第6話 解放・始まり

 部屋から持ち出す物はない。部屋の物は王家から支給された物なので、全て置いて行く。


 部屋へ迎えに来た侍従と共に裏口へ回ると、平民の服を手渡されて着替えた。身に着けていた物も髪紐以外は全てその場へ置いた。


 今も監視しているのでしょう?大丈夫。何も持ち出したりしないわ。


 護身術も習ったが、刃物の扱いは含まれていなかったので、身を守る術は少しの体術とアンに学んだスキルだけだ。


 着替えが終わり、最低限の替えの服が入った袋を受け取ると、先導されて裏口から王城を出て荷馬車へと乗せられた。

 そのまま王都の外へと走り出した瞬間、開放感に包まれたが、まだ自由をつかみ取ってはいないと気を引き締める。


 そこからはほぼ無言のまま野営を繰り返し、魔の森を隔てる防壁までは何事もなく辿り着いた。



「ここで待て」


 食料と水袋を受け取り、ここまでの案内人と別れて門の外で一人待っていると。


「このまま森へ向けて進め」


 姿は見えないが耳に響いたその指示に従い、森へ向けて一歩を踏み出す。


 ここから森まで約十キロ。兵士の視線が切れるのはしばらく先に見える林ね。


 草の生い茂る草原の細い獣道をただ真っすぐに進み、林に入りしばらく歩いた処で止まって水を飲む。

 もうここからは防壁は木に遮られて見えない。


「意志は」

「国外に脱出よ」


 スッと気配もなく木の影から、二十歳過ぎに見える一人の女性と中年の男性が一人現れた。


「やっと会えたわね、アン」

「まだ気が抜けないよ」

「ええ、分かっているわ」


 二人には獣の耳と尻尾があるのを冷静に受け止める。

 この国が侵略し、滅ぼした魔の森に隣接した三国の内二つは、獣人の国だったのだ。ただ、現在国内に表立って獣人の姿を見ることはない。


 全く。森へ生き残りを追いやり、降伏させて隷属させるなんて本当にろくでもない王家よね。ましてやそこまでしておいて影としていいように使うだなんて。


 アンの姿を見たのは今が初めてだが、七歳の頃、毎日部屋に一人きりでぼんやりと佇む私に、こっそりと声を掛けてくれたのだ。


「俺は洗脳の掛かりは薄いが、人質を取られている。二人だけで行くのか?」

「ええ。森の淵を抜けて山を越えるわ。必ず王家を打倒するから、待っていて」


 魔の森のすぐ手前には獣人の集落があり、隷属を掛けられた人々によって厳重に管理されている。王家としてはそこで私を監視する予定だったろうが、この三百年で獣人達も隷属のスキルへの対抗策を練っていたのだ。


 隷属スキルを拒むと感知されて人質が殺されるので、薄く表面上だけスキルに掛かる方法を確立させたのだ。


 でも、実際にここでアンと合流出来るかは掛けだった。厳重に隷属スキルに支配されている人が同行していたら、集落へ連れて行かれてたわね。


 その幸運に気を緩めそうになったが、ここからはアンとたった二人で監視に見つからないように魔物と戦いながら魔の森の淵を行かなければならない。

 そこまでして国外に脱出しても、今の王家を打倒しない限り、私は追われたままだろう。


 断頭台へ一歩手前からは少しは遠ざかれたわ。まだまだ自由には遠いけどーーー。


 髪に手を伸ばし、束ねたままの長い髪をアンに差し出すと、無言でバッサリと断ち切られた。


「集落の手前で魔物に襲撃されて死亡、の偽装をお願いします」


 渡された着替え一式と髪の束を差し出すと、力強く頷いてくれた。


 


「さあ、アン。行きましょう」


 どうやっても断頭台へと続く道なら、私なりに歩いてみせよう。道半ばで途絶えたとしても、自分で決めたのなら、後悔はない。




 ここから始まるのは、私達の自由への抗いの旅ーーー。




 

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断頭台の歩き方 ~悪役令嬢などありえない カナデ @usakiki2

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