第3話 実力派の変態、実力を示す。
魔法実技のテストは満点。
見事にクラス1位の結果となった。
そして、その結果が書かれた成績表を見ながら満足していた私に、ヒナノちゃんが話しかけてきた。
「リリアちゃん、すごいね!」
「訓練したからね。これで代表になれるかな?」
「この成績なら絶対に選ばれるよ! 頑張ってね」
「え? ヒナノちゃんは出ないの?」
「代表選に出れるのは実技テストの上位2人だから……それに、わたしは植物を育てる魔法以外はあんまり得意じゃないし……」
なんて会話をしていると、どこからか担任の先生が現れて、私に話しかけてきた。
「リリアさん、ちょっといい?」
「……? 先生、どうしたんですか?」
「もう1人の代表者がケガしちゃったんだけど、貴方が代わりの代表者を選んでくれない?」
「え? 私が学校の代表を選んで良いんですか?」
「ええ。魔法の相性も考慮して、補欠選手は1位の生徒が決められるの。それで今回の1位は貴方だから、補欠を決めてほしいんだ」
「なるほど……」
「と言うわけで、決めておいてね」
そういうと先生はすぐに去っていった。
そして私は、ヒナノちゃんの顔をじっと見つめてみた。
すると彼女は可愛らしく首を傾げたあとで私の意図に気が付いたのか、急に慌て始めた。
「わ、わたし!? むりだよっ!」
「でも私、ヒナノちゃん以外には怖がられてるし……」
「もう2週間経ってるし、噂は誤解だってみんなに伝わってるよ!」
彼女の言うとおり、この2週間で私にかけられていた『放火魔&他人をひき肉にする奴』というあまりにひどすぎる誤解は解けていて、私はこのクラスの一人として馴染めていた。
しかし、そのうえで私はヒナノちゃんとは特に仲良くしたいのだ。
「でも、私はヒナノちゃんとやりたい」
そう、私はヒナノちゃんとやりたいのだ。
(……もちろん、対抗戦の出場をね)
しかし、その為には彼女を口説き落とす必要がある。
だからこそ、ここで追撃をかけねば。
「……私さ、この前、妹に対抗戦に出て欲しいって言われたんだ。それでさ、できれば答えてあげたいんだよね……一応、姉としてさ」
「リリアちゃん……」
「でも、対抗戦なんて出るの初めてだし、最初に友達になってくれたヒナノちゃんが近くにいてくれるとすごく心強いんだけど……だめかな?」
「うぅ……わ、わかった」
そう言うと彼女は、迷ったような様子を見せながらも首を縦に振ってくれた。
(よっしゃ! 頷かせちまえばこちらのもんよ! よーし、対抗戦を言い訳にイチャイチャしてやんぞぉ!)
なんて考えながら、ひとまず話を終えた。
そして、そこからの数ヶ月は非常に充実した日々だった。
対抗戦に向けた訓練のために行った風魔法の練習では……
「ひゃあっ……す、スカートが……!」
ヒナノちゃんが練習目的で発動した魔法が軽く暴走し、彼女とその隣にいた私のスカートをめくりあげた。
そうして、一瞬のピンク色がヒナノちゃんのスカートの中から覗いたその瞬間、私は瞬時に彼女のスカートを抑える。
「……! ヒナノちゃんの貞操は私が守るっ……!」
「リリアちゃんも自分の抑えて! ぜ、全部見えちゃってるからっ……わたしは大丈夫だからっ!」
なんてやりとりをしたり、日課となった花壇の水やりと掃除では……
「ヒナノちゃん、百合の花、結構成長してきてるね」
「うん、このまま大きくなってくれるといいな」
「……そうだね」
……百合が咲く時期まではまだ期間があると思うんだけど、既にちょっと生えてきてるんだよね。
(愛情込めすぎるとこうなるのかな……?)
とりあえず、ヒナノちゃんの魔法の腕が上がってきているのは事実だろう。
(やっぱり愛があると伸びるんだなぁ……私もヒナノちゃんを見てると鼻の下が伸びるもんね。お揃いだね、ヒナノちゃん)
と、そんな風に、ヒナノちゃんの素晴らしさを再確認したりする学園生活が続いた。
そしていよいよ『対抗戦』本番となった。
〜対抗戦、当日〜
移動した先に着いたのは、会場としては充分に広い『自然区域』
今回の試験は野外で行われるものであり、見渡す限りかなり広い。
(やっぱり色んな学校から人が来るだけあるな。どんな会場なのかと思ってたけど、戦うとしてもこの広さなら充分だ)
なんてことを私が一人で考えていると、妹であるルルがこちらに近寄ってきた。
「あら……逃げなかったんですね、負け犬のくせに」
「やぁ、そりゃまあララに『お姉様に会いたい!』なんて言われたらね、姉としては答えないわけにはいかないでしょ」
「そんな事は言っていません! 勝手に捏造しないでいただけますか!?」
ちょっとしたお姉ちゃんジョークだったのに……
(昔はニコニコしてくれてたんだけどなぁ)
やはり彼女は、厳しい権力闘争の世界に飲まれて変わってしまったのだろうか。
(口は悪いけど一応妹だし、どうにかしてあげたいんだけどね)
と、私がララに対して姉心を感じていた頃、彼女は私に言葉を投げかけてくる。
「当然、ルールは理解していますよね?」
「もちろん。ステージに設置された訓練用ゴーレムを時間内に沢山倒した学校が優勝なんだよね」
そうして、私がルールを把握している事をララに伝えると、彼女は口を開く。
「……数ヶ月前にも申し上げましたが、この戦いでわたくしが勝ったあかつきには、お姉様には魔法の道を諦めていただきます」
「うん、いいよ。でも交換条件として私が勝ったら、ララが『自分が本当に正しいと思う道を進む事にする』ってのを出していい?」
「それは……どういう意味で言っているのですか?」
「私は、やり過ぎなくらい実力主義で愛情を知らない父さんは不幸な人だと思う。だから、ララにもそんな人から離れて自由になって欲しいんだよね……ララなら分かるでしょ?」
「……」
そうして私は沈黙しているララを残して、受付を済ませてくれていたヒナノちゃんの元に向かう。
「ヒナノちゃん、大丈夫?」
「だ、だだだ、だいじょうぶっ! ですっ!」
「大丈夫じゃないね。ほら、深呼吸して」
「すぅ……はぁーっ」
そうしてヒナノちゃんは、私の言った通りに深呼吸をする。
(ヒナノちゃんが吐いた息、こっそり吸っちゃお……)
そうして、私も深く息を吸った後に会場入りし、いよいよ本番が始まった。
そして、私達が順調にターゲットを倒していた頃、遠くの方から大きな悲鳴が聞こえてきた。
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