第6話

 オレのゲーム実況コラボは、案外みんなに見られてたらしい。2学期が始まり、久々に登校した学校で、色んな人らに「見たよ」って言われた。

 放送部でも言われた。

「すげー楽しそうにゲームしてたなー」

 って。

 あれは台本無しなのか、録音設備は、マイクは……って方向に話題が進むのは、さすが放送部ってとこだろうか。

 理音とのトーク動画を誉めてくれたのも、放送部の面々だった。

「あの台本、よかったね」

「あれ100%モリーさんだろ? 特徴出てるわー」

 そんな風に、台本を評価されると嬉しい。放送部の活動って、アナウンスだけじゃないし、台本や演出も結構大事だ。


「トークはもう撮らねぇの?」

「どうかなー」

 オレとしてはライブも含め、十分やりたい気持ちはあるんだけど、オレだけがやったって意味がない。やっぱり花咲&モリーは花咲Pあってのチームだし、理音次第だなと思った。


 その理音はっていうと、始業式の日にポータブルの録音装置を持って来て、オレにマイクを突き付けた。

 何かと思ったら「これ」って久々のホワイトボードを見せられる。

――声録(と)らせて――

 そんな言葉の下に書かれてたのは、「でっかい花火を上げようぜ」と、「ばーびーぶーべーぼー」「ざーじーずーぜーぞー」「だーぢーづーでーどー」っていう、イマイチ意味の分からない内容だった。まあ、録(と)ったけど。

「何これ?」

「サンプル」

 オレの問いにぼそっと答え、さささっと廊下を戻ってく理音。

「えっ、今の何? 誰?」

 クラスメイトに訊かれても、まさか花咲Pだって答える訳にもいかないし、「さあ」と首をかしげるしかなかった。


 サンプルってことは、ボイスサンプルなんだろうか? まさか前に言ってたモリロイド? オレの声で喋る理音は、想像するとヘンテコでおかしいけど、やっぱり萌えない。

 というか、わざわざ録音装置持って来て学校で録らなくても、頼まれれば理音ちに行ったのに。雑音キャンセルできるのか? もしかして遠慮したんだろうか? バカだなぁと思ったけど、そういうとこ相変わらずだなぁとも思った。


 そんなこともありつつ、ついスルーしてしまってたのは、部活が忙しくなってたからだ。

 二学期には運動会もあるし、文化祭もある。どっちも放送部としては花形のイベントだから、既に準備も始まってる。加えて、毎日のお昼の放送だってある訳だし、そっちに気を取られてた。

 理音とはクラスが違うから、偶然でもなければ本当に顔を合わせることもない。


 花咲&モリーとしての活動を、ないがしろにしてたつもりはなかった。けど、直近の自分の動画っていうとゲーム実況のになるから、そればかりを見返してたのは事実だ。

 だから――。


「そういえば、花咲&モリーって、解散なの?」

 と、放送部の女子に言われた時、思わず「はあっ!?」と大声が出た。


「でも、そんな噂になってるよ?」

「ねえ」

 うんうんと別の女子らにもうなずかれ、急速に胸が冷えて行く。

 噂なんて、初めて知った。どこで誰がって思ったけど、どうやらネットでのことらしい。

「だってモリー君、最近ゲーム配信ばかりだし、花咲Pともつるんでないしさー」

「花咲Pの新曲も、お昼の放送で流さないじゃん」


「新曲……?」

 ギョッとして呟いたけど、それは楽し気な笑い声でスルーされた。

「あの曲、いいよね。ぐっと来る~」

「そうそう、歌詞は勇ましいのにね」

「ゲームの世界に向かうモリー君を見送る歌、まんまっていうか」

「それな~」


 女子らの会話に男子部員らも入って来て、わいわい話が盛り上がる。けど、オレは全部聞いてはいられなかった。

 どういう状況なのか、理解できなくて混乱する。

 チーム解消の話はなかった。けど、新曲ができたって話もなかった。新曲できたら連絡してくれって……オレ言ったよな? 言ってないか? 理音との最後の会話は何だった? 始業式の時にオレの声を録るって言ってたその意味は?

 どきどきしながらメッセージアプリを立ち上げて、理音との最後のやり取りを確認する。

 それは、夏休みの終わり頃の日付で。


――モリー君、最近どう?――

――お陰様で充実してるよ、すげー楽しい――

――じゃあ、しばらくはゲームやる?――

――そうだな――


 あの時、何も考えずに返事した言葉が、今更のように胸に突き刺さった。

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