【03 ノキアと詩作対決】

・【03 ノキアと詩作対決】


 一通り、ガハガハ言いながらご飯を食べ終えたところでノキアが満面の笑みでこう言った。

「じゃあそろそろ詩作対決するっ?」

「そもそも詩作対決って何? 一瞬楽しそうと思ったけども、詩で一人で高めていくものじゃない」

「いやいや、アタシはネットの詩作友達とやってるから面白さ分かるんだけどさ、みんなで同じテーマで作って、それを合評するの面白いよ?」

「合評って何?」

 するとノキアは何だかお偉いさんのようにコホンと一息ついてから、喋り出した。

「合評とは、とにかくみんなで褒め合う祭りです」

 そう言って深々と一礼したノキア。

 いや

「そんなコミカルな言葉じゃないだろ、絶対」

「とにかくみんなでここが良かったねーとか評価を言い合うの!」

「饒舌な毒舌とかいない?」

「今はいない!」

「前はいたんかい」

 そうツッコんでおくと、ノキアは拳をグーにして、強く訴えかけてくるような瞳で、

「とにかくそれやろう! 絶対楽しいから!」

「まあ同じテーマで作るのは楽しそうだけどもさ、そういう合評って、最終的に一位とか決まるもんなの? というか何人くらいいでやってるの?」

「ちょっとぉ、霧子ったらなぜなに坊やなんだから」

「そんな親戚のおばさんしか言わない語彙を使うな」

「アタシたちのグループは三人だよ」

 私は少し吐き捨てるように、

「何か少なっ! 絶対何かいなくなってるじゃん! 毒舌が!」

 と言うと、ノキアは照れ笑いを浮かべた。

 何で照れ笑いなんだよ、と思いつつも、

「じゃあ優勝とか決まる感じじゃないね」

「それが決まるんだよ、アタシたちその三人は超紳士だから」

「それはすごいけども」

「で、霧子だって紳士だからきっとタイマンでも決着つくよ」

「まあノキアの詩が私の詩よりもずっと良かったらね」

 そう答えておくと、ノキアは私の両手を握りながら、力強くこう言った。

「で! この勝負でアタシが勝ったら高校で詩の部活作ろう!」

 いや!

「そういう勝利特典決めたら私譲らないわ! 自分の勝利!」

「酷い! 霧子は紳士じゃないのっ? さっきこの話出した時、霧子は露骨に嫌な顔したし、やっぱり嫌なんだ! だからこそ勝利したら!」

「いやいやいや! 絶対詩の部活とかオフィシャルにする必要無いから! 私とノキアが交換日記みたいにやればいいじゃん!」

「交換日記なんてエモい言葉で逃げようとしないでよ!」

「別にエモくねぇよ!」

 でもノキアは止まらない。矢継ぎ早に喋り出した。

「アタシはもっと詩の文化を向上し、かつ、詩を一般的な趣味にしたいの! 何か今だと書いた時点で黒歴史じゃない! それおかしいと思わないっ?」

「それを書いているヤツに言っても『おかしいよね』としか言わないから! でも一般の人は黒歴史って認定するからしょうがないんだよ!」

「しょうがないで終わらせたくない! アタシは全校生徒から褒められたい!」

「承認欲求が高いだけじゃねぇか!」

「だからアタシが今日の詩作対決で勝利したら詩の部活作ろう!」

 私の手を握る圧がさっきより強くなってきたので、

「手ぇ痛い、パワハラ上司になってる」

 と言うと、ノキアが、

「あっ、ゴメン」

 と軽く会釈してから手を離した。

 さっきの謝罪で少しトーンダウンしたけども、ノキアはまだ言う。

「だってアタシ、霧子と一緒に何か楽しいことしたいんだもん……」

 何これ、可愛い過ぎるだろ。

 ノキアめっちゃ可愛い。

 とらさんみたく守ってあげたくなる、と思ったところで、

《霧子が紳士じゃなくても大丈夫だとら、何故ならとらさんが審査するからねー、ほほほほー、いいでしょー》

 と言って食べ物のテーブルから離れてベッドに座っていたとらさんが動き出した。

 それにノキアはとらさんを指差しながら、

「それだ!」

 と叫んだ。

 いや、私はちゃんと覚えている、私はバカじゃないから。

「とらさん。とらさん、さっき詩の部活を作るというノキアを応援するって言っていたよね。つまりとらさんはどんな詩が出てきても、ノキアの勝利にするんじゃないの?」

 と、とらさんを少し詰めるように言うと、とらさんはあからさまにガクガクブルブルと震えだした。

 分かりやすいし、可愛い過ぎる。可愛いに囲まれてるな、私。

 しかしノキアは大きな声で、

「そんなことない! とらさんは不正審査なんてしないよ!」

「いやめっちゃ震えてるし、黒の縞柄の部分も青ざめてきてるし」

「アタシはとらさんを信じる! 逆に霧子はとらさんを信じないのっ?」

「めっちゃ嫌な言い方するじゃん。じゃあもう分かったよ、私もとらさんを信じるから詩作対決するか!」

《ほほほほー! 対戦成立でしょー!》

 さっきまで震えていたのに、もう元気にジャンピングガッツポーズをしたとらさん。縞の色も黒に戻ってる。

 ノキアもそんなとらさんを見て意気揚々といった感じに、こう言った。

「テーマを発表します! 豚の練り歩きです!」

 私はすぐさまツッコミの感じで、

「お題ガチャでやれよ! 何それ! 絶対ノキアの手持ちの詩じゃん!」

「異論は認めません。何故ならこの勝負を仕掛けたのはアタシだからです。主導権はアタシにあります」

《理に適っているとらー》

 いや完全にとらさんはノキアの味方じゃん……また最初みたいに泣き落とすか、否、そんなダサいことを意図的にはしない。

「上等だよ、勝ってやるよ、それでもな」

 私は何だかめちゃくちゃ燃えていた。

 きっとまだ毒素への怒りがあって。

 そのテンションのまま私は詩作を開始した。

 テーブル上の食べ物を片付けてから、テーブルの前の床に座って、タブレットでバリバリ書き始めた。

 食べ物が無くなったところを見計らって、とらさんは私とノキアの間にちょこんと座った。

 やっぱりぬいぐるみって食べ物とか嫌なんだなぁ、とは思った。もしかしたら汚れるかもしれないからね。

 とは言え、とらさんってそう言えば全然汚れが無いなぁ。手垢くらいついていてもおかしくないのに。いやそんなことはどうでもいい。今は詩作だ詩作。


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