第5話
「うわー!!止めてくれ!!」
男は空から真っ逆さまに落ちていた。ものすごいスピードで、さながら獲物を狙位急降下するハヤブサにでもなったような気分だった。
「し、死ぬ、こんなの絶対に…あの仮面のアホ紳士め、今度あったら…」
そう思っていたら、ふと「ギアス」の世界が目の前に広がるのが見えた。逆さまに見たこの世界の景色は、今まで男がいた高層ビルだらけで、山や木々などがまるで見当たらない人工的な景色と違い、果てしない地平線の彼方まで一面緑のジャングルと白い雪を被った山々、そして、東の方に僅かに青い海が見え、明らかな大自然だけの世界だったのだ。
「な、なんだこの世界は。こんな森だらけの世界で俺は生きるのか?」
そんなことを思ってるのも束の間、急速に速度は上がり、男は地面に向かう。そこに、1人赤い髪の男の子が走っていた。
「おい、危ないぞ!そこをどけ!」
男の子に声は聞こえなかった。そのまま男はその男の子に吸い寄せられるようにぶつかった。そして、そのまま気を失った。
どれくらい経っただろうか。
(そろそろ、目を覚そう。あれ、あれ、体が、動かないぞ。なんか、手も足も上手く動かせない。あれ、なんか妙に体が小さくなったような…)
「おい、おい!ハーク、大丈夫か?急に倒れ込みやがって。」
「うっ、痛ッ、頭が…」
「大丈夫かよ?急に起きるなよ。待ってろ!今、村から人手集めてくるからよ!全く、いくら今日が日の出祭りだからって、はしゃぎすぎだぜ。山のモンスターを狩りに行くのは取りやめだな。」
そういうと、声をかけてきた少年は森の中の一本道を村の方へ駆けて行った。
「なっ、俺は、さっき赤い髪のことぶつかったはずじゃ…痛ッ、ちくしょう、頭が痛えや…」
そう言ってふと頭を触ると、髪が目の前に垂れてきて、その髪の色が赤い髪なのだ。
「なっ、なんだ、これ?」
垂れた髪を、手でゆっくりつかみ、片目をつぶって色を確認してみた。
「赤い!赤い髪だ!こ、これはあの時の子どもの髪じゃ…」
髪だけではない。背は縮み、顔に無精髭はなく、手や脚の毛も無く、格好もいつも着ていたスウェットなどではなく、ブーツを履き、ベルトを締め、フードを被り、姿形の何もかもが、以前の世界の自分ではないのだ。
「な、なんだってこんなことが。俺は生まれ変わるとかいうから、てっきり赤ん坊からやり直せるのかと思ってたのに、まさか、この赤い髪の子が俺になるなんて…お、俺はこの子を乗っ取ってしまったというのか…」
男は赤い髪の少年となり困惑した。しかし、それ以上は考えられなかった。何しろ一つの言葉を思い浮かべるだけでも頭が痛くなる有様である。
男は、そのまままた気を失ってしまった。そのうち、先の少年が人を連れて助けに来るだろうと。そう考えて気が緩んだのかもしれない。そして、男の記憶はその間少しずつ、忘却の彼方へと消え去って行った。
赤い髪の少年は名前を「ハーク」と言った。男は「ハーク」という名となり、新しい人生を歩むこととなる。
底辺からの頂点男 美里俊 @Misa1389
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