第4話
そうして頑張って初めて撮ったトーク動画は、思ったよりも好評だった。大体台本通りだったけど、調子よく喋ってるうちにアドリブも飛び出して、オレも楽しく録音できた。
理音も、ボイスチェンジャー越しなら喋るのに抵抗はないようだ。
「次はライブ放送やってみねぇ?」
ダメ元で誘ったら、少々ためらってたものの、「1回だけ」ってOKを貰えた。ただし、大筋の台本を用意しておくことと、詰まったらオレがフォローすることが条件だって。
『このボイスチェンジャー、もっと軽ければスマホでも使えるのに』
不満そうにぼやかれて、「何言ってんだ」と苦笑する。まあ、近い将来、そういうスマホアプリだってできるだろう。というか、どっかで開発が進んでる可能性だってあるけど。
「そうなったらお前、学校でもそれ使いそうじゃねぇ?」
冗談半分で言うと、あながち外れてもなかったらしい。
『当然』
真顔で重々しくうなずく様子が、おかしくて笑えた。
作詞作曲、録音に編集と、音楽関係のことは全部理音に任せっきりだったから、トーク動画に関してはオレが全部を取り仕切った。撮影も録音も、勿論編集も。
作業の間は、ほぼ毎日理音ちの半地下に入り浸りだった。けど、いい設備を存分に使わせて貰えたお陰で、いい動画が作れたと思う。
オレが編集してる間、理音はパソコンで何やら調べものしたり、壁一面のモニターで、どこかのライブカメラ見たりしてた。ダムとか砂漠とか空港とか、何が楽しいのか分からない。
ゲームをしてることもある。結構自由だ。まあ、理音にとっては自宅な訳だし、別に自由でいいんだけど。オレと一緒にいてもリラックスしてるようで、なんとなく嬉しかった。
花火だって一緒に見た。いや、いつもの半地下のデカいモニター越しではあったけど、音響設備がしっかりしてると、臨場感たっぷりなんだって初めて知った。
「普通に現場で見るのもいいもんだぜ。夏の夕暮れの生ぬるい空気、ざわめき、屋台のときめき! 大勢の中で押し合いへし合いしてさー」
オレの主張に、理音はあからさまな棒読みで「へえー」って言うだけだった。
「今度一緒に行かねぇ? ナマ花火」
「無理」
「即答すんなよ」
くくっと笑いながらツッコむと、理音が誤魔化すようにモニターを指さす。
「ほら」
つられて目を向けたモニターの向こうに、ひゅっと上がる花火。
ドン!
打ち上げの音がリアル以上にリアルに響いて、胸を撃ち抜かれたかと思った。画面いっぱいに、花火は次々広がって、呼吸も忘れそうになる。
理音の妹ちゃんが「あ、もう始まってるー」って呑気に入って来るまで、モニターの向こうに意識を奪われたままだった。
妹ちゃんは理音にそっくりな女子中学生だ。でも似てるのは顔だけで、ハキハキ喋るし堂々と歩く。音楽は聴く専で、デカいモニターも苦手。ゲームをするのも携帯機ばかりなんだそうで、その辺はオレの方によく似てた。
その妹ちゃんとの初対面で言われた言葉がこれだ。
「あ、お兄ちゃんの推し声の人でしょ」
「お兄ちゃん、声が格好いいって言ってたけど、顔も格好いいじゃん、モリー君」
妹ちゃんに肘打ちされて、理音が「うるさいな」と肘打ちを返す。そんなじゃれ合いが微笑ましくて、ついニヤニヤしてしまう。
オレんとこは男兄弟だから、妹ちゃんが羨ましい。
「オレも花咲Pの曲、格好いいと思ってるよ」
オレの言葉に「格好いいって」と理音をからかう妹ちゃん。
「うるさいって」
ぼそっと文句を言いつつも、理音はじんわり赤面してて、可愛いなぁと思った。
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