第5話
花咲&モリーとしてじゃなく、モリー、つまりオレ単独に対してコラボの依頼が来たのは、お盆を過ぎた後だった。
夏休みも後半に入り、宿題の最後の難関、読書感想文をどうやってやっつけようかって考えてた頃のことだ。
音楽動画もトーク動画も、どっちも花咲Pの元々のアカウントでアップしてたから、オレ宛のオファーも理音がまず受け取った。
――モリー君にゲームのオファー来てたよ――
そんな短いメッセージに、DMが添付されて送られて来てビックリした。
ゲームの生配信へのオファーっていうのにも驚いたけど、そのDMをくれたのが、オレがフォローしてる有名実況者さんだってことにも驚いた。
どうやら、理音とのトーク動画の中で、ゲームについて語ってたのを聞いてくれたらしい。
凄い人気の凄いプレイヤーさんなので、ゲームに誘って貰えるのは光栄だ。
一応、理音にも訊いてみたけど、「別にいいよ」ってことだった。
「オレもそろそろ作曲に力入れたいし、トーク、キャラ作るのしんどいし……」
「しんどいって言うなよ」
思わずツッコミを入れたけど、思いっ切り目を逸らされた。まあ、確かに無理強いはよくない。オレだって花咲Pの音楽は好きだし。作曲したいって言うなら、邪魔はしたくないなと思った。
そうして初めてお邪魔した、ゲーム実況者さんの自宅スタジオは、理音の半地下とはまったく違う雰囲気だった。
音響設備も録音設備もなく、マイクの種類も違う。ゲーミングPCのモニターは程々のサイズで、ゲーミングチェアがやたらと高級そうなのに驚いた。
コントローラーも、特別にカスタマイズされた高級品らしい。
音楽家とゲーマーって、金をかけるとこがこんなに違うんだな。そんなことも改めて知った。
ゲーム配信中心だから、喋りっぱなしではあるけど台本なんかも特にない。
「僕が時々話を振るんで、適当に喋ってください。リラックスして、そんな気負わなくていいですから。ゲームしましょう」
にこやかに言う様子は、まんまゲーム配信の時と同じで、さすが慣れてるなぁと思った。
大人だ。そうか、プロゲーマーって、プロなんだな。
「こんにちはー、ゲームの時間へようこそ。今日は特別ゲストをお迎えしてます。モリーさーん」
「はい、初めまして、モリーです。今日はよろしくお願いします」
そんな感じで始まった配信、台本無しで適当に喋る、しかもゲームしながらでっていうのは、かなり難しい。けど、それ以上に楽しかった。
理音とのトークも勿論楽しいけど、あれはほぼオレの台本通りだし。オレがリードしなきゃっていう気負いもあって、楽しむ余裕はなかったかも。
でも、この配信はゲームがメインだ。会話に詰まっても、会話になってなくても、途中で奇声を上げたって、別にどうってことはない。
「モリー君、次失敗したら歌って貰うよ」
そんなプレッシャーにビビッたのも最初だけで、逆にライブ視聴者さんらから「失敗しろー」とか「失敗しなくても歌ってー」とかコメントが飛びまくって、感心しっぱなしだった。
そうしてる間に、200円、300円と少額の投げ銭が飛び交って、コメントリストが大きく動く。
慣れた様子で「どうもー」って雑に礼を言ってるのも、さすがプロだなって感じがして凄い。オレの知らない世界だなと思った。
夏休みが終わるまで、その配信へのゲスト参加はずっと続いた。
毎日呼ばれてた訳じゃないんだけど、配信は毎日あるので、ゲストに参加しない日も見てた。
元々持ってた、オレ個人のアカウントから動画にコメント入れたりして、一視聴者としても楽しんだ。ゲスト参加へのオファーも、オレのそのアカウントに直接くれるようになって、理音を煩わせることもない。
夏休み前半は理音ちに入り浸り、夏休み後半はゲーム実況に入り浸って、例年になく充実した夏を過ごせたんじゃないかと思う。
――モリー君、最近どう?――
理音からは、短いメッセージを数回貰った。
――お陰様で充実してるよ、すげー楽しい――
――じゃあ、しばらくはゲームやる?――
理音からの問いかけに、「そうだな」と返事する。
――宿題終わった?――
その指摘に読書感想文のことを思い出し、悲鳴を上げそうになったけど、まあ、頑張ればどうにかなるだろう。
理音はきっと今頃、呆れたように薄笑いしてるんだろうな、って、想像するとほっこりした。
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