【03 ネット長文サイト】

・【03 ネット長文サイト】


 岩屋のおばさんからもらったノートパソコンを机の上に置いて、座って、立ち上げた。

 パスワードはパスワードをたくさん書いたノートに書いていたので、大丈夫だった。

 ノートパソコンは正直あんまり使わない。スマホとテレビで事足りるからだ。

 高校進学を機に岩屋のおばさんからネット対応のテレビをもらったので、もうパソコンでTVerも観ないし。

 でもまあこうやって誰かと一緒にネットのサイトを見るんだったら、やっぱりノートパソコンのほうがいいだろうな。

 テレビがネットに繋がっているなら、テレビでもネットサーフィンできるらしいけども、それはやったことないから正直分からない。

 さてと、

「URLとか覚えている?」

 私が振り返ると、茶髪ボブは食い入るようにパソコンのほうを見ていた。

「ノートパソコンとかも知らない感じ?」

《ちょっとぉ、それは知ってるよぅ!》

 そう鈴の音のように笑った茶髪ボブ。

 いや、

「正直アンタがどこまで昔の人間なのか分かんないんだって」

《というかアンタじゃなくて名前で呼んでよ、アタシも君のこと名前で呼ぶから》

「……名前を名乗ったら、完全に乗っ取るとかない?」

《そういうヤバイ亡霊とかじゃないから! なんというか思念体というか、そういう可愛い感じのヤツ!》

「思念体が可愛いとは思わないけども、あやかしってならまだ可愛いけども」

《あやかし、は、今可愛いの?》

「まあ妖怪とか幽霊とか亡霊とか怪異とかよりは可愛いかな」

《じゃああやかし! あやかしでいく!》

「そんな新人漫画家の設定決めじゃないんだよ、編集との会話で決まった事項じゃないんだよ」

《というわけでアタシはTHE GUNS! ガンズって呼んでいいよ!》

 そう右手の拳を力強く握った茶髪ボブ、えっ、

「ガンズ? マシンガンズのファンがマシンガンズ言う時の呼び方じゃん」

《マシンガンズって、えっと、誰?》

「いやタイムマシーン3号もザセカンド出てるし、マシンガンズもザセカンド出てるから知っててもおかしくないんじゃないの?」

《いや……知らない……》

 タイムマシーン3号とマシンガンズってどっちが先輩だ?

 いや待てよ、タイムマシーン3号が早くからテレビ出ていた可能性もある。

 ここはもうハッキリ聞くしかないな。

「今、2023年5月12日だけども、アンタ、というかガンズは一体いつ死んだの?」

《あの任務は確か、2007年くらいかなぁ? 多分だけど》

「いやアンタ! 私の生まれた年に死んでるじゃん!」

《じゃあ生まれ変わりかもね》

「生まれ変わってないじゃん! アンタはアンタのままじゃん!」

《ガンズね、アタシの名前は。君は?》

 一瞬名前を言うことを躊躇した。

 でも家にあるモノを調べたら本名なんて出てくるし、ここで嘘を言って機嫌を後で損なうのも怖いし、もう言うことにした。

「私は竜胆瑞華(りんどうみずか)、瑞華でいいよ」

《分かった! 瑞華ね! 可愛い名前! アタシもそういう名前にすれば良かったかなぁ!》

「そのガンズってコードネームみたいなもんでしょ? 自分で決めたの?」

《これは向こうから言われたヤツ、銃が得意だったからガンズだってさ》

「じゃあ本当の名前は?」

 するとガンズは少し沈んだ顔をしてから、こう言った。

《本当の名前は知らない、最初から組織にスパイとして育てられて、いろはを叩きこまれたから》

 何か聞いちゃいけないこと聞いたかもしれないと思いつつも、知らんがなのほうが強かった。

 じゃあ、

「ネット、というかネット長文なんてしてて良かったの? 情報漏洩とか疑われないの?」

《それは息抜きとして認められていたから。まあネットサーフィンが、だけどね。全部監視されていたよ》

「じゃあそのガンズが書いたおもしろテキストも?」

《主に漫才の台本ね! それも監視されていたけども全然笑ってくれないんだよねぇ! 読んでる時ね! 監視員もネット長文にハマってほしかったんだけどなぁ!》

「まあ面白いモノが好きな人と好きじゃない人もいるしさ」

《でも瑞華はアタシと一緒だよね! お笑い大好きだもんね!》

 そう嬉しそうに口角を上げたガンズ。

 そうか、私を選んだ理由にそこもあったのか。

 私がタイムマシーン3号のユーチューブ・チャンネルを教室で見ていたから。

 まあ確かに自分の知っているお笑い芸人を見ている人のほうが憑りつきやすいか。お笑い好きならなおさら。

 じゃあ、もしかすると、と思って、

「有吉って知ってる? 有吉弘行」

 有吉弘行、私が生まれる前にヒッチハイクで有名になって、でも一発屋で終わり、今復活して天下を獲っているお笑い芸人。

 この有吉弘行のことをどう表現するのか、若干ワクワクしながら聞いてみると、

《知ってるよ、内Pの猫男爵、アタシ好きだったなぁ》

「こっちはそれが知らないけども」

《そりゃ知らないでしょ、昔の番組だもん。でも可愛がられているんでしょ、竜兵さんに。たまにテレビ出る?》

 ……私は固まってしまった、その無邪気な言葉に。

 だって上島竜兵さんはもう……と、俯いてしまうと、ガンズはアハアハ笑いながら、

《出てないんでしょ! 有吉なんて一発屋だもんねぇ!》

 本当は有吉が天下獲ったこと言って驚かせたかったのに、竜兵さんなんてワードをガンズが出すんだから、もうどうすればいいか分からない。

 まあいいや、この話はもういいや、いずれすることにして、

「じゃあネット長文のサイト見ましょうか」

《そうそう! それそれぇっ!》

 ガンズはガッツポーズをした。

 そうだ、とにかくこっちの話だ。というわけで、

「URL教えてください」

《URLは知らないから、サイト名でいい?》

「全然大丈夫です」

《爆笑瓜エアバトルって検索してもらっていい?》

「分かりました、えっと、漢字はこれで合ってる?」

《そうそう! まさにそう!》

 すごく嬉しそうな声を出したガンズ。

 まあ死んでいたのにも関わらず、復活するくらい待ち望んだネット長文だもんな、そういうリアクションしてもらわなきゃ憑りつかれ甲斐も無いし。

 グーグルでの検索結果が出た。

「これ、どれ?」

《……リンク集ばっかりだ、本体というかサイトが無いなぁ……じゃあいいや、まずブルーバード一丁目のサイトに飛んで》

「どれですか」

《多分それがブルーバード一丁目のリンク集のページでしょ、そこから爆笑瓜エアバトルのサイトに行くから》

 分かっていたことだけども、知らん単語がめちゃくちゃ湧き出てくるな。

 言われた通りのところをクリックして、ブルーバード一丁目のリンク集へ飛ぶと、

《んっ? マジでっ!》

 という声を出したガンズ。

 いや、

「嘘サイトとかやめてよ、あんまりちゃんとしたウィルス対策ソフト入れてないんだから」

《いや……ブルーバード一丁目はジオシティーズじゃなかったっけ? URLが》

「知らないよ、そんなこと。でも見た目は合ってる?」

《合ってる、間違いなくブルーバード一丁目のサイト》

「じゃあサイトのドメインを変更したんじゃないの?」

《そっか、移転したのか、それならまあそうか》

「じゃあこの爆笑瓜エアバトルというサイトを押せばいいんだね」

《うん、そうそう》

 とは言え、何か怪しいサイトに繋がったら嫌だなと思いつつも、意を決して押してみると、

《まっ、まっ、マジでぇぇぇええええええええええええええ!》

「ウッツァシ!」

 と私も叫んでしまったが、理由は分かる。

 何故なら『インフォシークはサービスを終了しました』と書いてあったから。

《サイト無いよ! 結果が分からないよ! アタシが死ぬ前に投稿したヤツの!》

「でもまあそういうこともあるでしょ」

《アタシの最高傑作の屁ネタがぁぁぁああああああああああああああああああ!》

「ウッツァシ! あと屁ネタて!」

《そんなぁぁぁああ! 結果知りたいよぉおぉおおお! 結果知りたい! 結果知りたい!》

「でもサイトが無いんでしょ、じゃあもうしょうがないじゃん。そういうことは絶対にあるよ」

《いやぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!》

 甲高い声が耳にキンキンと響いた。

 でも何か普通の人が声を出している感じで、別に洗脳されるような声ではない。

 もうマジで、一般人の断末魔だった。

 私はガンズのほうを見ていると、ガンズは肩で息してゼェゼェいっている。

 だいぶショックなことは分かった。

 でもまあ、

「ネット長文できればいいんでしょ? じゃあ今あるネット長文サイトにさっさと参加しなよ」

 ガンズは悲壮感溢れる表情で俯いていたが、ゆっくりと顔を上げて、

《そうする……》

 と少し虚ろな目でそう言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る