第3話

 オレにとって新鮮だったのは、幅広い繋がりができたことだ。

 オレらが使ってたAI生成のじゃなくて、完全オリジナルのイメージ動画を、ぜひ描きたいって言ってくれる人も現れた。

 フルアニメーションじゃなくて紙芝居形式だったけど、それでもオリジナルで絵師さんに描いて貰えるのは凄い栄誉だ。

 オレらのVキャラを作りたいって人もいた。一体誰得なんだと思ったけど、今後はトーク動画もアップしていくべきだ、って。


「トーク、何それ、食べたことない……」

 理音はぼそぼそ声で完全否定してたけど、オレ自身は放送部で似たようなこともやってたし。トーク動画や対談なんかに、抵抗はなかった。

「いいじゃん、夏休みなんだし、挑戦しようぜ」

 運動部なんかだと夏休みは忙しいんだろうが、放送部は逆に暇だ。理音は帰宅部なので、ますます暇な筈。

 勉強? まあ、録音の合間に、一緒にやるのも悪くない。

 半地下の理音ちの防音室は、空調がガンガン利いてて、天国のように過ごしやすい。録音も勉強もはかどるってもんだろう。


 ずっと見てた実況動画の配信者さんから、勧められたっていうのもある。「トークもたまには必要だよ」って。

 確かに、ゲーム実況以外のトーク配信だって、ファンから見れば十分楽しい。オレらも、オレらのファンに楽しんで貰えりゃいいなと思った。


 オレたちのVキャラは、「お願いします」って連絡したら、

その日のうちにデータとして送られて来た。

 実は既に、作ってあったらしい。オレらの曲を聴いて、無性に作りたくなったんだとか。そう言われると、ちょっと嬉しい。

 肝心のそのビジュアルは、何と言うかすげぇ可愛かった。ゆらゆらと首を揺らしたり、まばたきしたり、笑ったり、怒ったり。

 オレのキャラは声が低めなこともあって、茶髪に釣り目のイケメン寄りだったけど、理音、つまり花咲Pのキャラは、おかっぱの白髪にメガネをかけた、中性的な顔だった。

 本物の理音とは可愛さの系統が違うと思うけど、可愛い系、ってのは賛成だ。


 せっかくなのでそのキャラを使って、試しにトーク動画もどきを撮ってみた。勿論、簡単な台本付きだ。

 オレは放送部で慣れてるから、台本通りに喋るのなんて別に普通にできるけど、理音はものすごくダメダメだった。ぼそぼそ声ならむしろ早口なのに、声を張ろうとするとなんでいつもドモるんだろう。台本通りに読むだけだっていうのに、意味が分からない。

 場所だって自分ちなんだから、緊張する要素はないだろう。

「オレやっぱりトークとか無理だし需要ないし供給もない」

 早口でごにょごにょと言われて「何言ってんだ」って苦笑した。

 死んだ目して「無理……無理……」ってぼやいてる理音は、おかしいくらい哀れで可愛かったけど、翌日行くと、意外な解決策を見つけてた。

 それが、ボイスチェンジャーアプリだ。


『みなさーん、こんにちは。花咲Pですっ。今日はボクと、相棒のモリー君との雑談を、お送りしたいと思いますっ』


 男にしては高く、女にしては低い、中性的で甘い合成音。自分のVキャラになり切ってるのか、口調までいつもとは違ってて、ビックリした。

 AI制御で即時ボイスチェンジってのが売りのアプリらしい。即時と言いつつ0コンマ何秒かのタイムラグはあったけど、それが絶妙な溜めを作ってる。

 うわー、と思った。

「お前、普通に喋れるじゃん」

『うん、この声、いいよね』

 そういう意味じゃないんだけど、まあ確かに、いい感じの声ではある。読み上げソフトみたいな不自然さもない。


「けど別に、わざわざ合成音にしなくてもさ、自分の声を音源にして作ったらいいんじゃね? 花咲ロイド」

 ふと思いついて言うと、即答だった。

『無理』

「なんで?」

『むしろ、モリー君の声なら作りたいかも。モリロイド』


 それはオレの声で理音が喋るってことか。そう言われると確かに、自分の声でってのは萌えない。というか普通に嫌だ。

『AIじゃなくて、U・TaEでもいいね』

「U・TaEって、おい」

 思わずツッコミを入れてから、懐かしいなと苦笑する。

 U・TaE、それは誰かの声を1音1音手作業で拾って入力し、歌声を合成する音楽アプリだ。元々は、その音源にオレの声を使わせて欲しいって、理音からスカウトされたんだっけ。

 声質を学習させるだけのAIと違って、手間はかかるけど本物に近いらしい。いや、本物に近けりゃいいってモノでもないんだが。


「バァカ、オレの声なら本物がいるだろ」

 コツンと軽くゲンコツすると、理音は「うう……」と地声で唸って。

「だってモリー君の声、好きなんだ」

 と、いつもの早口でごにょごにょと言った。

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