【04 ツイッター検索】

・【04 ツイッター検索】


「何か、ツイッターでネット長文って検索する?」

《……ツイッターって何……》

「あー、SNS、って言っても分かんないか。なんというか簡単に始められる日記、ブログみたいなもん。みんなやってるよ」

《そりゃブログはみんなやるでしょ、大体》

「ネット長文の常識は知らないよ、でもまあそれで検索すればすぐに分かるよ。もしかしたらガンズの昔の仲間も見つかるかもよ」

《絶対検索して! リードモアさん! 今もやってるかな!》

 HNっていろいろあるよなぁ、と思いながらツイッターでネット長文を検索してみると、

《いっぱい出てきた! あっ! 日付! これ今日も書いている人いるね!》

 嬉しそうに喋るガンズには悪いんだけども、

「文面見て、これ、ほら、これ一緒で、あとこっちも一緒で、どういうことか分かる?」

《同じこと書くボケ?》

「そうじゃなくて、これはbotというヤツで決められた言葉をランダムで機械が呟いて……書いているんだよ」

《えっ? じゃあこのサイトの主は機械なのっ?》

「そういうことになるね、生きた人間が書いた日記じゃないんだ」

《マジでっ?》

「マジで」

 ガンズのほうを見ると、また開いた口が塞がらないといった感じだ。

 でもまあガンズの気持ちも分かる。

 だってbotの呟き以外で、人が、生きた人間が誰もネット長文と呟いていないから。

 オモコロで検索すると大勢の人がオモコロの感想を書いているけども、このネット長文というのは人っ子一人呟いていないのだ。

 いくら画面をスクロールしても、botの呟きばかり。

 ネット長文の大喜利会botってなんだよ、ネット長文のキャラクター設定というbotのほうならまだ分かる。

 漫才台本やコント台本を『A・B』やら『ボケ・つこ』と簡易的に名前を振っているわけじゃなくて、多分ちゃんと名前を付けていて、その名前の設定を各自付けていたということだろう。

 ただそれのbotというのが意味分からないけども、まあbotって本当にいろいろあるからなぁ。

「あった」

 私はつい声が出た。

 それはネット長文サイトまとめというアカウントの呟きだった。

《あっ! これっ?》

「多分そう」

 と私は答えつつも、何だかbot感溢れているアイコンで、これもbotではと思いつつ、クリックしてみると、プロフィール欄に『botではありません』と書いてあったので、botでは無いらしい。

《誰が運営しているんだろう! リードモアさんだったらいいなぁ!》

 でもどこにも誰が運営しているかどうかは書かれていない。普通プロフィール欄に誰がやっているかIDを張っているもんだけども。

「まあここからネット長文サイトを探ればいいんじゃないの?」

《じゃあまずサイトをクリックして!》

 URLがあったので、クリックしてみると、データバンクといった感じのサイトが顔を出した。

《現在募集中のネット長文企画! そこ押して!》

「はいはい」

 私はガンズに言われるまま、ボタンをクリックしてページが移動すると、そこには驚愕の文字が書かれていた。

 『現在投稿募集中の企画はありません』

 なんとなく私は勘付いていた。

 こんなに誰もツイッターで呟いていないということは、つまりもう、その文化というかコミュニティは無くなってしまったということ……!

《マジでぇぇぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!》

「ウッツァシ! くそウッツァシ!」

《いやぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!》

 でも実際どうするんだ、ネット長文をすることがガンズの成仏条件のはず。

 そのネット長文が無いのならば、もうガンズとは一生一緒に居てくれや、現在は絵本作家の三木道山ということか?

 ガンズは床に膝をつき、崩れ落ちていた。

 もう浮けないんだな、と思った。

 私はイスごと後ろに回して、

「どうするの、ガンズ」

 と聞くと、ガバァッと顔を上げてこう叫んだ。

《ネット長文を復興しよう!》

「ウッツァシ! めんどい!」

《でもそうするしかないじゃん! 瑞華! 知り合いにネット長文しようって言って!》

「知り合いなんていないんだよ! じゃあ陽キャ……クラスの人気者に憑りつけよ!」

《だって過疎ってるって思わなかったんだもん!》

「じゃあこうしよう! ネット長文の、爆笑瓜エアバトルの結果を見て成仏しよう!」

《ネット長文しないと成仏はきっとできないし、その結果のページも無かったじゃん!》

「いや! 当時の管理人のツイッターアカウントを探して声掛ければいいじゃん! というか当時の結果知ってる人だっているかもしれないじゃん!」

《そっか! それはできる! じゃあとりあえずそこからいこう!》

 そう言って何だか元気になってきたガンズ。

 まあずっと暗い顔したあやかしが家に座っているのも嫌なので、元気になったことはいいと考えるか。

 でもさっきガンズが言った『ネット長文しないと成仏きっとできないし』はウザ過ぎる。

 だって復興しないといけないんでしょ? きっと私が一人で。うわー、無理ゲー過ぎる。知らん文化の復興、興味ねぇー。

《じゃあ検索しよう! 当時のみんなのHN全部言っていくから! サルバドールさん! KUさん! 石臼餅さん!》

「いやいや全部言っていかなくていいし、もっと変なHNのヤツだけでいい」

《ちょっとぉ! 変なHNだからって笑おうとしないでよ!》

「そうじゃなくて、変なHNじゃないと検索に引っ掛からないんだよ。ツイッターというのは本当に大勢の人が使っているSNS、ウェブログだから、被りそうなワードは検索しづらいんだよ」

《でもネット長文は全然ヒットしなかったじゃん!》

「ウッツァシ! それは過疎ってたからだろうが!」

《そんな言い方無いじゃん!》

 そう言って立ち上がったガンズ。

 おっ、やるのか、ついにあやかしというか怪異らしい何かを出してくるのか、コイツ、私を呪い殺すのか、と思っていると、

《ネット長文ぅぅぅううううううううううん!》

 と言ってワンワン泣き始めた。

 大人の、元女性スパイが大粒の涙をぼろぼろ流して泣くところ、初めて見たなぁ。

 まさか、本当にこのあやかしには、そういった能力が無いのか……?

 だってここまで感情が高ぶったら何かしでかしてもいいはず。

 でもこのあやかしからは涙を床に落とすだけだ。

 その涙は床に着いた瞬間に、透明になって消えていく。

 そっか、そっかぁ、そうかぁ……そうだな、

「自分の好きだったモノが無くなるのは悲しいもんね」

 そう同情すると、ガンズは、

《そうでしょぉ! そうでしょぉ!》

 と言ってヒックヒックと言い始めた。

 お笑い好きとして、有吉好きとして、その気持ちは分からないでもない。

 まあちょっとくらいはやってやるか、ということで、

「一番変なヤツのHNを教えてほしい」

 ガンズが一生懸命泣き止もうとしていることは分かった。

 んっ、んっ、と喉を鳴らしてから、深呼吸したガンズは真剣な表情でこう言った。

《ドメスティックパンティ侍》

 その眼差しで言う言葉じゃねぇー、とは思ったし、正直シチュエーション的に笑いそうになった。笑っちゃダメなので堪えたけども。

《それかドメパン侍》

 それかドメパン侍じゃないんだよ、と思いつつ、検索すると、確かに呟きが出てきた。

 でもそれは、ケンショウという人の『ドメスティックパンティ侍というハンドルネーム、何だったんだ』というネタツイ文法の呟きだった。

 しかしガンズの声色は変わった。

《ケンショウさんだ! ケン×ショウのケン坊だ! 絶対そう!》

 そうか、この呟きをするということは知っている人ということか。

 これはビンゴだと思って、この人のアカウントをまずクリックした。

 するとトップページのプロフィール欄に『サッカー(いわきFC)/お笑い(ランジャタイ)/料理(冷凍うどんオンリー)』というようなことが書いてあって、間違いなくお笑いに興味がある人ということは分かった。

《ケンショウさんとお話がしたい!》

「じゃあDM送るか、で、ガンズのHNは何? ガンズのHN出さないと訳わかんないでしょ……待てよ、私のアカウント、普通にJKだから一旦ガンズのアカウント作るわ」

《ケンショウさん! ケンショウさん! ケン坊!》

 何か言葉の最後にハートマークが付いているような喋り方だったので、好きなのかな、と思ってしまった。

 改めてガンズのアカウントを作ったところで、

「で、HNは?」

 と聞くと、ガンズはハキハキとした口調でこう言った。

《ふぬけピザ!》

 いや!

「ガンズのHNが一番変だわ!」

《ちなみに、ふぬけはひらがなね》

 でもまあ本当にハガキ職人みたいなHNだなぁ、と思いつつ、名前も設定し、アイコンは適当に花の写真にしとこうと思ったその時に、

「ガンズの写真って撮れるかな」

《撮ってみる?》

 正直外に出て、ガンズが周りの人間に見えるかどうか実験はいつかちゃんとしたほうがいいんだろうけども、その勇気がまだ出ない。

 でも家の中で写真を撮って、それがガッツリ映れば、多分見えるんだと思う。

 というわけで、

「じゃあ撮るから、笑って、3・2・1、はい」

 写真をスマホで撮って、写真を見てみると、本当にバッチリ映っていた。

 ちょっと透けてるとか、ぼやけているとかじゃなくて、がっちり映っていた。

「今はくっきり見えているけども、ガンズって透明になることもできる?」

《う~ん、分かんないけども、一回なんか念じてみるわ》

 そう言って私の目の前から消えたガンズが、

《ちゃんと消えてる?》

 と声だけ発したので、

「うん、消えてる。じゃあ出てきて」

 と私が言うとすぐさまガンズが出現した。

 じゃあもう見えるし、見えないしということか、外に出て実験するまでもないな。

 というわけで、

「この写真をアイコンにするから」

《アイコン? うん、分かった。というか今写真撮る時ってカウントダウンなんだねぇー》

 昔は何だったんだよ、と思いつつ、アカウントもしっかり作ったところで、早速、

「じゃあケンショウって人にDM送るから……送れない、この人、DM開放してない」

《えっ? じゃあおしゃべりできないの! そんなぁ!》

「いや、普通にリプ送ろう。どうせ私のアカウントじゃないし、ここは大胆にいくから。えっと『ネット長文の時にお世話になったふぬけピザです。ちょっといろいろあって、爆笑瓜エアバトルの結果を見ずにネットの無い海外に引っ越してしまったので、結果を知りません。覚えていたら教えてくれませんか?』と、これでいい?」

 呆然としているガンズ。

 一体何なんだろうと思っていると、

《瑞華! 虚構巧いね! ネット長文書けると思うよ!》

「いいよ、そんな褒め方、仲間増やしたいだけじゃねぇか」

《いや、マジで! マジで! あっ! 待って!》

「どうしたの?」

《文字の最初に挨拶の『こんてぃーは』だけ追加して!》

「ガンズの口癖? まあいいや、これでいいね、送信」

《届いたかなっ?》

「いやまあ通知欄を見ていればね」

 果たして、このケンショウという人はガンズの言うケンショウさんなのか。そして結果を覚えているのか。

 まあ結果を覚えていることなんて無いだろうなとは思っている。ガンズは全然気付いていないけども。

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