第4話 百合カップル、爆誕。
悲鳴の方へ二人で向かうとそこには、光のバリアに包まれながらも倒れている10人以上の選手達がいた。
そして、そんな衝撃的な景色の中で最も存在感を示していたのは、赤い鱗をもつ巨体だった。
「ドラゴン……! なんで……!?」
ドラゴン。それは、この世界の生態系でもトップクラスの存在。
本来なら過酷な地域に住んでいる生物であり、こんな場所にいるわけがない。
しかし、倒れている選手たちを覆うバリアを見て私は、直感的に気がついた。
「ララの強力な魔力に誘われたのか……!」
このバリアは見覚えがある。
おそらくこれは、ララが張ったものだ。
(という事は、ここで大規模な戦闘が起こった事で大量の魔力が発生して、それを本能的に察知したドラゴンが来てしまったのだろう……なら、近くにララが居るはず)
そうして、私は辺りを見渡す。
すると、ドラゴンのすぐ側に戦闘中のララを見つけた。
(戦ってるのはララ一人! なら他の選手は……全滅か)
私がそれに気がついた頃、ララはドラゴンの翼によって弾き飛ばされて、近くの岩壁に叩きつけられた。
そして、ドラゴンは動けなくなったララに向かって追撃の火炎弾を吐き出す。
そんな中で私の体は咄嗟に動いていた。
「ララ!」
そうして私はララの前に立ち塞がって、代わりに火炎弾の前に立つ。
そして光のバリアを使えない私は、代わりに地面の一部を魔法で抉り出して壁代わりにする。
「くっ……!」
しかし、土程度では火炎弾を完全に無効化する事はできず、私は大きなダメージを負ってしまった。
そして、そんな私を見てララは、呆然としたまま問いかけてきた。
「……お姉様、なぜ庇ったの?」
「姉だから」
そう答えて私は、次の一手を打つ。
「岩の鎖!」
私は岩壁を利用して鎖を作り、ドラゴンに向けて放つ。
そして、その攻撃は狙い通りに命中し、硬い外殻によって傷はつけられないものの、その巨体を拘束した。
それと同時に、ヒナノちゃんがこちらに駆け寄ってきて、私の姿を見て声を漏らす。
「リリアちゃん……! 酷い怪我……!」
「……これくらい、大丈夫だよ」
そう言うものの、私の体は動かない。
(でも、ヒナノちゃんは戦闘向けじゃないし、ララはもう魔力切れだろう……なんとか2人を逃さないと……)
そうして、ドラゴンの拘束に成功している間になんとかしようと私が思考を巡らせていた時、ヒナノちゃんが小さく呟いた。
「私がリリアちゃんを守る……」
それと同時に、周囲の植物の成長が加速し始める。
そうして彼女は、私に向けて口を開く。
「……リリアちゃんは、私の努力を素敵だって言ってくれた……だから、次はわたしがリリアちゃんを助けたい!」
「ヒナノちゃん……?」
「リリアちゃん……ごめんなさいっ!」
そう言うとヒナノちゃんは、動けない私の唇に自らの唇を重ねてきた。
その瞬間、私の脳内は一度まっさらになって、すぐに彼女に支配される。
(唇柔らかっ……それに痛みも引いてく……これがキス!?)
そんな風に、未知の体験に震えていた時、私の体が光り輝き始めて、身体中の傷が治り始めた。
そして、それを見たララが声を上げる。
「ものすごい量の光の魔力が溢れて……なぜ!?」
ララの言う通り、私の全身からは光の魔力が溢れ出している。
「これは、魔力量が増えている……というより、今まで眠っていたものが目覚めた感じがする……?」
こうなってみて、当事者の私は気がついた。
おそらくヒナノちゃんから流れてきた魔力が、私の体の奥に眠っていた光の魔力を扱えるようになる所まで、私の体を成長させてくれたのだ。
そして、私が光の魔法を使えなかったのは、体内に眠る大量の魔力を操れるだけの体がまだ出来上がっていなかったからだったのだろう。
だからこそ、それに着いて来れるだけの体を手に入れた私は今、光の魔法が使えるようになったのだ。
「……なるほど、ヒナノちゃんが得意だったのは植物を成長させる魔法じゃなくて、他者の成長を加速させる魔法だったって事かな」
普通は植物を成長させる魔法なんて人に使う事はないだろうから、気がつかないのも無理はない。
なんにせよ、これで光の魔法が使える。
「ヒナノちゃんの想い、受け取ったよ! くらえ……愛の力っ!」
そう言いながら私は、ドラゴンの口に向けて光の魔力を放つ。
そして、ドラゴンの体内で魔力を活性化させて、その体内から外殻を突き破るように百合の花を模した大量の魔力の塊を出現させた。
ヒナノちゃんが百合の花に魔法をかけていたことから着想を得た、まさに二人の魔法だ。
(外殻が硬いのなら内部を破壊すればいいと思ったんだけど、外殻まで突き破れるくらいに強い……!)
そうして、大量の光に包まれたドラゴンは倒れ伏し、ぴくりとも動かなくなった。
「よし、私達の勝ち!」
そして、私がそう言ったタイミングでようやく救助部隊が現れて、ララや倒れた選手達は運ばれていった。
そうして私たちは、生き残ったのだ。
〜翌日〜
登校中、珍しく号外が配られていた。
そして、それを受け取った私は、顔写真付きのそれに目を向ける。
(なになに『某有名一家が逮捕! 家主による脱税、拷問、殺人疑惑も!?』って、この写真、どう見ても父さんだよね)
中身を読んでみると、どうやら一族の1人からのリーク情報が元になって、このような事になったらしい。
(……なるほど、ララだな)
おそらくは、私に負けた際の約束を守ってこうしたのだろう。
なんだかんだ素直な子だ。
(ま、これで父も失脚して、私もララも自由の身ってわけだ。ハッピーエンドだね)
なんて私が考えながら校舎にたどり着くと、私を待っていたらしいヒナノちゃんが私に駆け寄ってきて、思いっきり頭を下げながら話しかけてきた。
「リリアちゃん、ごめんなさいっ……き、きのうっ! その、き、き、き……キスっ、しちゃってっ! よく考えたら普通に魔法を使えばいいだけだったのに、なんか、わーってなっちゃって……本当にごめんなさい!」
「謝らないで、私は嬉しかったよ?」
そう言って私は、ヒナノちゃんに顔を近づける。
するとヒナノちゃんは、私の顔をチラチラと見ては顔を赤くして、その後すぐに目を逸らしたりと、なんだか忙しそうにしていた。
そして、私がそんなヒナノちゃんに内心ムラムラしていると、彼女の方から言葉を投げかけてきた。
「で、でも、恋人以外とはしちゃいけないことだし……」
「……じゃあ、私と付き合っちゃおっか?」
「へっ!? で、でも、わたしなんかが……」
「なんかじゃないよ。私は、ヒナノちゃんがいいの。ヒナノちゃんが居てくれたから私は頑張れたんだからさ」
そう言った後で私はヒナノちゃんに向き直り、彼女に語りかける。
「ヒナノちゃん。私と、付き合ってください」
「……はいっ!」
そうして私たちは手を取り合って、校舎へと向かう。
そんな私たちを向かい入れてくれる花壇には、沢山の百合の花が咲いていた。
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この作品はカクヨムコン短編部門に応募しています。
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17歳で名家から無能と言われて追放されたので、田舎の魔法学校でかわいい彼女を作って、ついでに追放した父を見返します!〜たまに真面目な変態女と植物育て系のオドオド女の子の百合ラブコメ〜 リンスinハンドソープ @ookimenokani
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