【14 スキット(2) 五人のお泊まり会】

・【14 スキット(2) 五人のお泊まり会】


 初めての五人でのお泊まり会。

 ママに一応言ったら布団だけすぐに持ってきてくれた。それはまあ良かった。手伝いに毒素が来たら嫌だなと思ったけども、来なくて良かった。本当に。

 私の部屋のテーブルが丸いテーブルで良かった。ギリ五人で座れている。

 それはそうと、何だか月夜とエルがギスギスしているんだよなぁ。

 エルがキツイ口調で、

「これだからヤンキーは。人の家のコップは大切に扱いましょう」

「ちゃんと壊れないようにしているっつーの!」

「傷つけないように、です」

「分かってるって!」

 と言い合っているエルと月夜に私は、

「いいよ、コップとか安いヤツだから」

 と言うんだけども、エルが、

「いいえ、ちゃんと分からせるべきです」

 と言えば、

「分からせるって何だよ! 俺は猿じゃねぇよ!」

 と言ったところでノキアが、

「アタシは猿、うきききき、で、ごんすなぁ」

 それに対して茜が、

「ごんすなぁ口調なんだっ」

 と優しくツッコんだ。

 ノキアと茜は微笑み合っているし、月夜とエルは何だか睨み合っているし、グループが二つできましたじゃないんだよ、全く。

 やっぱり五人で仲良くしなきゃと思っていると、ノキアが、

「まあゲームでもしますか!」

 と言ってニンテンドースイッチのコントローラーを勝手に持ったその時だった。

 エルが、

「よく分かりませんが、月夜にそういった機械を持たせることは危険だと思います」

 と言い、すぐさま月夜が、

「そんなことねぇよ! マジでゴリラとかじゃないから!」

 ゴリラというワードで一瞬毒素の顔を浮かんでしまい、かなり嫌だった。

 自分で考えたことだけども。

 その刹那だった。

《ほほほほー、とらさんに任せてー》

 そう言ってなんと宙に浮かんで、神々しく光り始めたのだ。

「とらさん! 急にどうしたの!」

 と言っても、もうこの状態になったとらさんが止まることはなくて。

 果たして誰の心に反応してしまったのだろうか。

 何だかもっとギスギスするような何かになったら嫌だなと思っていると、宙に浮かんだとらさんが何だかそのまま巨大化してきて、私くらいのサイズのとらさんになった。ただ手足の比率はそのぬいぐるみ感のままなので、異様に足(腕)が太いって感じになっている。

 いや!

「ただただ可愛いのかよ!」

 と、ついデカツッコミを荒らげてしまい、ちょっと恥ずかしかった。

《ほほほほー、仲良く仲良く》

 そう言って巨大化したとらさんはエルと月夜の手をそれぞれ取って(指は無いのに、どうやって掴んでるの?)握手させようとしてきた。

 それにエルが、

「キャッ!」

 と言って手を払い、とらさんは残念そうな顔をし、月夜は、

「別に俺はジジイの手じゃねぇんだよ」

 と溜息をついた。

 今の感じでなんとなく分かった。

 本当は、月夜はエルと仲良くしたいんだ。

 だからこの巨大化したとらさんは仲良くしたい月夜の気持ちが具現化したものなんだ、と思っていると、月夜が、

「もういいよ、別に仲良しこよしする必要もねぇわ。スキルを高め合うだけの関係でいいし」

 と言ってエルと、巨大化したとらさんはもとより、完全にテーブルから背を向けて、ベッドのほうを向いてしまった月夜。

 ちょっと、正直になりなよと思っていると、巨大化したとらさんが、

《仲良くしてくれないと悲しいとらー》

 と言って瞳にマンガみたいな水玉のような涙を浮かべた。

 それに対してエルがハッとした表情をしてから、

「月夜、とらさんもこんな顔になっていますから、まあ表面上は仲良くしましょう」

 と言った。

 でも月夜は一切エルのほうもとらさんのほうを見ないで。

 あれ? 今度はエルが歩み寄ったということは、本当はエルの心ということ? いやでも月夜の可能性もあるしなぁ、とか思っていると、ノキアが、

「とりま仲良くしたほうが楽しくない? クラッカーとか鳴らしてみる?」

 と言ったので、

「破裂音が何なんだよ」

 と私はツッコんでおいた。

 まあノキアの心に反応したわけではないよな。

 私はなんとなく分かったことがある。

 ノキアのように裏表無く発言する人間の心にはとらさんは反応しないって。

 何故なら気持ちをいつも全開にしているから。

 それもどうなんだろうか、と思っていると、茜ととらさんがあわあわとシンクロしていた。

 その時に私は思った。

 この巨大化したとらさんは茜の気持ちだと。

 茜が二人に仲良くなってもらいたいと思っているんだ、と。

「茜、やっぱりエルと月夜には仲良くなってほしいよねー」

 と言ってみると、茜がうんうんと強く頷くのと同時に巨大化したとらさんも何度も頷いたので、やっぱりシンクロもしているし、絶対そうだと思った。

 だからもうハッキリ言うことにした。

「この巨大化したとらさんは茜の心に反応して、出てきたんだよ。勿論エルと月夜に仲良くなってほしくてね」

 するとエルが、

「まあ茜の気持ちは無下にできませんよね」

 と言って月夜の方向を改めて見て、月夜も振り返ったんだけども、正直目を丸くしてしまった。

 何故なら月夜はめちゃくちゃ笑顔になっていたからだ。

 月夜は嬉しそうにこう言った。

「そっか! 俺のことを思ってくれたんだなぁ! 茜! そんな思われると恥ずかしいなぁ!」

 そう言いつつ、ワッハッハと笑った月夜。

 何だこの月夜の大幅な変化。

 もしかすると、思われ……というか想われ慣れしていないのかな?

「まあ茜がそう言うんだったら、エルとも仲良くしないとな!」

 そう言って隣のエルじゃなくて、対面にいる茜へ、腰を上げて手を伸ばし、握手をした月夜。

 すると茜は、

「わたしと、じゃなくて、こっちです」

 と言ってその握った手のまま茜は手をエルのほうへ動かすと、その月夜と茜の握手ごとエルが手を掴んで、

「まあ茜がそういう気持ちならば、こちらもよろしくお願いします」

 と言い、月夜もすぐさま、

「おう! 俺もよろしくな! さっきは嫌な言い方してゴメンな!」

「いえいえ、わたくしのほうが酷い言動していましたから」

「確かにな!」

「そこはそちらも『そんなことない』でしょう」

 と言って笑ったエル。

 すると茜が満面の笑みになったと思ったら、

《ほほほほー、すぐ解決することもいいでしょー》

 と言って、とらさんは元のクッションのとらさんに戻った。

 戻ったとらさんは茜と月夜とエルの手の上に乗っかって、楽しそうにバランスを取っていた。

 いや、

「さすがに握手ほどいていいと思うから、どきなよ、とらさん」

《とらー、握手綱渡りは止めるとらー》

 そう言ってソファーに大ジャンプして移動したとらさん。

 そこから何だか本当に月夜とエルが打ち解けたみたいで良かった。

 特に月夜が歩み寄るように喋っていたことは正直意外だった。

 何だか五人でワイワイすることも楽しいみたいで、月夜は率先して麦茶を注ぐこととかもやってくれた。勿論丁寧に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る