【07 私とノキアと茜】

・【07 私とノキアと茜】


《ほほほほー、みんなの熱い気持ちが分かって嬉しいとらー》

 どこからともなく、天井から落ちてきて、私の机に着地したとらさん。

 とらさんは何事も無かったかのように、嬉しそうに体を揺らしている。形状はいつものクッションのとらさんだ。

 私はとらさんのことをガッと掴んでから、

「あんまり人の気持ちに反応しないの!」

《でも解決したからいいでしょー! 可愛がってー!》

 と手の中で暴れると、茜がとらさんの頭を撫でながら、

「めっちゃ可愛い、ファンタジーでもあり、SFでもあるんだね」

《お目が高いねー》

 と言ってとらさんはより口角を上げた。

 葛葉は立ち上がって、とらさんのことを見ながら、

「何その生き物、大丈夫なもんなの?」

 私はう~んと考えてから、

「一応私の家にあったクッションなんだけどね」

「クッションが勝手に動き出したということ?」

「そういうこと」

「何か、声とか掛けてたの? いやいや、別にそれをイジるとかじゃなくてさ」

 私はまあ嘘ついても、とらさんがすぐに本当のことを言いそうだと思ったので、

「そうだよ、私はとらさんにいつも話し掛けていたよ、だって家に帰ると一人だし」

 と言った瞬間、葛葉は目が飛び出そうなほど驚いてから、

「えっ? 何それ! 母親もいなくなったのっ! あっ! いや! センシティブなこと聞いてゴメン!」

 そう言って頭を下げた葛葉。

 まあ葛葉とは別に仲とかは別段良くないけども私と中学校から同じだから、私が片親なことは知っているしな。

 周りのクラスメイトたちもちょっとざわざわしているから、ちゃんと説明しよう。

「いやいや、別にそういうのじゃないよ。母親が再婚して再婚相手が何か嫌で、あと邪魔にもなるだろうし、一人暮らしさせてもらっているだけ」

 すると葛葉が大きな声でこう言った。

「何それ! 寂しいじゃん!」

「寂しくないよ、慣れてるよ」

「いいや絶対寂しい! じゃあ絶対このとら必要じゃん!」

「いやまあそうかもしれないけども」

 と会話したところでノキアが割って入ってきた。

「はい! アタシも霧子と一緒にいるから大丈夫です! またお泊まり会しようねー!」

 それに対して葛葉が、

「それは絶対したほうがいい! 一人は絶対寂しいから!」

 葛葉とノキアはがっちり握手してからノキアが、

「任せろ!」

「任せた!」

 何この意味無く熱い友情のシーン。でも何か仲が良い感じになって良かった。

 悪いと良い感じなら絶対良い感じのほうがいいから。

 とらさんも何だか祝福するように拍手をした。

 するとクラスメイトが口々に、

「このとらさんって可愛いね」

「いやむしろウチは霧子に刹那的可愛さを感じた」

「分かる」

「というか霧子それなのに香りが良いってウケんね」

「ウケるとかじゃなくて最高だと思う」

「再婚相手とか私も考えたら困っちゃうね」

「ずっとそれを言わずに生きてきたなんて強すぎ」

「つーか頼れだし」

「それな」

「霧子可愛い」

「あっ、おまっ、今言ったな」

「いいじゃん、バレないバレない」

 いや!

「私のことじゃなくて、とらさんのこと言えよ!」

 めっちゃデカツッコミが出てしまった。

 クラスメイトたちは和やかにドッと笑った。

 何このクラス、何だかんだで最高かよ、と思っていると、茜が私へイスに座ったまま近付いて、

「わたしもお泊まり会に参加させてもらっていいかな?」

 すると私よりも先にノキアが、

「勿論!」

 と言ったので、

「そりゃそうなんだけども、ノキアが返事するな! 私がOKの返事する良いシーンだろ! ここは!」

 とツッコんだところでチャイムが鳴った。

 朝のホームルームが始まるみたいだ。

 チャイムから三十秒ほどで古池先生がやって来て、こう言った。

「えー、教師というものは暇だと思われると部活動の顧問をやらされますが、リーコとノキアが新しい部活を始めるそうなので『ここだ!』と思って顧問をやることになりました。何の部活かはのちに二人から聞いてください」

 と言ったところで、淳樹が、

「俺聞くの得意だからもう知ってるぜ! 詩の部活動だろ!」

 と調子良く言うと、クラスメイトが口々に、

「全員知ってるわ」

「淳樹はだいぶ下のほう」

「茜ちゃんも入ったよー」

「淳樹はウザいだけでした」

 と言って、淳樹にだけキツッと思った。

 古池先生は「おっ」と声を出してから、

「ネッカーも入ったか、それはいいな。ネッカーはSF小説とかも好きだからなー。まあ私は放任主義だから余計な口出ししないし、好きにやってほしい、以上」

 と点呼もとらず、ホームルームを終えた古池先生。相変わらず適当過ぎる。その感じが嫌いじゃないけども。

 茜は嬉しそうにニコニコしていた。

 喜んでいるならそれで良いと思った。

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