【13 だからこそ見せつける変化】
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・【13 だからこそ見せつける変化】
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……何も起きない、突然のことで呆然としている月夜。
そしてざわざわ喋り出した四人の男子。
「何だったんだ今のー」
「とら? とらだったのかー?」
「いやでもすぐに何か光り出してさー」
「えっ? 神様とかだったー?」
何も起きない、ん、だったら、まあ別にいいけども、というか今、誰の心に反応したの?
私? ラップできそうと思った私? それとも震えている茜? 何か楽しげにずっとリズムに乗っているノキア? じっと月夜のほうを睨んでいるエル?
いやいや月夜とか? あの男子の中の誰かということもありえる。
でも今のところ変化は無いと思ったところで、なんと茜が挙手したのだ。
「もう……腹が立ちました……」
その言葉に嬉しそうにニヤついた月夜。
茜は立ち上がり、ラップを始めた。
●●●
壊滅してるよ、アンタらの脳内 ビッグバン、少年は爽快
ガリガリくん食べている少年 ドッヂボールしている人がいる公園
ガリッと言うと脳細胞が削れ バンッと当たると脳細胞が減るね
全てがリンクしているバタフライ効果 脳の総量が少ないヤツから淘汰
●●●
茜らしい少しSFチックなラップだ。
その独特のリリックに月夜が嬉しそうにジャンプしたその時だった。
”ガリィ!”
なんとこの教室の窓のあたりとその近くの天井が大きな子供にかじられたのだ!
ここは三階、そもそもあんな顔の大きな少年なんていない。でも顔は完全に少年だ。ちなみに上半身の服はTシャツで虎柄。
その少年は嬉しそうにかじった穴から私たちのほうを見ている。まるでガリガリくんを見つめる顔で。
ヤンキーの男子四人組は怯えて、肌を寄せ合っているんだけども、月夜はさっきよりも嬉しそうに、目を輝かせながらラップをし始めた。
●●●
何このリンク、塗り潰すぞインク ラップは疾風、起こす神風
ゲロゲロに吐いた絵 like a 肥溜め 楽しければ声出せ
メロディ付きより新しい光景 憧憬よりも未来を造形
4Dも超えた次元を愛したい どんな時も事件を愛したい
●●●
いやそんな気持ち悪い言葉の入ったラップをしちゃったら、変なことが起きると思った刹那、その外からこちらを伺うデカい少年が、教室を削った隙間に口を近付け、ピンク色のインクと思いたい、本当はピンク色のゲロに見えるようなモノを流し込み、窓際の席は全部その色で染まってしまった。
その少年は笑顔でこっちに対して手を振っているので、それが不気味過ぎる。
汚い匂いこそないものの、やっぱり不快なので、とにかく何かもっと良いイメージの言葉に変えなきゃと思ってすぐさま私がラップし始めた。
●●●
インクはフローラル、良い香りが増す まるでお花、開店祝い繁盛益々
カツカツ・イライラ良くないからね 画策しよう、楽しいことでアツアツ
楽々制覇よりもじっくり成果 経過が大切、しないよ劣化
というかとろとろでいいでしょー ゆっくりいこう、そういう意味でしょー
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するとさっきのインクから桜のような甘い香りが舞ってきた。
これで大丈夫とは思わないけども、窓の外の少年も嬉しそうな顔をしたので、まあ今のところは、と思った。
でも本当マジでこれは誰の心かどうかが分からないと終わんないのでは。今のところはそうだった。
改めて一人一人見ていこう。
この異質な状況に怯えている男子四人は何か違うっぽい。
ノキアがビートにノリノリで、何ならタテノリくらいに乗っていて、ノキアか?
でも最初にこういうことが起きたのは茜がラップしてからだ。世界観も茜っぽさがある。
エルはずっと睨んでいて怖い顔をしている。そんなメンチを切っていいのかっていうくらい。
そして月夜は楽しそうに跳ねている感じだ……いやコイツだろ、コイツの心に反応しているんだろ、それも!
「月夜……さん? 貴方、今、最高に楽しいと思っていますよね?」
「あぁ! 勿論だ! やっぱりラップは最高だぜ! クラップハンズ!」
そう言って月夜が頭の上で、リズムに合わせて手を叩くと、外の少年もそのクラップハンズのリズムで頭を揺らし始めた。その度に教室が振動し始めて、何かもうそのまま校舎が崩壊しそうなイメージだ。
あんまり迷っている暇は無いかもしれない、だからもう、じゃあそうなら言うことってこれしかないでしょ。
「連続でラップさせて頂きます」
「いいぜ!」
そうサムズアップした月夜。
私はラップを開始した。これで終わらせるために。
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結局詩が好きなんでしょー、月夜さん 燦々と笑っているねー
バンバンラップしたいならオススメありますよー YO,YO,YO,
要は一緒に詩の部活に入ればいいんですよー ほほほほー、いいでしょー
ほほほほーと心の音を 聞いたらもう分かるでしょ! 心の友よ!
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すぐさま月夜がラップを始めた。
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やっぱリリック最高、しないぜ退場 というかオマエら強い内臓
血糊を祈りで韻踏んで オナラでラップし肥溜め汲んで
確かに全てはバタフライ効果 しっかり言葉を昇華
というかしたぜ、消化 俺はウンコと答え出す、それはYES!
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万雷の拍手、というか、少年の大きな拍手、耳をつんざくようなデカい音が鳴り響いた。
少年はとろとろに溶けだして、蒸発していなくなり、教室も元に戻った。ピンクの液体も消えていた。
月夜は男子四人のほうをチラリと見てから、
「こんなことでビビるザコとつるんでるより、肝っ玉座ったオマエらと一緒にいたほうが何億倍も楽しそうだぜ! 俺は月夜! 一応ラッパーだ! ヨロシク!」
なんと部室で自己紹介をしていたら、新入部員が増えてしまった。
四人の男子はすごすごと帰っていき、その後、私は一応月夜にはとらさんの説明をした。心に反応して変化する、と。あと他の人たちにはハイテク演劇ということにしている、と。
月夜はこう言った。
「よく分からんが、楽しければいいだけだ!」
いやこの月夜のファースト状況、楽しかったかな?
いやまあそういう世界観が好きだからこそ、あういう変化になったわけだから、月夜としては楽しかったみたいだ。あの変化。
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