4話 情報より飯の方が美味かった

「ん.......」


目を覚ますと俺は、見知らぬ部屋のベッドの上にいた。どうやらかなりの間気を失っていたようだ。

身体は特に動かないところはない。腕や脚もちゃんとある。

あの熊と遭遇して五体満足で生きて帰れたのもあのイケメン戦士のおかげだろう。


「取り敢えずお礼を伝えに行かねぇとな。」


さすがにここまでしてもらって何の礼もなくさらばはヤバイ奴だよな。まぁそんなことする気なんかはないけどな。

まぁそんなわけでイケメン戦士を探すためにベッドから降りようとしたんだが、壮絶な筋肉痛に襲われ思わずベッドに戻ってしまった。割と今まで感じたことないくらい足と腹筋が痛い。

記憶の中でもかなり久しぶりな筋肉痛に悶絶していると、あのイケメン戦士が部屋に入ってきた。


「おう!目を覚ましたか!お前3日も寝てたんだぜ?よほど疲れてたんだな。どうだ?身体は大丈夫か?」


「はい。お陰様で筋肉痛以外は大丈夫そうです。本当にありがとうございました。」


「まぁそう畏まんなよ!助けたのも偶然だしな。お礼はありがたく受け取っとくが、敬語は要らないぜ?」



3日も寝てたのか俺。その間の看病全部してくれたのか?マジで神じゃん。あの管理者名乗るアレよりよっぽど神じゃん。俺はお礼を伝えつつ自己紹介をする。


「そっか。分かった。えっと.....俺の名前は無止だ。よろしくな。」


「お!アユムって言うのか!俺はレグルス。レグルス・ヴァルディアンだ。よろしく頼むぜ。あ、そうだ。アユム。腹減ってないか?実質3日飲まず食わずだぞ?お前。」


言われてから気付く。今とんでもなく空腹だ。割とヤバメのやつ。まぁレグルスのいう通り3日何も食べてなきゃ当たり前なんだがな。


「飯!!」


俺は気付けばそう叫んでいた。失礼極まりないんだが.....16歳だぞ俺。


「おう!そんだけ元気ならもう大丈夫だろ!待ってろよ。美味い飯作ってきてやるからな。」


レグルスは気にすることなく笑いながら部屋から出て行った。

数分後、レグルスがトレイにご飯を乗せて部屋まで持ってきてくれた。美味しそうな料理の匂いが部屋に広がる。


「レグルス。悪いな、持ってきてもらって。まさかこの歳になって人に飯!!って叫ぶとは思わなかった。」


「んなこと気にしなくていいんだよ。食ったら元気になるもんだ。まぁ口に合うかは分からないけどな。」


メニューは、フランスパン的なやつ二本と、何かの肉のステーキ、それに野菜の多いスープだ。うまそう.......ハッ!危なかった。空腹とか諸々で語彙力が死んでた。

俺は手を合わせて勢いよくステーキを口に放り込んだ。


「いただきます。ん!うめぇ!!」


感想が完全に小学生だが、そんな事がどうでもよくなるくらい美味い。少し癖もあるが濃厚なソースと控えめな塩コショウで食べやすくなってるし、脂もしつこくない程度にマッチしててジューシーだ。


んでこのパンみたいなの。名前は分からないが食感はフランスパンみたいだ。でもあっちの世界よりも柔らかくてそのままでも食べれる。少し塩味が濃いけど、肉と一緒に食うとその塩味がいいアクセントになる。


「おいおい。夢中で食ってくれんのは嬉しいが、喉に詰まらせるなよ?」


レグルスが苦笑いしてる。いや、割と恥ずかしいんだが。俺は頬張っていたパンを飲み込むと、レグルスに色々なことを聞いていく。情報収集もしっかりしておかないとな。


「レグルス。俺はちょっとした事情でこの世界のことが何も分からないんだ。色々教えてくれないか?」


「おういいぜ!」


「いや、その細かい事情は.......ってえぇ!?」


即答かよ!?どう考えても怪しいのに何でそれができるんだよ。いやありがたいけども。


「そんなに驚かれてもな。そりゃどんなヤツにだって話せない事情くらいあるだろ。それを詮索するなんて事しねぇよ。ましてやダチだぞ?疑う余地なんか何もないぜ!」


優しい。しかもいつの間にかダチ認定である。あれ?人ってこんなに温かかったけ?前世で誰にでも、ましてや冷遇されていた俺はこんな事言われた事もなかった。全部俺のせいではあるんだけどな。それでも嬉しかった。

そう過去を振り返っているといつの間にか涙が出ていた。止まりそうもない。

すると俺が泣いていることに気付いたレグルスが心配して声をかけてきた。


「大丈夫か?アユムの身に何があったのかは分かんねぇからあーだこーだ言えねぇけどよ。ダチが泣いてたら、俺も悲しいじゃねぇか。」


その優しい言葉に思わず止まってしまう。人は予想だにしないことがあると固まるらしい。俺は泣いたって人に心配されたことなんかなかった。だからこそ、それをしてくれたことに驚いてる。

出来ることなら全部言ってしまいたい。自分に起きたこと全部。

でもダメだ。そんなことをしてしまえば、俺は”異物”になる。異世界転生した俺はこの世界に本来存在しないから。だから自分の事をダチだと言ってくれる人間にすら明かせないのだ。恥ずかしさ含めたいろんな感情を誤魔化すように俺は野菜スープを飲む。うん。野菜の甘みがよく出てて優しい味だ。

涙をぬぐって気を取り直して、俺はレグルスに質問を始める。


「さっそくだがレグルス。ここはどこで他にはどんな場所があるんだ?」


「そっからかよ。マジで何も分からない状態なんだな。まずこの世界には3つの国がある。一つは俺らが今いるテラモル帝国。まぁ一言で表すなら「実力主義」だな。実力のある者にはそれなりの位が与えられる。実力の基準は後で説明する能力ランクだな。SやEXなら優遇されるし、DやD-なんかはあまりいい暮らしは送れなかったりする。」


「うわぁ。明確な弱者差別じゃねぇか。そんなのがあるのか。」


「あぁ。Eとかに関してはその場で処刑だからな。」


「え?はい?」


「まぁ驚くよな。これを平然と話せる俺ももう行くとこまで行ってるのかもしれん。」


レグルスが沈んだ顔でそう呟く。それに俺は思わずこう返してしまう。


「お前はめっちゃいい奴だろ。その顔はお前じゃなくてその処刑を容認してる国のトップがすべき顔だろ。レグルスはいい奴だ。俺が保証する!.....まぁ会って間もない人間に保障されたって嬉しくないかもしれないけどな。」


んでよ。さっき流したけどEランクって処刑なの?俺ヤバくね?E-とかどう頑張っても即刻処刑エンド待ったなしじゃねぇか。


「........いや。ありがとう。めっちゃ嬉しいぜ!あ、さっき勝手にダチとか言っちまってすまん。」


「何で謝るんだ?俺もレグルスとダチになれて嬉しいよ。」


「.......あぁ俺もだ。めっちゃ嬉しいぜ!んじゃ気を取り直して、あと2つの国もサラッと行くぞ。一つはカリシア王国。さっき話したテラモル帝国....つまりはウチと今もずっと戦争してる国だ。ちなみに、戦争の原因はお前がいた森だ。」


「俺がデカい熊に襲われたあの森か?」


「そうそう。今お前が食ってる熊がいた場所だよ。」


「これ熊肉だったのかよ!?」


いや。美味しかったけども。俺を襲ったあの熊だと思うとどうしても複雑な気持ちになるな。前世では食ったことないが、こんな感じなのか?

俺は会話をしながら少しずつ食べていたため、残りはひとかけらのパンだけだ。それを口に放り込むと、手を合わせてこう言う。ここにそんな文化無いんだろうが、まぁ癖だ。仕方ない。


「ご馳走様でした。めっちゃ美味かったよ。作ってくれてありがとな!んで。何であの森めぐって戦争してんだ?」


「資源だよ。どっちの国も木材が足りてなくてな。テラモルは平等に資源を分配するよう交渉をしたんだが、カリシア王国は応じなかった。それどころか交渉のためにカリシア王国に出向いた使者を死体にして返してくる始末だ。」


「なるほどな。俺は巻き込まれないといいんだがな。物騒な事はまっぴらごめんだ。」


さすがに戦争に介入したくはない。というかこんな雑魚能力で戦場に行っても邪魔になるだけだ。


「それは俺には何とも言えないな。カリシアはこの辺にしよう。

んで最後の国が城塞都市 アーリス・フォートだ。この国はどちらとも貿易もしていなければ国交もない完全独立国だ。今回の戦争も"不干渉・中立のスタイル"を徹底している。俺らは入ることすらほぼないからな。全容はあまり掴めてないってとこだ。」


話を脳内で整理していく。3つの国、戦争ねぇ。何か結構恐ろしい時代に転生したな。一番大事なのは脳力がバレたら即終了ってことだな。そうならないように心の中で祈っていると、レグルスが口を開く。


「んじゃあ次は、異能スキルとランクについてだな。まぁ取り敢えずアユムのランク見るか!」


あぁ神様........どうやら俺の人生の終わりは近いようです.......

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