我らの青春工作戦記
イトウ
第1話
卒業式を終え、皆それぞれ教室を出ていく。談笑する者、涙ぐむ者、新生活へ期待を膨らませる者。どれも、中学校生活最後の一日として、華々しいフィニッシュである。
しかしこの僕はというと、校内ではまともに人と話さず、三年もいれば友達の一人や二人はできるというグラヴジャムンくらい甘い考えは持つも、それは入学後1週間もすればすりりんごくらいすりつぶされていた。部活も、とりあえずサッカー部に入っていたものの、部内のパッションで僕のガラスの精神は溶け、中学二年生の冬からは全く顔を出していない。中学校でのカーストを決める足の速さと勉強の出来はともに中の上といったところであり、この僕にしてはよくやったと思うのだが、注目も浴びない、どちらかといえば追う側という、なんとも切なく、屈辱的なフィニッシュで壇上を降りた。無念である。
だがしかし、そんな僕にも新生活が保障されている。県内有数の進学校と呼んでいいのかわからないが、県立三木野高校の進学コースに受かったのである。これは僕にとって最高のスタートである。
かのゲーテは言った。「我々は過去には何も変えられないが、未来は我々の手の中にある。」と。
僕は三木野高校一年生として、可憐な学校生活を描くのだ。
「今の君じゃ無理だね」
その一言は瞬く間に僕をファンタジーから現実にCMの掃除機の如く吸い上げた。
「まず、君は会話を始める時、自分から進んでしてるか?もしできたとして、会話を長続きさせる努力はしてるか?それに…」
「一旦、ストップ、ね?これ以上は僕の自信を削るだけだから、ね?」
危なかった。もう少しやられていたら僕のライフはもうゼロであった。
今、僕が話している相手は最上朔。僕の小学生時代からの友人で唯一の親友。中学は別だが、今もこうして一緒に話をできる友人がいるのは僕にとって奇跡中の奇跡と言っても過言ではない。かといって、当の本人は友達百人以上できてると、風の噂で聞いており、僕もそのうちの一人で最上は本当は僕のことを親友だと思っておらず、ただ僕の一方的な情の押し付けなのではとときどき思って、卑屈になって、短時間のノイローゼ気味になってしまうということが多々ある。おっと、話がずれてしまった。
つまり、彼はいわばコミュニケーションのプロフェッショナル。僕は情熱大陸やクレイジージャーニーの取材スタッフのごとく、密着して質問しているのだ。
「あっ、さっつんからラインだ。」
やはりコミュ力の化物、最上朔はどんな時でもラインやインスタ、はたまたツイッターなど様々なメディアから通信が絶えない。僕が朔の家に上がってからメールの返信と僕の質問に対する回答をマルチタスクで行っている。僕が彼の立場ならおそらく既読無視をしまくって、メディア上ではもちろん、現実での評価もダダ下がり、友達だった人が増えるばかりという光景が目に浮かぶ。本当にすごい。
「それで、友達を作るにはどうすればよろしいのでしょうか?」少し申し訳なさそうに聞いた。
「まずは会話の手札を増やす。カードゲームでも、まず手札がないとゲームを始められないだろ?だから、それを増やしておけば、いろいろな状況に対応する準備ができる。そして、会話する時は自分から。自分の舞台に引き込むことで会話を自分有利に進めることができる。人は誰か突っ込まないと心を開いて会話してくれないからね。次に、会話を長続きさせたり、深めたりするために増やした手札を用いて会話を進める。大事なのは調和。自分勝手に進めるのはだめだ。特に初対面の人は要注意だ。第一印象はけっこう大事だからね。最後に、会話は全てが今後のフラグだったり、ミスリードになりうる。会話はいつでも工作戦ってことを覚えておけ。」とこんな感じのことを返信しながら言っていた。これがコミュ力の化物の全貌か。
しかし、よくよく考えてみると、小学校では人と話していたものの、友達になった瞬間とはどのようなものか忘れてしまったし、中学校では前述の通りである。そこで、
「つまり、どうすれば会話できるんだ。」と聞いた。
このときの最上朔の顔は一生忘れることはないだろう。いつもの爽やかイケメンなご尊顔の穴という穴がかっ開き、出てきた言葉が、渾身の
「は?」である。僕は真面目に聞いたつもりなのだか、コミュ力の化物にはそれが兎角亀毛であったらしい。
「君は人と一対一で話しても聞く気がないのか。」と、飲んでいた炭酸をガンと置いて、割と語気強めで言われた。これはまずい。誤解が生じた。
必死で先ほどの考えを伝え、弁明したが、それでも、朔には伝わらなかった。
「君にないのは会話をする勇気だろ?」
我らの青春工作戦記 イトウ @itou08
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