第2話
オレたちのタッグを組んだ初の曲、『ブロウスルー』は、あっという間にヒットした。1ヶ月も経たないうちに再生回数は10万を超え、ランキングの上位に食い込んだ。
2人で協力してAI生成したイメージ動画も、教室風景の素朴なアニメーションにできたんじゃないかと思う。
校内放送で、オレも大いに宣伝した。
『この度縁あって、ネットやSNSで活躍中の花咲Pさんとタッグを組み、花咲&モリーとして歌を出すことになりました! 僕のデビュー曲です、ブロウスルー、聴いてください』
オレがそういった瞬間、学校中でうわー、と歓声が上がるのが、放送室にまで聞こえて来た。
窓ガラスが震える程だった、と後に教えてくれたのは理音だ。
ヤツは、校内放送の流れるその瞬間を、こっそり録画してたらしい。クラスが違うから、映ってるのは知らない顔ばかりだったけど。でも大勢が驚いて顔を見合わせ、「うわー」とか「きゃー」とか叫ぶ様子は、結構胸に来るものがあった。
それから1週間、その曲は校内のお昼の放送で流された。オレ以外が担当の日でも、流してくれるように頼みこんだ甲斐あった。
職権乱用? 勿論その自覚はある。けど『ブロウスルー』はホントにいい曲だったし、オレ自身もいい歌にできたって自負もあって、みんなに聴いて貰いたかった。
元々放送部なんて目立つ活動をしてたのもあって、オレは間もなく校内の有名人になった。生徒は勿論、先生らからも「モリー」と呼ばれて親しまれた。
一方で、理音はまったく目立たないままだった。
「花咲Pってどんな人?」
「すごくいい曲書くんだね」
って、女子らに話しかけられてる横を、素知らぬ顔で通り過ぎてくこともあった。
どんな人かって、今さっきここを通ってったヤツだぞ! ……って、大声で言いまくりたい気分だ。まあ、しないけど。
オレの影に完全に隠れてしまってる形だけど、理音自身がそれを望んでるのは分かってる。
小さくまとまった可愛い顔してんのに勿体ないとは思うけど、人前で歌うのが無理って理由で音楽を選択しなかったくらいだし、目立つのは嫌がるだろうなと思った。
1曲目も好評だったけど、次の2曲目、『フォークの先』はもっとすごい勢いでヒットした。
このタイトル、なんでフォークなのかって思ったけど、分かれ道の意味らしい。
「進路とか……」
いつものぼそぼそ声で言葉少なく説明されて、成程な、と納得する。この間、3者面談あったよな。どこの大学を目指すのかって訊かれて、何も考えてなくてちょっと焦った。
来年の今頃だと、そろそろ推薦の話とかもしてるんだろうか? 今はまったく想像できない。
けどそれを聞いて改めて見ると、歌詞も確かに分かれ道を示してる。
――いつか思い出すのかな 2人で過ごしたこの夏を
――ここで未来が決まったと 振り返って知る銀のフォーク
朗読すると、割としょっぱい歌詞なのに、曲調が明るくポップだから、ちっとも寂しさを感じない。そのアンバランスさがなんとも言えない味になってて、だから多くの人に刺さったんだろうか。
何がウケたのか分かんないけど、ヒット作っていうのは大概そんなものかも知れない。
いつもの投稿サイトにアップしてから、3日で1万再生、1週間で5万再生。1ヶ月を過ぎる頃には30万再生を記録して、オレたちの『フォークの先』は、月間ランキングのトップを飾った。
夏の新曲祭り、っていう、投稿サイトの音楽イベントに参加してたってことも、きっと影響してるんだろう。
参加といっても、曲をアップするときにイベントタグをつけるだけのことだったけど。実際、そのタグをきっかけに聴いてくれた人も多かったようで、フォロワーが随分増えた。
夏休みに入ったってのも大きいんじゃないだろうか。
オレらの曲を使って、歌ったり踊ったりする人も増えた。彼らがその動画をアップすることで、更に曲への認知度が上がって、ますます再生数が上がってった。
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