第10話 シャークが行方不明
ある日ー
タイ、バンコクにて‥
ギチャァァァァァァアッ!
「ぐわぁっ!」
耳障りな咆哮と共に鋭い爪が振り下ろされ、巨大なサメの怪獣が倒れる。ご存知ギガントシャークだ。彼はバンコクの街に地盤沈下と共に現れた怪獣「バチケラー」と戦っていた。ゴジラ体型の二足歩行で熊のような色の毛むくじゃらの体に鋭い牙が生えたミツバチのような顔、オケラのような手に攻撃や地面を掘るのに適した鋭い爪を持った昆虫型怪獣だ。倒れたシャークの顔にバチケラーの爪がぶち当たる。
「ぬぁっ!」
しかし、シャークは負けじと敵の腕を掴み、そのまま立ち上がる。そして
「シャーク背負い投げ!」
バチケラーを投げ技で地面に叩きつける。そして馬乗りになり、力一杯何度も顔面を殴る。するとバチケラーは緑色の液体をシャークの顔面に向かって吹き付ける。
ベチャベチャベチャベチャ‥
「うぎゃっ!」
なんとも言えない癖の強い匂いの液体を浴びたシャークは呻く。
シャークとバチケラーはお互いにバンコク市街を転げ回りながら組んつほぐれつの大激闘を繰り広げていた。やがて二体は組み合うのをやめ、お互いに向き合う。バチケラーが爪を振るい、シャークの顔を再び引っ掻く。シャークも長い爪でバチケラーの胴を攻撃する。そして
「連続シャークエナジーパンチ!」
拳を帯電させその胴に連続で拳を打ち込む。さらに
「シャークスパーク・マキシマム!」
強烈な衝撃波でバチケラーの体を後ろに吹っ飛ばす。バチケラーは倒れるが、すぐにむっくりと起き上がる。そして、自慢の爪で地面を掘り、地下に潜った。土煙を散らしながら地底を進む。
ドドドドドドドドドド‥
バチケラーはシャークの足元まで迫り、地中から勢いよく飛び出し、鋭い爪で顔面を激しく引っ掻く。
「ぎゃうわっ!」
そして再び地面に潜り、シャークの周りをぐるぐると回転する。そしてまるでクジラがブリーチングをするように地面から姿を現し、その度に巨大な穴が地面に開いていく。バンコク市街はすでに穴だらけになりつつあった。シャークの周りも穴で包囲されてしまう。
「何のつもりだオケラ野郎!」
シャークが怒鳴ると同時に彼の周囲、半径50mほどが陥没し、シャークの体がちょうど入るくらいの穴が開く。そして穴からずるく長い爪の生えた腕が飛び出し、シャークの足を掴む。
「げっ!」
そして
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
シャークはそのまま穴の底に引き摺り込まれ、姿を消していった‥
そしてその後、タイ近海の船上で
「なんてこった!今回で最終回か!」
シャークと共に旅をしていたブレットが頭を抱える。
「まぁ待てブレット。アイツがまだ死んだとは‥」
「そうよ。怪獣である彼が穴に落ちた程度で死ぬとは思えないわ。」
相棒のマークと同伴者のミスティが言う。
「主人公が消えたらどう話を進めるってんだ!」
「タイトルを『ぶらり三人航海旅』に変えるしかないかな。」
「ちょっと待って。勝手にシャークを死んだことにしないでちょうだい。」
「そうだミスティさん!シャークを怪獣対策機構の科学力で探してくれ!」
「Kエナジーレーダーの試作品があるけど‥開発途中だからあんまり深いと検知できないのよね‥」
「おいおいマジかよ!」
「アラフォー三人組の冒険物語も悪くないような‥」
「いやダメだろ!怪獣どこ行った!」
「シャーク‥どうしてるかしら‥」
「よく考えりゃアイツのことだからどうせ怪獣の生首持って地面からダイナミックに出てくるだろ。」
「もしシャークがトンネルを掘っていない深い場所まで引き摺り込まれたら私たちもサメたちも助けに行けないし‥ 」
オオメジロザメたちが海上を悔しそうに跳ねる。彼らはシャークの位置を感知しているようだが、それをブレットたちに伝える術はない。
「下てバチケラーに勝てても出てこられなきゃ意味がねぇ!ってことは‥」
ブレットの頭にこんな光景が思い浮かぶ。
バチケラーの死体の前に座り込むシャーク。
「オレ様生きていけないよおおおお」
ギガントシャーク 9千万5百歳。
敵なし
食料なし
救援なし‥
「いや、アイツに限ってそれはない。」
マークがブレットの妄想を振り払う。
「だといいがなぁ‥」
「オクトパスが言ってただろ。地下には怪獣境があるって。そこに辿り着いてりゃいいんだが‥」
「とにかく、私たちには待つことしかできないわ。」
「歯痒いぜ‥」
と、その時、ミスティの手にあるKエナジーレーダーが反応を示した。バンコク市街の真ん中に開いた大穴の底にある大空洞から二つのKエナジー反応ーシャークとバチケラーが検知されたのだ。
「見て!反応が!」
「やっぱり生きてるよな‥」
二つの巨大なエネルギーがぶつかり合う様子がサーモグラフィーのように画面上に表示されている。
「コレ‥どっちがシャーク?」
「そこまでは特定できないわ。」
「なんかよく分からん戦いだなぁ‥」
三人は戸惑いながら画面上の戦いを見つめていた。
シャークは穴に引き摺り込まれている間もバチケラーと取っ組み合いの死闘を繰り広げていた。そして穴の底にある鍾乳石が垂れ下がる巨大な地下空間に辿り着いた。バチケラーは着地に失敗して気を失っているようだ。地面に落ちたシャークは土埃を振り払いながら目を見張る。すると地面に無数の何かがひしめいていた。それはオケラのような発達した前足がついた蜂の子の大群だった。バチケラーの幼体だ。
「うげーーっ!」
シャークはその悍ましい光景に思わず声を上げた。そして
「シャークスパーク!」
シャークは手から電撃を放ち、一帯の幼体たちをまとめて感電死させた。
「コイツらに恨みはねぇが‥地上に出てこられたら困るからな。」
シャークはそう呟く。すると
ギチャァァァァァァァァァァァァッ!
正気を取り戻したバチケラーが爪を振り回しシャークに襲いかかる。
「ぬぉっ!」
地下空洞に拳と爪がぶつかり合う音が響く。
バチケラーが飛び上がり両手を振り上げて、シャークの体を一刀両断するかの如く引っ掻く。
「ぐわぁ!」
シャークは大きなダメージを受けるが、すぐに体勢を立て直す。バチケラーは続けて往復引っ掻きを見舞う。シャークは
「シャークエナジーボール!」
と叫び手から電気エネルギーの球をいくつか放つ。球はバチケラーの体に全て命中する。バチケラーがふらつく。
「そろそろトドメだな。」
背鰭が輝き、雷鳴が轟く。
「シャークサンダー!」
青く太い光の筋がバチケラーを直撃し、バチケラーは瞬く間に洞窟の壁に激突し、体液を撒き散らして染みに変わった。
「ふぅ‥さて、どう出るかだが‥」
シャークは辺りを見回すが、バチケラーが掘った大穴意外に出口は見当たらない。
「登るっきゃないか。」
シャークは大穴の壁を見つめた。
「いくつか貰ってくぜぇ。」
シャークは地面に散らばったバチケラーの幼虫を拾い上げ、肩に担いだ。そして、長い手足で器用にクライミングを始めた。
数時間後、バンコク市街に戻って大穴の前でシャークを待っていたブレットたちの前に穴をよじ登ってきた巨大な手が現れた。
「よっこらせっと。」
「シャーク!」
「生きてるよなそりゃぁ‥」
「死んだと思ったか?いらない心配御苦労さん。」
「何それ‥」
ミスティがシャークが肩に担いでいるものについて尋ねる。
「アイツの幼虫だ。巣から拝借してきた。調理船を準備してくれ。」
ミスティはタムパン・ビーチに調理船を呼び、シャークに言われた通りの食材を用意した。
シャークは巨大な鍋の中に砂糖、醤油を煮だたせ、バチケラーの幼虫を放り込んだ。そして家ほどもある巨大炊飯器にタイ米を大量に詰めて炊き、煮込んだものをかけてじっくり混ぜると、巨大な茶碗に盛った。
「タイ風すがり飯ができたぞ。」
シャークは嬉しそうに言う。どうやら本で学んだ蜂の子を使った日本の郷土料理を真似たらしい。シャークは巨大な箸でご飯を掻きこむ。甘辛い味とKエナジーの滋味が米によく合う。口に入れるたびKエナジーの力で体の引っ掻き傷が治っていく。
「幸せだぜぇ‥」
シャークは満足気に呟く。
ブレットたちはいつも通りの元気なシャークを見てほっと息をつくのだった。
ギガントシャーク 亀井惺司 @gigantshark
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