何度も繰り返す
椎名由騎
何度も繰り返す
パンッ!
駅前に響いた音。その音の正体は二人の女性と一人の男性。一人の女性が男性の頬を勢いよく叩いた音であった。叩いた女性の表情は眉を吊り上げて怒り心頭の様子であった。代わって男性の方は叩かれた頬を押さえながら口を開いた。
「痛ァ…まぁ、これで気が済んだか?」
怒っている女性とは対照的に悪びれる様子もなく笑っている男性の言葉に女性は怒りがさらに増していた。
「私だけだって!言ったじゃない!」
「そりゃあ最初は、お前美人だし、俺も興味があった事は嘘じゃない。たださぁ、美人ってずっと見てると飽きるんだよ」
彼はそう言うと、先程から二人の様子を見ていたもうひとりの女性の肩を抱いた。
「お前と違って可愛くて背の低い子がいいんだ」
彼が肩を抱いた女性に「なぁ~?」って一言顔を見ながら言うと、「ねぇ~」って返答が返ってきていた。それを目の前で見させられていた女性は怒りの表情から呆れた表情へと変わり、深くため息をついた。
「もういい。アンタみたいな奴を好きになった私が馬鹿だった」
「それでも好きなくせに?」
「黙って!…そこのあなた、こんな奴と付き合う価値ないよ」
女性がもう一人の女性にそう伝えると、彼女はクスクスと笑っていた。
「わたしに負けた人にそんな事言われたくないですよ、元カノさん。それも承知で付き合いましたのでお気になさらず」
それを聞いた女性の方は相手の女性に対しても同情を向ける必要がない人物だと思い、一度ため息をつき、「付き合ってられない!」と一言二人に向かってそう言うと、立ち去って行った。
「いいの?」
女性が立ち去る姿を見ながら、肩を抱かれたままの女性は彼に視線を向けずそう言った。そして彼は「んー」と気の抜けたような声を出していた。
「もう興味のない奴だしなぁ。俺が興味あるのは君だけだよ」
彼は顔を彼女に近付けてそう言うと、彼女が首を彼の方を向けると、微笑んだ。
「ふふ、ありがとう!」
「さて、どこに行こうか?」
「それよりも頬が腫れちゃうから手当したい」
彼が彼女を連れてどこかに行こうとした彼とは違い、彼女は彼の赤くなった頬が気になるようでそう言った意見を言っていた。彼はそれならとこの場所から近い彼女の家に行きたいと言い出した。彼の言葉に一瞬ビクッとした彼女だったが、すぐに遠慮がちに頷いた。
「…じゃあ行こうか」
彼は内心嬉しそうな顔をして彼女の肩を抱いたまま歩き出す。身長の低い彼女の歩幅を合わせるようにゆっくりと歩き二人は消えて行った。
一部始終を見ていた周りの人たちは内心先程のカップルが長続きする事を祈っていた。
しかし、その一週間後。全く同じ場所でパンッ!と叩く音が響いていた。
これがこの町でのいつもの日常であった。
何度も繰り返す 椎名由騎 @shiinayosiki
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