【12 部室】
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・【12 部室】
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本当は昨日紹介する予定だったらしいけども、私が熱を出して早退したので、今日、火曜日にソレとなった。
「じゃあこれからこの旧3-Fが詩部の部室だから。本棚とか普通にカスタマイズしていいから」
古池先生が後ろ頭を掻きながら説明してくれている。
3-Fの教室はまるで今も使わているように机とイスが並んで置いてあった。何だか掃除も行き届いている感じがする。古臭い感じがあまりしない。蜘蛛の巣というか。
「昔はこの高校も生徒いっぱいいたんだけどもな。まあ空いてる部屋多くてすぐ部室ができて良かったな。私は普通に職員室にいるから何かあったら言いに来なさい。でもそれ面倒だろうからLINEの連絡先交換しよう。これで呼び出せばいいから」
そんな風に先生のこと使っていいのかな、と思いつつも、古池先生と連絡先を交換した私たち。
「卒業したらブロックするから。じゃあな」
と言って部室から出て行った古池先生。
相変わらずゆるいというかなんというか。
部室の鍵は職員室にあるので、部活が始まったら取りに行くという話だ。
まあとりあえず今は鍵も持っているということで、早速改めて自己紹介でもすることになった。
部室には普通に机が並んでいるので、長方形になるように机をくっつけて座って、まず私が立って自己紹介することになった。
「私が一応部長をやらせて頂くことになった御堂霧子(みどうきりこ)です。適当に霧子と呼んでください。詩はぬいぐるみの気持ちを歌ったぬいぐるみ詩を書きます。それ以外は若干攻撃的な詩が好きです。よろしくお願いします」
そう言って頭を下げて座ると、みんな拍手をしてくれた。
ノキアは豪快に手をゆっくり叩き、茜は自分の胸の前で細かく小さく手を叩き、エルは精密機械のように、メトロノームのようにパパパパパパと手を叩いた。
「次はアタシだね!」
そう言って立ち上がったノキア。
「アタシは秋乃! 平田秋乃(ひらたあきの)! アタシは世界中の人を笑わせるギャグ詩を書きます! 笑いの感情揺さぶるぞ!」
と言ったところでエルが、
「じゃああのユーモラスな感じはわざとだったんですね」
「そうそう! アタシはユーモア魂を投げつけるほうなんだ!」
「独特な言葉で有難うございます」
そう言ってエルが一礼した。
ノキアは何故か照れ笑いを浮かべながら座った。
次は、と思って茜に目線を配ると、茜がペコペコしながら立ち上がって、
「わたしは瞬茜(しゅんあかね)と言いますっ。茜と呼んでください。わたしはSFが好きなので、SFっぽい、ショートショートっぽい詩を書きます」
そう言ってから深々と一礼した茜にみんな思い思いの拍手をした。
最後にエルが立ち上がって、小さく会釈してから喋り出した。
「わたくしは文月江梨香(ふみづきえりか)と申します。あだ名はエルと呼ばれていて、わたくしも気に入っていますので、そう呼んで頂けると有難いです。創作物は全押韻するというレトリックが好きです。よろしくお願いします」
全押韻って改めてすごっ、と思ったので、そのことを聞こうとしたその時だった。
「「「「「たのもー!」」」」」
五人くらいの声がして何だろうと思っていると、なんとあからさまにヤンキーみたいな五人組が扉からやって来たのだ。
「やっと部室が一個空いたなー、今鍵持ってるだろうしさぁー」
「作戦通りいこうぜぇー」
「マジたまり場にちょうど良くねー?」
「じゃ作戦通りやっちゃうかー、ちょうど女子四人だもんなー」
そう言って舌なめずりしている男子四人と、一人だけ全く喋らず立っている女子。
ノキアはすぐさま立ち上がって、座っている茜をかばいながら、
「ちょっと! 誰ですか! 誰ですか大臣!」
と叫ぶと、男子四人の頭上には疑問符が浮かんだ。
当たり前だ、イミフな言葉を付け足したからだ。
でも逆にというかなんというか、さっきまで喋っていなかった女子がズイと前に出て、こう言った。
「たまり場、ほしかったんだよね。ここはオマエらの部室とした状態で、この部室を俺たちがもらう」
すると矢継ぎ早に他の四人の男子も喋り出した。
「そういうことだー!」
「たまり場部とかは却下されたんだよー!」
「だからオマエらの部としてもらうんだよー!」
「おれたちが思い立ってから最初に新しく部室を手に入れた部の部室をよー!」
結構分かりやすく説明してくれるな、と思っていると、ノキアがあっかんべーしながら、こう言った。
「ヤだねー! めっちゃ有意義なたまり場部の活動内容書けばいいだけじゃん!」
正論ではあるけども、めちゃくちゃだなとは思った。
向こうの、ヤンキー側の唯一の女子が腕を組みながらこう言った。
「噂によると詩の部活動らしいな、ちょうどいい。ラップバトルでオマエたちを俺が負かす。そうしたら逃げ出すんだな」
するとノキアが、
「負けても逃げ出さない!」
と言うと、その女子は、
「逃げ出すまでディスり続けてやる。俺のラップは殺人マイクだからな」
そう睨んできたその女子にノキアは怯んでしまい、そのまま茜の膝の上に座ってしまった。
その光景を見ていた男子四人が、
「だっせぇー」
「でもそうなるかー」
「うちの月夜は最高だからなー」
「月夜がオススメするミュージック最高だからなー」
最後ちょっと違うだろとは思ったけども、そんなことよりラップバトルという言葉をまず脳内で咀嚼する。
ラップということは歌詞だ、まあ詩とほとんど一緒と言う人もいるし、実際そうだと思う。
でも問題は即興で押韻なんてしたことないということ。
ラップバトルではあんまり押韻しないほうの人もいるって音楽関係のこと調べている時に知ったけども、やっぱりこういう野良でバトルするなら押韻したほうがいいはずだ。
でも多分私はできない、いやもしかしたらエルができるかもしれない、それにノキアだって語彙がおかしいから無理やりいけるかも。
茜のほうを見るとぶるぶる震えちゃってもうどうすることもできないといった表情だ。茜のことはみんなで守らないと。
周りから月夜と言われている女子が中指を立てながら、こう言った。
「じゃあ早速俺から行くぜ、オマエらの心の臓をぶち破ってやるぜ。ケースケ、ビート流せ!」
「HEY YOー!」
キック・スネア・ハイハットだけのシンプルなドラムトラック。BPMは110くらいだろうか。
そんなミュージックが鳴り出して、月夜と言われているヤンキー内で唯一の女子がラップをし始めた。
●●●
詩の部活なんて即死カス 大体の人間は興味無く
むしろポエムはキモイな いらん存在、シコリだ
血糊じゃなくて飛ばすぜ内臓 ザコはさっさと退場
相性は悪くねぇだろ? 詩とラップ なら返せよ、言葉扱う人間ならな
●●●
どうやら八小節で交代になるらしい。
私は目配せすると、エルが挙手しながら立ち上がった。
月夜は「おっ」と言って反応し、エルは一歩前に出て喋り出した。
●●●
ヤンキーのほうが即死カス わたくしたちは退く気無く
むしろ不良はキモイな こんな行為はイモいなぁ
血糊より祈り、使う地の利 憩い濃い実り、向かう瞳
方向はノキア ほら、カッコイイ咆哮を見せて!
●●●
うわっ、二小節全押韻した! やっぱエルって半端無い!
月夜も何だか喰らっているような表情、でもどこか笑っている感じがする、余裕ということ?
普通だったら多分相手と交互にするんだろうけども、すぐさまノキアが、
「はい!」
と言って立ち上がったので、月夜も譲るような手の動作をしてノキアがラップすることになった。
●●●
HEY HEY アタシ、ノキア! ザコはどきな! オマエは屁をこいた!
口からデカい屁! 世界で笑われるくらいの! でもそれがいい!
オナラで笑えば笑顔じゃん! おっなーら! それはもうおたかーら!
女子の屁で笑う世界があればいいね! 勿論ポジティブな意味で!
●●●
月夜は勿論、取り巻きの男子四人も笑っている。
何だか部室の取り合いしているとは思えないほど和やかな空気、になりかけたところで、月夜がニヤっと笑うと、強くフットスタンプをした。
床が揺れるくらいの力強い音に茜は耳を塞いで、そのまま机に突っ伏してしまった。
月夜が大きく息を吸い込んでからラップを始めた。
●●●
悪くねぇな、ビンビンきてるレーダー だからこそ見せつける変化
戦禍ここ挙げる成果、楽々制覇 言葉連打連打、決める天下
メッカにする俺たちのそれが結果 答え、捉えた正面、既に合憲
応援しな野郎ども、当然勝利 興味持たせるのは俺のラップだけ
●●●
小気味よく韻を並べるスタイルで、かなりリズミカルだ。
最後に最初のヴァースの時に言った”興味”に繋げるところも巧いと思った。
でも、この細かく韻を踏むスタイルなら何だかちょっとできそうだと思った。
だから私が手を挙げたその時だった。
私のカバンの中からズルリと、とらさんが出てきたのだ!
「あっ! とらさん!」
と私が言った時にはとらさんは宙に浮きだして、
《ほほほほー、熱い気持ちは楽しいねー》
と言って空気中に溶けだしてしまった。
また何かが起きる! 一体どうなってしまうんだ!
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