【05 ケンショウさん】
・
・【05 ケンショウさん】
・
ケンショウさんの返信は一時間後に来た。
意外と早いなと思いつつも、その文面を読んでみると、
『お久しぶりです! ふぬけピザさんだ! 結果は何も覚えていませんが、もしかしたらジオシティーズやインフォシークが無くなる時にページ保存した人がいるかもしれないので、とりま声を掛けてみますね!』
それにガンズは目をハートマークにしながら、
《ケンショウさぁぁああああん!》
と叫んだ。
まあまず覚えていてくれたことも嬉しいだろうし、そうか、ページ保存した人がいるかもしれない、は、良い意味で予想外だった。
ちょっと待っていると、どんどんガンズの”ふぬけピザ”アカウントにフォローが付いていった。
それにガンズが、
《リードモアさんは! リードモアさんはいるかなぁ!》
と言っているが、リードモアさんという名前の人は今のところいない。
まあ名前を変えている可能性もあるので、一先ずここは、
「ガンズ、このフォローしてきた人の名前、全部分かる?」
《いや、この宮本悠佑とか朝顔とかは知らない……ベストマガジンさんは覚えているけども》
「じゃあ名前を変えているのかもしれない、全員にDM送って昔のHNを聞き出そう」
《分かった! そうする!》
私はガンズが覚えている人も含めて、全員にDMを送ることにした。基本的にケンショウさんにリプした感じの文章を送ってみた。すると、次々返信が返ってきて、
『あっ、僕はロストワールドでした! 宮本悠佑は本名です! ふぬけピザさんがチャットで”全員屁!”と叫んだ時、僕マジで爆笑しましたよ!』
『私は恵比寿満開です。そっか、朝顔じゃ分かりませんもんね。すいません。ふぬけピザさんのアイコン、可愛いですね。この顔が屁とか言ってると思うと、さらに面白いですよ』
『うわぁー、ふぬけピザさんだぁー! パリパリ権化です。覚えてますか・俺のこと。当時憧れでしたよ、どこでも屁でしたもんね、オナラは軟弱、屁であれ、は伝説だと思います。それで焼きチキンさんがキレたところも含めて』
『当時は逆張りモンテネグロでした。ふぬけピザさんの屁と書き込んでから花の写真をアップロードするノリ、面白かったです』
『ふぬけピザさんだ! あとはリードモアさんが復活すれば、おぬチャの四天王が揃いますよ! Z-DDさんとカジナロさんはもうツイッターで繋がってますんで!』
何この知らん言葉・知らんエピソードの大洪水。溺れそうになるわ。
ガンズはめちゃくちゃ嬉しそうに眺めているけども、正直私は頭がおかしくなりそう。
こんな追体験はいらない。
私は何か訳が分からず、頭をボリボリ掻きむしってしまうと、頭皮がめくれて剥がれたような感覚がして、
「わっ!」
と叫んでしまうと、何故か私の頭から紙吹雪が落ちてきた。
「どういうこと……」
と何かめちゃくちゃテンションが下がってしまうと、ガンズがそれを見て、
《ププッ! 何それ!》
と言って笑って、ちょっとイラついてしまった。
私は洗面台の鏡の前に移動して、自分の頭をチェックすると、紙吹雪が六枚くらいついていたので、つまんで取った。
一体どういう現象? もしかするとガンズには何か特殊な能力でもあるの? だからって紙吹雪を出すってどういうユーモア? 本当に。
女性スパイとか関係無いでしょ、紙吹雪とは。ガンズもその紙吹雪自体に見覚えがあるって感じじゃなかったし。
まあいいや、戻ろう、と思って自分の部屋に戻ると、なんとガンズが私のイスに座ってパソコンを操作していたのだ。
「完全に実体化してる!」
《こんてぃーは! やってみたらできた!》
「改めて挨拶すな! いやじゃあもう代筆とかも無いじゃん!」
《代筆とかは無いね、いつでもネット長文が書ける!》
「じゃあもう私から離れることもできるんじゃないの? 離れられたらさ、クラスの人気者に憑りつき直すといいよ」
そんなことを言いながら私は試しに部屋のドアを開けっ放しで、玄関のほうへ行き、靴を履いて、とりあえず玄関を開けたまま(振り返ってガンズの様子も見たいし)外に出ると、通行人からギョッとした目で見られた。
あっ、と思いながら振り返ると、そこにはパソコンのほうへ戻ろうと足掻いているガンズがいた。
しかし手足は空を切って、若干浮いていた。
「見えてるし、離れられないし!」
私は急いで家へ戻って、玄関の扉を閉めた。
「見えてるし、離れられないし!」
《それはさっき聞いたよ! 全く! 今みんなとチャットしてたのにぃ!》
「何で離れることはできないんだよ!」
《憑りつくって強いんだね》
そうあっけらかんと言ったガンズ。
いや勝手に憑りついておいて、何ちょっと他人事みたいな感じで。
さっきから変な追体験のせいで腹立ってんだよ!
《まあ今はチャットのターン! チャット! チャット!》
「DMね、誰かグループに入れたんだな、ガンズのこと」
その後、私はとりあえずガンズからイスだけは奪って、座ってガンズの様子を見ていた。
ガンズは嬉しそうに、空中に浮きながらグループDMをしていた。
まあやっとネット長文での繋がりを実感できて楽しいんだろうなとは思う。
でも何で人がいるのに過疎っているんだろうか?
この人たちが全員ネット長文に参加してくれれば、私が仲間を集める必要も無いなぁ、とは思った。
とは言え、これで七人くらい? ネット長文って何人くらいいれば成立するのだろうか。
それも全然分かんないな。分からないといけないのかな、めっちゃ面倒だ……でも、でも、だ、人を集めることが面倒だと思うだけで、そのネット長文という文化に全く興味が湧かないわけでもない。
こんな未練があって復活するくらいなら、ガンズのことを手伝ってやってもいいとは思う。いやこれだとネット長文に興味があるというよりは、ガンズに興味があるという感じかもしれない。
今のところ狂暴そうなところも無いし、変なことは……まあ起きまくってるし、紙吹雪も全然分かんないけども、やってやるしかないのかもしれない、と思ったところで、ガンズが叫んだ。
《オフ会の誘いキタ! どうしよう! アタシ行きたい!》
振り返ってこっちを向いたガンズ。
協力をしてあげたい気持ちは勿論、今、自分の心の中で反芻した通りなんだけども、
「いやガンズがネット長文やっていたのって十六年前でしょ、そのオフ会に十六歳の私がいたらおかしくない?」
《じゃあもうアタシが出現しっぱなしでいくから!》
「ダメだよ! 絶対ダメだよ! ネット長文好き過ぎてもう周りが見えていないじゃん! ガンズはすぐ浮くし、さっきも浮いてたし、何よりも髪の毛! ガンズの髪の毛は風が無いのに常にふわふわしていておかしいんだよ!」
そう、私はまあどうでもいい要素だと思ってスルーしていたが、ガンズの茶髪ボブは常にふわふわしているのだ。
ガンズは自分の髪の毛をサラっと触ってから、
《髪の毛そうなのっ? あっ! マジでそうだ! でもこのチャンス逃せないもん! もうOKしちゃう! OK!》
そう言ってパソコン画面のほうを見たガンズに私は慌てて、
「ちょっと! ダメだって! もうちょい考えよう!」
《やっとみんなに逢えるんだもん! アタシ、女スパイだったからこういう人が集まるところに行けなかったんだもん! 行きたい! 行きたい! いや行く!》
私はパソコン画面を見ると、ふぬけピザのアイコンが吹き出しで『勿論やりましょう! いつでもいいですよ!』と呟いていた。
うわっ、ちょっと、どうしよう……そりゃガンズの気持ちを考えたら行ってあげたいけども、なんとかオトナっぽいメークしていくしかないのかな、いやというか、ガンズをオフ会メンバーに見せれば解決?
それで理解してくれる? いやいや、どうなるか分からな過ぎる、断らせよう、今すぐに。
「ガンズのこと私は説明できないからさ、断ろう」
《大丈夫! アタシを見せれば一発だよ! ネット長文やっている連中はみんな夢見てる状態だからマジで大丈夫!》
「さすがに偏見過ぎるよ」
《マジで大丈夫! マジで夢見てる状態だから!》
「マジで夢見てる状態だったら、良くないだろ」
ダメだ、ガンズの目が輝きまくっている。
こんな状態のヤツにはもう逆らえない。言っても伝わらないだろう。
いや気持ちは分からんでもないけども、こっちの気持ちも汲んでほしいというところはあるし。
何なら一緒にオフ会するメンバーの気持ちも汲んでほしいところだ。
女性スパイでした、死んでます、こういう状態です、じゃないんだよ、本当に。
そんな私の不安はよそに、オフ会の計画は淡々と完成していき、全てふぬけピザさんに合わせるということで、もう新潟駅で待ち合わせすることになっていた。
「というか、そもそも今、新潟県在住の人多いな……」
とマジ呟きをしてしまうと、ガンズが、
《そうそう、昔からネット長文界には新潟県の人多いんだよ》
「何で?」
と率直に聞いてみると、ガンズは振り返ってこう言った。
《人口がそこそこ多い割に楽しい娯楽が少ないからだよ。これと同じ理由でジャンプのハガキ職人に新潟県人が多いと思っているんだ、アタシは》
「めっちゃ嫌な理由じゃん、まあ私も新潟に住んでみて、娯楽施設と次の娯楽施設までの距離が長いと思っていたけども」
《意味無くだだっ広い県だからね、もうちょっと観光施設とかもギュッとしていればいいんだけども》
「というかガンズって新潟県在住だったの? 普通スパイとかって東京とかにいるもんじゃないの?」
するとガンズは高笑いをしてから、
《スパイって結構いるもんなんだよ! だって各都道府県に意外と主要な本社とかあるでしょ! 日本でちゃんと有名なところね! だからアタシは新潟で活動していたスパイで、最終的に日本海へ沈められたんだよ!》
最後自分が死んだ話を笑いながら言うなよ、とは思った。
そっか、スパイって結構いるのか、まあ知らない世界のことだからその話は鵜呑みにするしかないなぁ、と思った。
すると、またパソコン画面を見始めたガンズは急に声を荒らげた。
《きゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!》
「ウッツァシ! どうしたんだよ!」
《恵比寿満開さん! リードモアさんの連絡先知ってるって! 連絡してくれるって! オフ会参加できるかどうか!》
リードモアさん。
多分ガンズが一番思い入れのある人だと思う。さっきから何度かその言葉が出ていた。
正直今めちゃくちゃうるさかったけども、そうなっても仕方ないか、と思いながら、耳の上らへんを掻いていると、また紙吹雪が二枚落ちてきた。
まださっきの残っていたのか、いやちゃんと鏡で見たはずだけどもな、でも本当に何なんだこの紙吹雪。
「ガンズってさ、紙吹雪で闘う感じのスパイだったの?」
《何それ! ジャンプの読み過ぎだよ! 紙を使うキャラは意外と強いじゃないんだよ!》
そう何だかウキウキしながら言ったガンズ。
もうリードモアさんへのウキウキが全部露呈している感じだ。
まあ邪魔しないで、次の展開を待っているかと思っていると、なんとリードモアさんはオフ会に来ることになり、三回ウッツァシを私は放った。
メンバーは福島県在住のケンショウさん、新潟県在住の恵比寿満開さんとパリパリ権化さん、そして群馬在住のリードモアさんとなった。
ちなみに女性がいるかどうかは分からないけども、恵比寿満開さんがちょっと女性っぽい感じだった。アイコンも桜の木の下で微笑む女性だったし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます