万引き不良少年をスーパーの店長が諭す話
タヌキング
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やっちまった。スーパーで万引きをしたら、そこの店長に右手首を強く握られた。
「ポケットに商品入れたよな?」
野太い声で熊みたいに大柄の男。歳は30代後半というところだろうか?
だからといって不良としてビビるワケにはいかない。俺は睨め付けてやった。だが店長はそんな俺を無視して、俺の右手を引っ張って、俺をスーパーの奥へと連れて行った。
机とパイプ椅子の置いてある狭い休憩室みたいなところに入れられ、仕方なくドカッとパイプ椅子に座る俺。このドカッが引っ張られたことに対するせめてもの反抗である。
店長は机を挟んで俺の対面に座り、ギョロっとした目で俺のことをジーッと見ながらこう言った。
「盗んだ物をテーブルの上に置け」
普段はヘコへコしているだろうに、こういう時だけ強気に出るのだからムカつくぜ。俺は仕方なくポケットに入れていた缶コーラと、さけるチーズを取り出してテーブルの上に置いた。
「また、しょうもないもん取りやがって、今からお前の親に連絡するから連絡先教えろ」
この時は少しばかり抵抗したが、店長は乱暴に俺のスマホを取り上げて連絡先を確認し、ウチの母ちゃんに電話した。
電話越しに聞こえる母ちゃんの「すいません」という声には、流石の俺も申し訳なさを感じてしまう。
喉が渇いて小腹も空いていたから万引きすることにしたのだが、こんなことになるならしなければ良かったと後悔した。
すると、電話が終わり俺を見た店長がこんなことを言ってきやがった。
「なんだずいぶん大人しくなってよ。もしかして万引きしたこと後悔してるのか?」
「うるせー‼ぶっ殺すぞ‼」
ドン‼と机を蹴って威嚇する俺。しかし店長は眉一つ動かさない。なんだかそれが無性に腹立たしかった。
「イキるなよ高校生。背伸びしてるのが可愛く見えるぞ」
「あん‼」
頭に来た俺は机に乗り上げて店長の胸ぐらを掴もうとしたが、店長は片手で俺の両手を力強く払いのけてしまった。痛ぇ……コイツ絶対に何か格闘技やってたろうな。
「ヤンチャなのは結構だけどルールは守れ、あと無謀な戦いはするな。それこそ、あとで後悔するぞ。今回のことは学校には言わないでおいてやるからよ。まぁ、次やったらアウトだが」
「フンッ、恩を売るつもりかよ。そんなことしたって意味ないぜ」
「別にそんなつもりはねぇよ。ただよ、お前が馬鹿するたびに、お前の母さんが苦労するぜ。母子家庭なんだろ?」
「か、関係無いだろうが‼」
「そりゃ関係無いかもしれない。だが世間の目は冷たいぜ。お前が何かやらかせば母子家庭のせいにされて、お前の母ちゃんが批判されるわけだ。独身の俺からしたらお前みたいなのを育てて高校に行かせてるだけで偉いと思うけどな」
痛いところを突いて来る店長だ。腹立たしいのに何も言い返せない。
「そんな偉い母ちゃんに苦労かけるな。すでに母ちゃんはキャパオーバー気味なんだから、お前は勝手に大人になれや。やったらいけないことぐらい分かるだろ?さっきと似たようなこと言うが、お前の意志と関係無く、お前が悪いことすると周りから母ちゃんが悪い様に言われる。それはなんか俺もおかしいと思うが、社会がそう言う風潮なんだから仕方ない。母ちゃんに迷惑かけたくなかったら不良なんかやめちまえ」
「……」
相変わらず何も言い返せない俺。頭ごなしに怒鳴りつけて来る大人とは違い、この店長は親身になって考えてくれてる様な気がする。不良をやめろと言われて簡単にやめたくはないが、一度深く考えてみるのも良いのかもしれない。
それから暫く二人の間に会話は無く、店長が安い缶コーヒーを差し入れで持ってきて、無言でそれを薦めてきた。万引きした俺にコーヒー奢ってくれるなんて意味は分からなかったが、喉がカラカラだったので非常に助かった。
“タッタタタ”
小走り気味の駆け足の音。聞き間違えるわけ無い、ウチの母ちゃんの足音である。
店長に諭された後で、母ちゃんにどんな顔を見せれば良いか分からないが、とりあえず最初に謝ろう。それは至って当たり前のことなのだろうけど、俺はその当たり前が出来ていなかったのだから、我ながらバカだなぁと思った。
万引き不良少年をスーパーの店長が諭す話 タヌキング @kibamusi
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