【09 噂】

・【09 噂】


 私とノキアと茜は、放課後残って一緒に詩を書いては見せ合うみたいな遊びをするようになった。

 部員が四人になって部活動になると部室が与えられるらしいけども、全員同じクラスなので別にいいやと思っている。

 あんまり人数多いのも面倒だし、と思っていると淳樹が私たちに話し掛けてきた。

「俺さ! 噂とか得意だから知ってるんだけども! 何かノキアたちって文学同好会に憧れているんだってな!」

 それに対して私は、

「いや、全然そんなことないけども。むしろ何か別にいいやと思っているくらいだけども、文学には」

「だよな!」

 と淳樹が元気にそう言った。

 いや早くバスケ部行けよ、と思いつつ、

「何、そんな噂出てんの?」

「出てる出てる! だから文学同好会に吸収合併されるらしいってさ!」

「そんなことないよ」

 と私が普通に言うと、淳樹は頷いて、

「じゃあ嘘だったんだ、この噂! 分かる分かる! 俺って噂を嘘かどうか判断するの得意だから!」

「いやガッツリ聞いてきてたじゃん」

 と言ったところで、廊下のほうからデカい声が聞こえてきた。

「その噂は本当だ!」

 声がした方向を見ると、そこにはガリガリのメガネの男子と、ぽっちゃりして汗をかいている男子と、風紀委員のように真面目そうだけどもちょっとキツそうな女子が立っていた。

 何が本当だよ、本人が言ってるんだから違うだろ、と思っていると、そのリーダー格と思われるメガネの男子がこう言った。

「文学同好会が詩の同好会を吸収合併してやろう! だから文学部の発足だ!」

 茜は何だかあわあわしているけども、私は気にせず、

「いや結構です。それぞれ頑張ってください」

 と言うとノキアが笑顔で拳を握って、ファイトみたいな感じのポーズをとって、

「非公式ライバルですね!」

 と言って笑った。

 何だこの文学同好会と名乗る連中は、邪魔だなと思っていると、メガネの男子が急に声を荒らげてこう言った。

「何が非公式ライバルだ! 失礼な! これは勝負だ! 勝負に値する! ああ勝負だとも!」

 勝負勝負うるさっ、と思った。

 メガネのくせにうるせぇヤツは続ける。

「体育館が空いている時に! 詩の朗読バトルを開催し勝ったほうが吸収合併をすることとする! オマエらに合わせて詩の勝負にしてやろう! ハンデだ! 受け取れ!」

「うるせぇ、黙って」

 つい口に出してしまった私は、その勢いでそのまま喋ることにした。

「別に吸収合併もしたくないし、私たちは私たちのリズムがあるので構わないでください」

「何だ無礼だ! 勝負だ! これは勝負に値する!」

「大方、嘘の噂を流してなし崩し的にしたかったんでしょ? でも全然その噂は誰も興味が無くて、どうにもならず、こうやって言いに来たんでしょ、ダサっ」

「無礼過ぎるぅぅうううううううううううう!」

 そう声を荒らげたメガネの男子。

 すると風紀委員のような女子がこう言った。

「まあ吸収合併とかはどうでもいいとして、親睦会として一回詩の朗読会をしませんか?」

 でもどう考えても、何かこっちが負けの雰囲気になったら吸収合併とか言い出しそうだな、と思っていると、ノキアが、

「親睦会はめっちゃ良いっすね! やります!」

 と勝手に返事をしてしまったので、私は「えっ!」と声を出してから、

「ノキア! 勝手に話を進めないでよ!」

「でもいろんな人と関わることは楽しいことだよ?」

「そんなノキア! 昔はもっと引っ込み思案だったのに!」

「アタシはもう元気にやると決めたの! だって世界中の人を笑わせたいんだからハキハキしなきゃ! これはアタシのその練習! ほらだってこの人も吸収合併とかどうでも良くてって言ったじゃん! 今!」

「でもそれは嘘でこっちが負けた空気になったら絶対言い出すって!」

 と言ったところで風紀委員風の女子が、

「いえいえ、本当に吸収合併とか言いませんし、ね、それでいいでしょ? おたくま」

 と言ってメガネの男子のほうを見ると、

「今あだ名で呼ぶな! ちょっと恥ずかしいあだ名で呼ぶな!」

「いいじゃん、オタクの琢磨(たくま)でおたくまじゃん」

「そういうのは部活内だからいいんだよ!」

 いやあだ名論争なんてどうでも良くて、と思っているとノキアが、

「とにかく! 詩の朗読会なんてやったことないから楽しみだなぁ!」

「いやもうやる気満々かよ!」

 風紀委員風の女子はスマホを取り出して、

「それではそちらの女子さん、わたくしと連絡先を交換しましょう」

「アタシはノキア!」

「わたくしは江梨香(えりか)、エルと呼ばれています」

 すると、おたくまと呼ばれていたメガネの男子が、

「エルはカッコイイあだ名だからいいよなぁー」

 と言って、ぽっちゃりとした男子は汗をかいているだけだった。

 風紀委員風の女子こと、エルは、

「では日取りが決まったらよろしくお願いします」

 と言ってから、おたくまの背中をバシンとかなり強く叩いてから、いなくなった。

 おたくまとぽっちゃりはそれに釣られて出て行った。エルがリーダーだったんかい。

 その話を近くで聞いていた淳樹がこう言った。

「俺! 人集めるの得意だからさ! 日取り決まったら教えてよ! 俺人集めるよ!」

「ありがとう! 淳樹ー!」

 と言ってノキアは嬉しそうに手を挙げて、淳樹とノキアはハイタッチをした。

 その後、日取りも決まったみたいで、本当に詩の朗読会が行なわれることになった。

 私とノキアと茜、それととらさんを交えて、私の家でお泊まり会して、朗読の練習もしたけども、果たして。

 当日になった。

 うちの高校はどの部活もそんなに強くないので、土日とか普通に体育館が空いている。

 まあ働き方改革的に、先生たちもそっちのほうが良さそうなので、良いけども。

 体育館に行くと、人はまばらというか、かなり少ない。

 案の定、淳樹は人を集められなかったらしい。

 でも淳樹とその友達は来ているみたいで、それはまあ別に、まあ、どっちでもいいか。淳樹のことはどうでもいい。

 私とノキアと茜は舞台上から見て左の袖で待機し、文学同好会は右の袖に待機している。

 どうやら文学同好会の人が司会者を連れて来たらしく、その司会者が喋り出した。

「それでは文学同好会と詩の同好会による! 詩の朗読バトルを開催します!」

 私は小声で、

「やっぱりバトルってハッキリ言ってるじゃん、さっきも何か観客の反応で決めるみたいなことおたくまから言われたし。何を決めんのか分かんねぇよと思っていたら、やっぱバトルじゃん」

 と言うと、ノキアが、

「まあいざ何かなったらめっちゃ必死で抵抗するし!」

 と元気に言い放った。

 ノキアの必死の抵抗とか、絶対男子には攻略不可能だろうなと思っていると、私のカバンからまたとらさんが顔を出して、

《詩のバトルなんて楽しみだねー》

 と言って笑った。

 本当は連れてきたくはない。また変なこと起きそうだから。否、絶対起きる。薄々感じてる。絶対起きる、と。

 でも何だかしきりに、特にあの直近のお泊まり会で私だけコンビニへ行って、とらさんとノキアと茜が私の部屋で残ったあたりから、ノキアがとらさんをどこにでも連れていこうとするようになった。

 一体何なんだと思いつつも、そんな思考している時間はあまり無い。

 何故ならもうバトルが始まるからだ。

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