第5話 しあわせの王子
「あの絵本、読んでみたかったなぁ……」
それがぼくの最後の言葉だった。
ぼくは生まれた時から体が弱く、目が見えない。
でも点字の絵本が読めるんだよ。
絵本だいすき!
新しい点字絵本を手に入れて、大喜びした日……、ひどい地震があったんだ……
精密検査中だったぼくは、大きな機械が倒れてきて潰されて死んじゃった。
あのとき一緒にいた看護師さんと機械動かしてた技師さん、大丈夫だったのかなぁ。
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ぼくは銅像として生まれ変わったみたい。
生き物じゃないものに生まれ変わるってあるんだね。
でも目が見える!
すごい!!
街の様子も道行く人もみんな見える!
でも……、体が動かないし、みんなの言葉もわからない。
どんなに大声出しても、みんなもぼくの言葉がわからないみたいで不思議そうな顔をするだけ。
ぼくに出来るのは、この街の人たちの生活を見てるだけ……
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街を見ていて、だんだんわかってきた。
青い屋根の家に住んでるのは若い劇作家の人だ。
赤い屋根の家に住んでいるのは幼いマッチ売りの少女だ。
ふたりともすごく頑張ってる。
でもあんまりお金がないみたい。
なんとか助けられないかなぁ。
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すごい! 日本語を喋るツバメさんが居る!!
ぼくは自分の身の上を話した。
ツバメさんはすごく真剣に聞いてくれた。
生まれ変わって初めての会話だ!
楽しい!!
貧しい人たちに宝石や金箔を配るようにお願いしたら、すぐにオッケーしてくれた!
ツバメさん、いい人! いや、いいツバメ!!
目の宝石を取り出すと、ぼくは目が見えなくなった。
体の金箔を剥していくと、ぼくの体の感覚がなくなっていった。
どれだけの時間が経ったのかわからないけど、ぼくの体の最後の金箔をツバメさんが届けに行った。
そしてその日の夜から、すごい風の音が聞こえるようになった。
たぶん、突風が吹いているんだと思う。
ツバメさん、大丈夫かなぁ。
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あれからどれだけ時間が経ったのか……
やっと風の音が収まってきた。
その時、待ち望んだ声が聞こえた。
「王子……! 王……子!」
「あ、ツバメさん、心配したよ! 大丈夫?」
「王子……、お別れです……」
「え……、あ、そうか、金箔が剥がれたから何も感じないけど、もうすぐ冬になるよね。南の国に行っても元気でね!」
「いや……、南の国じゃなく……」
どうしたんだろう、いやに声がかすれてる。
「おいらが行くのは……」
ツバメさんの声が途切れ、直後ぼくの足元の台座に何かがぶつかったような音がした。
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次回、【第6話 マッチ売りの少女】
明日19時更新予定です。
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