【06 ネット長文とは】
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・【06 ネット長文とは】
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オフ会の日は二週間後の土曜日ということになった。
それまではいつも通りの日常といった感じ+ガンズに最近の語彙を教える。ちなみにガンズは普通に食事をする。マジか、と思った。
私の行動はもう本当特に意外性も無く、高校へ行ってユーチューブ見て、家へ帰ったらTverの繰り返し。
ガンズは高校では姿を消しているが気配で分かる、一緒にユーチューブを見てるって。
音声はイヤホンなので聞こえていないだろうに、それでも熱心に見てる感じがする。
自宅へ戻れば、すぐさまガンズがパソコンをいじって、ネット長文サイトのログを漁っているようで、ゲラゲラと笑っている。
どうやらブルーバード一丁目はログを残すために、サイト移転をしてくれていたらしい。それをずっと読んでいる。
あまりにも笑い声がうるさいので、
「そんなに面白いの?」
と私が聞くと、ガンズは嬉しそうに後ろを振り返って、
《うん! 面白いよ!》
とまだランジャタイを組む前の伊藤が国崎へ『オマエ、面白いのか?』と聞いた時に国崎が言った『うん! 面白いよ!』ばりの『うん! 面白いよ』だった。多分。
正直文章の、台本の漫才ってどうなの? と思いつつ、
「一番のオススメ見せて」
《瑞華は漫才が好き? それともコント? それかピンネタ? トリオもあるけどね!》
と屈託の無い笑顔でそう言った。
「何かいっぱいあるんだね、でもトリオくらいになると読みづらくない? 三人の文字だけの会話って読むの大変そう」
《大丈夫、ほら、この画面を見て!》
そうガンズに促されるまま画面を見ると、
●●●
あおい「どういうことだよ!」
赤崎山「つまり犯人はバッティングセンス抜群というわけさ」
ミドリ「アイツ! 元野球部と言っていたぞ!」
●●●
《こうやって台詞の前に人の名前がある脚本スタイルだし、トリオの場合は大体ひらがな・漢字・カタカナと視覚で判断できるような名前になってるんだ》
「これならまあ読めるかぁ」
と頷くと、ガンズがこっちへ身を乗り出しながら、
《マジで読んだら面白いから! マジで! 昔のネタだけど今見ても十分面白いよ!》
「じゃあガンズのオススメを見させてよ」
《だから漫才? コント? ピンネタ? トリオ? カルテットも確かあったはず! どれがいい!》
とは言え、読み慣れていない私はできるだけ人数が少ないほうが読みやすいと思って、
「じゃあピンネタにしてよ、小説みたいでまだ読みやすそうだから」
《ピンネタとは通ですねぇ》
そうニヤリと微笑んだガンズ。
いや知らんけども。ピンネタが通とか知らんわ。
《ピンネタならそうだなぁ、アタシが結果を知りたい瓜エアバトルの管理人だったブルースイカのKIN-NICKツクールにしとくか、一応点数高いし》
「ネット長文って点数とかあるんだ」
《勿論! 点数が高い人がオンエア! 点数が低い人はオフエア!》
「……オンエアって何? 実際に誰か演じて放送していたの?」
《ネット長文というのはね! 基本的にオンエアバトルなんだ!》
そうサムズアップしながら言ったガンズ。
いやだから、
「演じて生配信でもしてたの?」
《そうじゃなくて! NHKの爆笑オンエアバトル知らないっ?》
「知らないけども、もしかするとNHKの番組と連動していたの? ネット長文って」
《そんなわけないじゃん! 公共放送と地下の地下のネットだよ! ネット長文は!》
「地下過ぎたらwi-fi届かないだろ」
《当時はLANケーブルだから平気!》
「知らん技術の話をすな、まず爆笑オンエアバトルの説明をしてくれ」
するとガンズはウィキペディアで爆笑オンエアバトルの項目を出してから、
《つまりはこう!》
「説明を横着するなよ」
と思いつつ、私はガンズと席を替わって、爆笑オンエアバトルの項目を読んだ。
十組のお笑い芸人が出場し、点数上位五組がオンエアし、下位五組がオフエア、つまりオンエアされないというNHKの番組か。
爆笑オンエアバトル……あっ、
「ガンズが今さっきも言っていた瓜エアバトルって、オンエアバトルのパクリ?」
《真似していただけ! 尊敬からだよ!》
「つまりオマージュね」
《多分それ!》
なるほど、既存の企画を真似して素人が集まってやっていたということか。
《ちなみに最低得点が85キロバトルで、最高得点が545キロバトルだよ!》
「単位独特な上に中途半端だな、数値が」
《それはみんな思っていたことだから気にしないで!》
「じゃあその点数の高いネタを読ませてくれるということね」
《そう! このネタはブルースイカの割には面白かったんだよ!》
「私情が透けて見える説明ありがとう」
《じゃあKIN-NICKツクールのページ出すね!》
ガンズは手を伸ばしてパソコンを操作して、そのページを出してくれた。
●●●
ボディビルダー2006をご購入いただきありがとう御座います。
このソフトはジムに通わず筋肉を楽々つけることが出来る画期的なソフトです。
自分専用のファイルを作り、数値を変更するだけで理想の筋肉をつけれます。
注意することといえば、いきなり数値を大幅に変更しすぎて、
「お前、突然マッチョになったな……スタントマン希望か?」と言われてしまうことです。
徐々に数値を変更し、自然にナチュラルに……マチョラルになってください。
<注意:
現段階ではまだ、久しぶりに会った叔父さんから
「お前、マッチョになったな……スタントマン希望か?」と
言われないようにするシステムは構築していないので、会わないようにしてください>
『-ボディビルダー2006使用方法-』
-基本の流れ-
1.ボディビルダー2006.exe起動
(定期的に筋肉がピクピクするアイコンが目印です)
2.ファイル>開く
(んっんん~と力みながら、小人マッチョがファイル内をこじ開けてくれます)
3.プログラムの数値を変更する
≪警告:プロテインの数値は変更しないで下さい、栄養バランスが崩れます≫
4.ファイル>上書き保存
(上書き保存が完了するとTシャツが破れた音がします)
-初めてファイルを作る場合-
1.ボディビルダー2006.exe起動
(ピクピクしているときにダブルクリックをしても、何も起きないです)
2.ファイル>新規ファイル作成
(選択すると小人マッチョが野太い声で「新しい友よ!」と言ってくれます)
3.新規ファイルウィンドウに動作が移る
(小人マッチョが嬉しそうにウィンドウの影から微笑みかけてくれます)
4.生年月日、性別、名前を正しく打ち込む
≪警告:正しく打ち込まないと、貴方にあったウィンドウのデザインになりません≫
5.付属の指紋判別装置をUSBに差込み、その装置の部分に親指をつける
(正しく識別されると、小人マッチョが「友……」と感動してくれます)
6.新規ファイル作成完了
(完了するとYシャツが破れた音がします)
-ボディビルダー2006専用掲示板への繋ぎ方-
1.インターネットへ接続
(デスクトップペット界に進出した小人マッチョが期待を込めてチラ見してくれます)
2.ボディビルダー2006.exe起動
(ダブルクリックで起動させると、
アイコンが「鍛えているだろう」と自慢をしてくることがあります)
3.専用掲示板接続を促すウィンドウが表示
(男らしくウィンドウに×ボタンは無く、いいえボタンも故障中のまま放置しています)
4.はいを選択
(小人マッチョが「お前の友は俺の友だからな!」と言ってくれます)
-ボディビルダー2006専用掲示板での基本ルール-
・誹謗中傷を書き込まない
(貴方の小人マッチョがしぼみます)
・自分の数値を自慢し合う
(小人マッチョたちはそれを望んでいます)
『-ボディビルダー2006主なその他システム-』
-ヘルプアイコン変更-
○.ヘルプアイコンとは右上に表示されているキャラクターのことです。
何か動作をする度に声をかけてくれます。
1.システム>ヘルプアイコン変更
(んっんむ~と力みながら、小人マッチョがシステム内をこじ開けてくれます)
2.ヘルプアイコンウィンドウに動作が移る
(小人マッチョが「皆、頼りになる兄貴だぜ」と言ってくれます)
3.ダイナミック柏木・ロナウド山上・リボルバー坂本・ボナンザ・プロテインの中から選択
<注意:プロテインは小人マッチョ専用の兄貴です>
4.ヘルプアイコン変更完了
(完了すると兄貴たちが着ていたジャケットが破れ、低位置に勇ましく移動します)
-プロテイン摂取-
1.インターネットへ接続
(小人マッチョが見透かしたかのように頷くことがあります)
2.ボディビルダー2006ホームページショートカットを開く
(アイコンがみんな大好きプロテインです)
3.プロテイン購入コンテンツを選択
(小人マッチョが「友……」と感動してくれます)
4.貴方のプロテインの数値を読み取り、3日以内に商品が届く
<注意:イチゴ味しかありません、ご了承ください>
5.代金は脇にがっしり挟んでプロテインを運んできたマッチョに手渡す
≪警告:そのプロテインを開け、最初の一口をそのマッチョにあげないとなかなか帰りません≫
■問い合わせ■
株式会社システムマッチョ
住所 東京都杉並区○○ー△△ー□□
兄貴相談室(AM5:00~PM7:00)
××××-02983-×××
●●●
まあ素人が作った割には面白いという感じだ。
でもよくよく考えれば、プロの芸人さんもみんな最初は素人なので、そのプロの卵と思えば割かしマシなのかもしれない。
《どうだった! どうだった!》
何がそんなに嬉しいんだよといった感じにそう聞いてきたガンズ。
「まあそこそこじゃないの? ちょっと古くて分かりづらいところもあったけど」
《いやいや! 瑞華は結構笑っていたよ! 何回か吹き出していたし!》
「でもこの人のこと良く知らないし。仁(にん)の部分が見えないというか」
《そんなこと言ったらアタシだってブルースイカの仁の部分は好きじゃなかったよ! チャットで滑りまくりだったんだから! アイツが喋った後、三分くらい沈黙することよくあったよ!》
「じゃあ私も嫌いだけども、ネタは素人の割に良かったんじゃないの」
《そうそう! あくまでネット長文はどんなに嫌われていてもネタが一番大事だからね! みんな審査は公平に行なうから!》
趣味こそ真面目に、って感じなんだろうな、多分。知らんけど。
ところで、というか、
「じゃあ次はガンズのネタを見せてよ」
《アタシのネタはログが無いんだ……》
そう肩を落としたガンズ。
いや、
「ネット長文サイトまとめ、私も一通り眺めたから分かるけどさ、ブルーバード一丁目とかオニオン・ユニオンというサイトはログあったじゃん。じゃああるんじゃないの?」
《ブルーバード一丁目とオニオン・ユニオンは当時、最もハイレベルな二強だったんだ》
「あぁ、じゃあ全部オフエアだったってこと?」
《違う。怖くて参加できなかったんだ。審査はしたんだけどねぇ》
「趣味で怖いとかあるんだ」
《その点、爆笑瓜エアバトルの管理人・ブルースイカはさ、管理人の実力もそこそこだったし、みんな勝ち狙いじゃない、ホームラン狙いのネタばかり投稿していたから、アタシも気兼ねなく参加できたんだ》
「一応サイトごとに特色があるんだ」
ガンズは溜息をついてから、
《リードモアさんのマジックネタもそこでしか投稿していなくて、ログが無いから寂しいんだよなぁ。面白かったけども断片的にしか覚えていないからさぁ、いや半分以上は覚えているけどね!》
最後何の尊厳だよと思いつつ、私は、
「でもリードモアさんって人もオフ会に来てくれるんでしょ? じゃあ当時のネタを持ってきてもらえばいいじゃん」
《それだぁぁああああああ!》
そう叫んだガンズはすぐさま私の膝の上に座って、ツイッターのDMでそのようなことを送った。
私の膝の上に乗っかったガンズ、少しだけ重さがあって、あと何故か良い香りがした。柑橘系の爽やかな感じ。ちゃんと女性スパイだったんだな、と思ってしまった。
「まあリードモアさんのことはいいとして、じゃあガンズのネタって無いの?」
《現状無いかな》
そう言ってまた私の隣に立ったガンズ。
私も立ち上がって、
「じゃあガンズ、今からネタ書いてよ。パソコンに座ってさ」
《えっ? アタシのネタぁっ?》
「だってそもそもネット長文に未練があるんでしょ? 今は投稿するサイトが無いけどもさ、あったら投稿したいわけなんだから、じゃあネタがあったほうがいいじゃん」
《でも、せっかく瑞華がネット長文を見る流れになったのに……》
「いいよ、私はスマホで見るから」
《スマホで見ててね! 基本的にネット長文ってコンビネタが一番面白いから!》
語気を強めてそう言ったガンズ。熱意あるなぁ。
「分かった、分かったから、読むから」
ガンズは何だかウキウキしながら、イスに座って、パソコンのメモ帳を立ち上げて、キーボードを叩き始めた。
私はベッドに移動して、寝転びながら、スマホでネット長文サイトの過去ログを見始めた。
次の更新予定
ネット長文! 伊藤テル @akiuri_ugo5
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