5話 隠し事っていうのは早々にバレるものらしい

「ごめん。今なんて?」


「いやアユムのランク見るぞって言った。」


どうやら聞き間違いではなく、今からガチでランクを見るらしい。え何?あれ最後の晩餐だったの?俺の能力ランクはE-。この値がバレた瞬間人生が終了する。

冷や汗ダラダラで打開策を考えていたところ、レグルスが口を開く。


「なぁアユム。異能開示オープンって言ってみてくれないか?」


どこかで聞いたような........あ!エリシアに教わったやつだ。能力の詳細を表示するやつだったはず。てかこれどちらにせよ終わりじゃないか?

異能開示オープンしたらバレて終わるし、しなくても測定する術はあるんだからそれされて終わるし。綺麗な八方塞がり。もう諦めるか。逃れられない運命なんだ。


「異能開示《オープン》。」


俺は目をつぶって自分の最後の時間を嚙み締めていたのだが、何も反応がない。思わず目を開けて確認すると。そこに表示されるはずのあのウィンドウみたいな何かが出ていなかったのだ。


「やっぱりか。お前、空窓ウィンドウ持ってねぇだろ?」


ウィンドウ?ゲームのステータスウィンドウか?だとしたら持ってるか?って質問は不自然だよな。俺が首をかしげていると、レグルスが説明してくれる。しかしその目はまるで敵を見るように鋭い。


「その様子だとその事も忘れてるっぽいな。これだよ。」


そういうと、レグルスは人差し指につけているものを俺に見せる。これがウィンドウ?デザインはシンプルな指輪のようだった。色は銀色で、台座に青い宝石っぽいのが乗っている。普通に装飾品としても受けそうなデザインだ。


「何だそれ?装飾品とかに見えるが。」


「違う。これはそういう用途の物じゃねぇ。」


俺がそれを装飾品か?と聞いた途端、雰囲気が変わる。その俺の質問に返答する声はさっきとはまるで違い、聞いたことないほど低かった。怒りというより警戒に近い声色だ。


空窓ウィンドウは簡単に言うとランクとか異能スキル諸々を文面として表示する道具だ。お前はつけてないどころか存在すら知らなかった。記憶喪失で知らないにしてもつけてないのはおかしい。」


レグルスのその問い詰めに俺は反論すらできない。だって実際俺はつけていなかったからし知らなかったから。


「この道具は......全国民に装着が義務付けられている。多くの国民は5歳までの幼少期に装着される。もし10歳を過ぎてつけてなかったらその時点でこの国の国民とは認められない。老若男女関係なく即座に牢屋行きだ。最悪処刑もありえる。そんな法律が敷かれている中つけないヤツなんかいないんだよ。だからアユムはおそらくこの国の人間じゃない。」


ここ厳しくない!?何かやらかしたら処刑じゃねぇかよ。

そんなルールあんのかよこの国。なるほど。俺を敵国の人間だと思っているわけか。

違うと弁明したいが、ここに来た経緯が説明できない。

諦めて俺はこう返答する。


「それに関したら俺は何も言えないな。俺自身よく分かってないし。」


「それ自体はマジなんだろうな。聞いてきたのもこの国の内政とかそんなんじゃなく誰でも知っているような情報ばかりだったしな。潜入ならもっと別のこと聞いてくるはずだ。....だからこうやって空窓ウィンドウの事を話したんだよ。これはこの国だけのシステムだからな。」


いつの間にか口調も雰囲気もいつものレグルスに戻っている。演技....というわけではなさそうだったが。俺は戸惑いながら言葉を口にする。


「え?それってつまり......」


「おう!俺はダチとしてお前の事を信用するってこった!」


「じゃああのくだり何だったんだよ!?こっちはめっちゃ怖かったんだぞ!!」


「悪い悪い。でも最終確認だよ。念には念をって言うだろ?」


「命の危機だったわこちとら!!ガチでそのまましょっ引かれて処刑されるかと....!!」


「それはあり得ねぇわ。ダチを売りたくねぇしな!そもそも記憶喪失が嘘の可能性は最初から俺の頭の中に無かったしな。

実はな、お前が襲われてたあの熊。デカイだけで強くも何ともないんだよ。

敵国への潜入ならある程度戦闘力がないと話にならねぇはずだ。ましてやあんな弱い熊から逃げ回るようなヤツを派遣するとは到底思えなくてな。」


何だろう、取り合えず信用を得たのに悲しい気分なんだが。遠回しに弱いって言われたぞダチに。泣いていいやつか?コレ。


「ランクが分からんってことは異能スキルも覚えてないんだろ?それについても簡潔に説明していくぞ。

この世界の人間は生まれたときに何かしらの特殊能力を得る。それが異能スキルだ。鑑定する道具によって出た値がそのまま区分になる。だがこの国にEランクはほぼ存在しない。さっきも言ったように処刑対象だからな。」


俺はその話に口を出すことなく無言で聞く。ランクは測定道具に出た値で決まるって言ってたがどこにあるんだそんなもん。もしそれが衆目のある場所ならマジで逃げられないぞ。


「んじゃあ俺はこれから異能スキルを測定するんだよな?どっかに行くのか?」


「ここでやるからちょっとここで待ってろ。道具持ってくるからよ。」


そう言うとおもむろにレグルスは部屋を出ていった。持ってくる?測定道具をか?一個人が持てるレベルで普及してるのか?とか考えていたら思ったより早くレグルスが戻ってきた。その手に掴まれていたのは白紙と黒い指輪だった。これが測定道具?マジで?


「これは識別紙アセスって言ってな。触れるだけで異能スキルを詳細に文字として表示するっていう代物だ。」


思ったより便利道具だったわ。んでこれに触れたら分かるわけね。んじゃさっそく.....ってちょっと待てよ!?これやったらE-バレるだろうが!!

だが目の前にレグルスがいるし下手に動けばそれこそ危ない。観念して俺が紙に触れた瞬間、紙に黒く文字で能力の詳細が黒字で書き出される。もちろん俺があの庭園で見たのと全く変わらない内容で。

レグルスは、識別紙アセスの内容を見た瞬間に頭を抱える。そりゃそうなるよな。さっきまで談笑してたヤツが処刑対象だって知ったら俺もその反応をする。


「アユム......お前のランクE-じゃねぇか。」


「......みたいだな。」


俺はそう返すのがやっとだった。息がつまって声がうまく出ない。。

処刑。その二文字が俺に重くのしかかる。怖くないと言えば噓になる。

でも死を実感したからだろうか?。どこか冷めて、あぁこれで二回目の人生終わりなのかと他人事のように感じていた。

それでもやっぱり、否応なしに叩きつけられる処刑の事実が俺の身体を強張らせる。


「アユム。ランクを隠すぞ。」


「え?隠す......?」


俺は茫然とそう呟く。予想外の言葉に俺はそれしか言葉が出なかった。

レグルスがこっちを見る目は真剣そのもの。レグルスだって分かっているはずなのだ。それが、どういう行いなのかを。

それを承知の上で俺に味方してくれるという事実に胸の奥が熱くなるのを感じた。どうやらまだ生きる手段は残っているらしい。

俺は希望をもってレグルスの話に耳を傾けるのだった。

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