命?
って、えええ! この街の町長、その診察機器売ってた会社の社長さんで、前世の知識使って経済改革進めてるの?!
この街、どうなってんのよ!
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ストーリーは順調に進行しているようだ。
王子の像の金箔がどんどん無くなっていく。
それをやってるツバメだけど、日本語喋ってるしまず間違いなく転生者よね。
となると王子の像も転生者っぽい。
と言うか、劇作家さんが書いたドラ○ンボールやワン○ースもどきの話を見て、もう10人以上の元日本人転生者が集まって来てる。
それも全員、あの地震前後で亡くなった人たちばかり。
これって一体どういうことなのかしら……
とにかくこのままだとツバメは死ぬし、王子の心も死んじゃう。
なんとかしないと。
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すべての金箔が剥され、その後の吹雪もおさまった日。
おそらく今日が物語のクライマックスだ。
わたしたち転生者は、ツバメを助けるため王子の像の周りに集結した。
町長命令で、今日は一般人立ち入り禁止になってるから自由に行動できる。
ツバメが戻って来た。
飛び方がおかしい。
体力の限界なのだろう。
王子の像の周りを数回まわったと思ったら、そのまま落下してきた。
予想通り!
王子の像の周りは、台座を含めてすべて柔らかいクッションを敷き詰めている。
体重の軽いツバメなら、これで無傷で保護できる。
無事保護完了!
と、ここで事故発生。
劇作家さんがツバメの所に走り寄ろうとして転び、台座に激突。
すごい音がした。
ナニヤッテンノ。
「ツバメさん、大丈夫?! どうしたの?」
王子と
「いたた……」
たんこぶ作って涙目の劇作家さんは今は無視。
「王子様! ツバメさんは大丈夫だから! 任せて!」
とりあえずツバメの治療優先。
「え? ……誰?」
王子様の困惑した声が響いた。
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その後、なんとかツバメさんは一命をとりとめた。
そしてみすぼらしくなった王子の像だけど、町長命令で修復されることになった。
ただ、原作で王子の心が入っている場所とされてる鉛の心臓だけは取り出され、転生者のみが知る秘密の場所に運ばれて行った。
そしてまるでピノキオのような人形の胸の中へと収められた。
その人形の目は、以前王子の像に使われていたふたつのサファイアが使われている。
「見える、見えるよ! それに動ける!!」
王子様の嬉しそうな声が響いた。
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「これでとりあえず一安心かな?」
劇作家さんがのんびりした声で言った。
「わたしの予想通りなら……、リバーシがあったり日本の漫画やアニメそっくりの劇が上映されてるこの街の評判は世界中に広がって行くでしょうね。そしたらもっと転生者が集まって来るはず」
残念ながら、わたしのこういう予想って当たるのよね。
「これからまだまだ波乱があるでしょうね」
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数年後、この街に変な猫を連れた男女が現れたという。
転生者達の活躍はまだまだ続く。
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次回、【第7話 宇宙宅急便株式会社】
明日19時更新予定です。
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