【05 詩の部活スタート】

・【05 詩の部活スタート】


 次の日、担任の古池先生に詩の部活を作りたいことを告げると、

「待て、それは待て。ちょっと職員室に来なさい」

 と言ったので、ノキアと私で職員室について行くと、古池先生はイスに座って汚い自分の机の上からぐちゃぐちゃのプリントを取り出して、私に渡してきた。

 何だろうと読んでみると、そこには文学同好会と書かれていた。

 古池先生は言う。

「誰も知らないが、文学同好会というものがあって、詩を作るならここと一緒がいいだろう。何故ならリーコとノキアが入れば文学部に昇格できるからな、ここ」

 古池先生は相変わらず、私のことをリーコと呼ぶ。

 というかクラス全員あだ名で呼んでいる。このあだ名ダメ時代に。

 まあ別に嫌なあだ名は何一つもないし、他のクラスメイトには全部一律苗字なので、ちょっと愛されている感もあって私は嫌いじゃないけども。

「文学同好会があるんだ」

 と私がノキアのほうを見ながら言うと、ノキアは首をぶんぶん横に振ってから、

「アタシは一からやりたい!」

 と言うと、古池先生はすぐさま、

「それは分かる」

 と言って私たちを指差した。

 古池先生は続ける。

「だよな、新しいところに入るのって面倒だよな、菓子折りとかうるせぇ文化だよな。だから許可する。ただその話だけはしとかないといけなかったんだ、教師的に」

 教師的に、て。

 古池先生は職員室内の棚に歩いていき、またプリントを持ってこっちへやって来て、

「じゃあここに同好会名とか目標とか書いて、それを私が校長室に渡しに行くから」

 私とノキアはその場で項目を埋めて、そのまま古池先生に渡すと、ニヤリと笑ってから、

「頑張れよ! あっ、でも詩とかって頑張ることではないのかっ? どっちだ?」

 ノキアは大きな声で、

「頑張ることです!」

 と答えると古池先生は、

「じゃあやったれ!」

 と言ってノキアと私の肩を優しく叩いた。

 私たちは教室に戻って、また一緒にくっちゃべっていた。

 私とノキアは席が隣同士なので、イスを近付けて喋っていた。

 すると私のカバンの、何も入れていないはずのポケットから何か音が聞こえ出した。

 私ってマラカスとか隠れて所持していたっけとか思っていると、

《ほほほほー、そろそろ顔見せたいねー》

 ……! とらさんの声だ! 何で! 何でとらさんの声が! 遠隔操作できるスピーカーっ?

 そんなことを思いながら、そのポケットを開けると、そこになんと半分液状になっているとらさんがそのポケットにみっちり入っていたのだ!

《ほほほほー、とらさんも会話に混ぜてー》

「まず何でついてきてるのぉっ!」

 私の大きな声がクラス中に響いて、シーンと静まり返った。

 ノキアが私の視線の先を見ると、

「あっ! とらさんだ! 連れてきたんだ!」

 と言ったので、私は慌てて手を振りながら、

「違うよ! 勝手についてきたんだよ!」

 と言うと、クラスメイトの淳樹(じゅんき)が、

「ハムスター? ハムスターなら俺得意だけども」

 と言って近付いてきた。

 得意ってなんだよ、と思いつつも、ポケットを締めるためのボタンを付けようとするんだけども、とらさんが表面張力のようにもっこりしてしまい、全然ボタンが付けられない。

 何かあの時の、赤鬼の時の透明な膜みたいにボヨンボヨンしている。とらさんの弾力性がすごい。

 淳樹が私のポケットを覗くと、とらさんは両手をスポンと出して、その両手を合わせて、

《どーもー》

 と言うと、淳樹が目を丸くしながら、

「ス! スライムだ! 本物の!」

 と叫んだ。

 その言葉にノキアとは逆隣の席の茜(あかね)が、

「異世界転生系っ?」

 と言うと、淳樹が茜のほうを見ながら、

「そう! 何か黄色いスライム! でも大丈夫! 俺得意だから! 異世界系!」

 茜は咄嗟、というか急に、いつもは静かなのに、

「わたしはSFが一番好きだけども!」

 と訳の分からない返しをした。

 クラスメイトたちはワッとこっちを駆け寄ってきて、うわーどうしよーと思っていると、なんとポケットからとらさんがぴょこんと出てきて、私の机の上に飛び乗った。

 ちゃんと四つ足の状態で立っているが、何だかまだ体がスライム状でとろとろいっている。まさにスライムに四つ足が生えているような感じ。模様はちゃんととらさんしている。

 その姿を見た淳樹が、

「虎かっ? いや虎じゃないのか? 牙も爪も無い……何かすごい、獰猛さが無い……まあどっちにしろ得意だけどもな」

 いつもはあまり大きな声を出さない茜は、

「ちょっとSF感もある!」

 と嬉しそうに叫んだ。

 それを皮切りにクラスメイトたちが、

「何だ可愛いぞ」

「霧子が可愛いモノ連れて来た」

「あの冷徹な霧子が?」

「いや霧子は昔めっちゃ優しかったよ」

「霧子ちゃんから借りた消しゴムめっちゃ良い香りだったよ」

「というか霧子ちゃんってめっちゃ良い香りするよね」

「同じ女子として嫉妬するし」

「霧子ちゃんは高嶺の花って感じがする」

「尊いほうね」

 ……いや!

「私の話じゃなくて、とらさんの話をしろよ!」

 ついデカツッコミをしてしまうと、一瞬間が空いてから、ドッと笑いが起きた。

 何だろうと思っていると、

「霧子ちゃんのツッコミ、的確過ぎ」

「今の間とテンポ、才能感じたし」

「霧子いいぞー」

「もっと良いツッコミちょうだい!」

「何か霧子ちゃん、確変入ったね」

 だから!

「私の話じゃなくてこっちぃ!」

 と言ってとらさんを指差した私は、我に返って、ハッとした。

 いやいや、この謎の生命体を誤魔化さないといけないのに、と思ったその時だった。

《とらさんと霧子とノキアで詩の部活作ったから、みんな入ってねー》

 そう言ってクラスメイトたちへ手を振りながら、三百六十度愛想を振りまいたとらさん。

 それに対して淳樹が、

「し、って、歌詞? 歌詞なら得意だけども。まあ歌も得意だけども」

 それに対してノキアが、

「ごんべんに寺のほうだよ」

 と言うと淳樹が矢継ぎ早に、

「寺かよ、俺神社のほうが得意なんだよな」

 その会話合ってんのかよとか思っていると、クラスメイトたちが口々に言い始めた。

「詩の部活なんて攻めてるな」

「やっぱ霧子ちゃんは感性が独特」

「ノキアもだけどな」

「何か難しいこと始めるんだぁ」

「やっぱ香りが尊い子はちゃうね」

「でも詩って何だか恥ずかしくない? ポエムってヤツ?」

 あっ。

 その言葉に私はピクッと反応してしまい、その台詞を言った葛葉(くずは)のほうを睨んでしまった。

 私と目が合った葛葉は一瞬目を逸らそうとしたけども、またそのまま目が合った状態で、

「いやでもさ、ポエムって中学生で卒業しない? そういう子供っぽいこと辞めたほうがいいよ。せっかく霧子は美人なんだからさ、もっと楽しいことしたほうがいいよ」

 するとノキアが私の手を机の下で優しく握ってきた。抑えてといった感じだ。

 でも、でも、と思ったその時だった。

《いや詩は楽しいとらー、というか楽しいは人それぞれだから楽しいとらー》

 そう笑顔で言ったとらさんに淳樹が吹き出してから、こう言った。

「確かに! 俺もその日見た映像コンテンツに点数付けてランキングにする遊び、めっちゃ楽しいもんな! 点数付けるのめっちゃ得意!」

 茜も頷きながら、

「私もSFが楽しいけど、あんまり共感してくれる人、いないなぁ」

 その言葉に口々クラスメイトが、

「俺はめっちゃ料理好き」

「えっ、意外? 僕大食いだから今度家へ行っていい?」

「マジで、俺のつがいかよ」

「ワタシはめっちゃ香りフェチ」

「じゃあさ金木犀とかヤバくね?」

「わかる! つーかワタシたちつがいやん!」

「アーティストの歌詞を読み解くこと、僕好きなんだよね」

「うわっ、この趣味のヤツいたぁ! アタシも何か分かる! だから詩とかも尊いとか思ったし!」

「自分では作れないけどもさ、読み解くのいいよね」

「分かるし! えっ……ちょっ、軽く何か、放課後とかマック行く?」

「いっ、行こうか……うん……」

 何かどんどんつがいができているし、最後何か恋の予感したし。

 私に対して嫌なことを言ってきた葛葉は少々後ずさりし始めたところで、ノキアが葛葉にこう言った。

「葛葉は何している時が一番楽しいっ?」

「いや……普通に恋とかだけども……」

 と言ったところでノキアが笑いながらこう言った。

「恋なんて相手あってのことじゃん! 自分の機嫌は自分でとれるような趣味があったほうがいいよ! あと恋って本能だから、生物的な本能だから本能に振り回されているってめっちゃ野生だね!」

 その言葉に誰かがボソッと、

「猿かよ」

 と言ったら、葛葉が顔を真っ赤にして、

「猿じゃない!」

 と叫んだ。

 それに対して淳樹が、

「いやいや大丈夫大丈夫! 俺も恋得意だから! ミートゥー!」

 それに対して葛葉が、

「アンタの得意ってヤツ! そもそもウザいの! 黙れ黙れ黙れぇぇええええええ!」

 と声を荒らげたその時だった。

 とらさんはまた宙に浮かび、神々しく光り出して、

《ほほほほー、熱い熱いお気持ちねー》

 と言うと、宙に消えていった。

 ヤバイ、こんな時に私の心が反応してしまったということ?

 こんなクラスメイトがいっぱいいる時に……ヤバイ、ヤバイ、マジでみんな巻き込んじゃう……でも、でもだ、私今何も考えていなかったような……誰かが”猿”と言ったおかげで私の溜飲も下がったしさ。

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