第4話 選択
「良い心がけです!それならば、お手伝い差し上げましょう。何簡単なことです。私が今からこのシルクハットで「パーソナルカラー」と呼ばれる様々な色見本をお出しします。
そこからあなたが好きな色を3色選択していただきます。
その次に、「ワールドカラー」と呼ばれる色見本をお出しします。そこからもまた3色好きな色をお選びいただきます。
そして、最後に「レリジオンカラー」と呼ばれる色見本をお出しします。これは1つだけお好きな色を選択してください。
それで準備は完了です。終わったら私がギアスへお連れします。」
「分かった。最初の未知を選択することにしよう。」
「んふふ、その意気です。未知を楽しむのです!」
そういう時、紳士はシルクハットに手を入れ、これまた虹色の綺麗なステッキを取り出した。
ステッキで足元をなぞると、様々な色がランダムに登場した。
「さあ、ここから選択してください。」
男が色を眺め選んでるうちに、紳士はあと2つの色見本を作り上げようとした。
男はじっくり悩んだ。
(俺の好きな色…そういえば、小さい頃父さんとキャッチボールしたな。全然球技ができなくて、スポーツも勉強も器用に何でもできた父さんに比べて、俺は何もできなくて、すぐつまづいて、諦めて…そんな繰り返しだったな。
でも、あの時、球が上手く取れなくて、もう嫌だっていつもみたいにまた諦めてミットを外して、泣いたんだ。できない自分が不甲斐なくて。
父さんは、それでも優しくしてくれた。
「今日はよく頑張ったもんな。2時間くらいは頑張れたからな。この前は1時間もいかなかった。少しずつだけど、お前は伸びてるよ。球の速さとかコントロールだけが全てじゃないさ。諦めないで続けてれば、いつか自分に納得もできるようになるさ。」
そう言って、小さい僕を抱えて、背中に乗せてくれた。涙を拭いてふと空を見たそのとき、いつの間にか夕暮れ時で、茜の空に桃色だちたる空、そう曙色の綺麗な景色が広がって、俺は美しいと思ったんだ。
父さんの優しさが、空に吸われて俺を包み込んでるようだった。)
紳士は色見本を全て書き上げた。
「そうだ、曙色だ!俺はこの組み合わせが好きなんだ!だから、俺はこの色を基にして選びたい!」
そういうと、3つの色見本はその気持ちに反応したかのように、それぞれオレンジ(#f9aa8f)、桔梗色(#8ea9f9)そして、ハッカ色(#8ef9de)に分かれた。
「ほう、色見本があなたの気持ちに反応するとは。これは面白い。かなり色に対して思い入れのある記憶があるのですね。
ここにいらっしゃる人は、とりあえず好きな色だとか直感でとりあえず選ぶ方が多いです。その中で、あなたは色に対してのこだわりが強いと見える。
この現れた色は、きっとあなたに選ばれたかったのでしょう。そう言った色はとても強い力を与えることでしょう。」
そう言うと紳士は書き上げた3つの色見本を、まるで子供が遊びや工作を上手くやり遂げたかのように、実に満足そうに眺めた。
「パーソナルカラーは「曙」、ワールドカラーは「桔梗」、そして、レリジオンカラーは「薄荷」。これがあなたの選ぶ色です。いや、選ばれた色ですね。ここまで来ると。
なかなか面白いものを見せていただきました。やはり、未知はどこまでも存在するものですね。」
「これが一体どう俺に影響を与えるんだ?」
「そんなことは分かりません。未知だから面白いのだと、私は鳴き真似するオウムのように繰り返しましでしょう?
私にできるのは、未知の選択肢を与えることだけ。そこからは、ご自身で確かめなければなりません。
私は、未知に遭遇した皆さまが、その先どのように対処し、人生に向き合っていくか、それを見ることだけが生き甲斐ですから。」
「あんた、なんか、性格いいんだから悪いんだからわからないな。もう一度人生をやり直せるのは嬉しいけど、てめえののぞき趣味のために、俺らは上手く利用されてるみたいだ。まるで新しい箱庭の中に放り込まれるみたいだ。」
「でも、箱庭といえども、あなたは勝手に動くことができますよ?私が上から眺めて、塩梅が悪いからと配置を変えたり、取り替えたりなんてことはいたしません。私はあくまで傍観者です。この先、あなたのお手伝いをすることは一切ありません。あなたに一切非がないのに、良心などまるでない悪党に襲われたとしても、それを助けることはいたしません。
あなたの人生はあなたが切り開くのみです。私は、その再開の手助けをした。
あなただって、あのまま底辺の人生を終えたかったのですか?生まれ変わりたいと何度も願いませんでしたか?私は、その願いを叶えたと言っても過言ではありません。
なので、あなたが新しい人生を歩むのを意地悪く見たとしても、それはWin-Winの関係なのではないでしょうか?」
男は何も言い返せなかった。その通りだったからだ。自分は社会の底辺にいる人間だと思っていた。他に不幸な人間などいない、ここまで生きることが辛い人間がいるわけがないと思うほどに、ペシミズム的な考えで、むしろ、そういう悲劇の主人公を気取る考えこそ、男の自己承認欲求を満たし、自分が不幸であればあるほど嬉しいくらいに、現世に生きることに屈折していたからだ。
「チャンスを与えられたから、その分生きてその姿を晒し出せってことか。はん、そうだよな。俺みたいな底辺で死ぬと思ってたやつがこんなチャンスを得られるなんて、ものすごい幸運だよな。分かったよ。見せてやるよ。俺がどんな人生を今度は歩むか!今度は、前よりは少しはマシにしてやるさ!」
男は拳をグッと握り、胸の高鳴りを感じた。
「心持ちも充分溜まったようですね。では、出発しましょう。あっ、その前にこれを最後贈り物として渡しましょう。」
そう言うと紳士は、ポケットから丸く綺麗に磨かれた石のようなものを取り出した。
「これは?また虹色だな。」
「ええ、これを大切にお持ちななさい。きっとあなたに役に立ちます。いいですか。成長とは糧です。あなたの成長が、世界を変えるのです。たかだか1人の力でなどと思わないことです。世界は1人1人の力で変化するのです。
これは、そのことを忘れないためのお守りです。あなたが成長するたびに、そらに何かが起こるでしょう。」
「ふーん。まあ、貰えるものはありがたくもらうけどさ。」
紳士は、石を巾着袋に入れ、男に渡した。
「さあ、いよいよお別れです。」
そう言うと、紳士はシルクハットを上に回すように飛ばし、みるみるハットは回転を速め、ハットが見えないくらい速く回り出すと、光が男を照らしだし始めた。
「さあ、行ってきなさい。新しい世界へ!」
男は、おかしな紳士だと思っていたが、いざ別れるとなると何故だか別れ難く思った。
「あ、ありがとう!俺なんかにもう一度チャンスをくれて!なあ、最後に聞きたいんだけど、あんた、名前、なんて言うんだ!」
男は光に姿を徐々に飲み込まれていった。微かに紳士の声を聞いた。
「私の名前は、「虹色紳士ユピター」。そちらにいってもお元気で!」
ユピター。その名前だけを意識に残し、男は新たな世界へ旅立った。
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