第3話 願いを叶える流れ星

「人間じゃ、ない……」


 彼の言った言葉を復唱し、その意味を理解しようとする。

 そして数秒遅れてその意味を理解し始める。


「星使い――簡単に言えば、精霊とか、神様みたいな存在かな」

「かみさま……」


 静かにその言葉を繰り返すと、ホシくんはうん、とうなずいて続きを話す。


「星使いは、流星群の時期になると人間の住む世界に行って、降り立った地で流星を降らせて人々の願いを叶える手伝いをする。これが僕らの使命だ」


 それって……。



「……すごいね……」



 何が? とでも言いたそうな彼を知らないフリして、わたしは言葉を続ける。



「みんなの願いを叶えるって、すっごく大変だよね? 全部叶えるわけにはいかないし。それをホシくんが今やっているんでしょ? みんなのために自分の力を発揮できるって、すごい……」



 言ってからすぐ、後悔する。

 わたしったら何言ってるんだろう。変なこと言っちゃった。


 今のは忘れて、と口を開こうとしたけど、それよりも先にホシくんの小さな声がわたしの耳に届いた。



「怖くない? 僕、ナミと同じ人間じゃないんだよ。ほら」



 夏にも関わらず長袖パーカーを着ている彼は、ぐっと袖を引っ張ってわたしに見えるように右腕をかざした。



 陶器のように白い腕が……透けている。



 よく見たら、足も向こう側が透けて見えている。


 それでも、変わらない。

 一週間だけ、一週間も一緒に星空を眺めて……友達みたいな、そんな存在だった。


 ホシくんと過ごす時間は学校であった嫌なことも、全部全部忘れられる、大切な時間だ。


 たった一週間かもしれないけど……。



「怖くないよ。だってホシくんはホシくんだもん。……でも……あれ? 数日前までは透けてなかった……よね?」



 首をかしげるわたしを見て、ホシくんはああ、とうなずく。



「この力……流れ星を降らせたり、願い事を叶えたりする……っていっても手伝うだけだけど。その力を使うと、こうやって身体が透けて、最終的には消える。あ、消えるって大げさに聞こえるかもしれないけど、空に戻るだけだから」



 にっこりと笑ってそう言うホシくんだけど、どこか悲しそう……。

 聞いちゃいけないこと聞いたかな……。


「なんか、ごめんね」

「え? 何に対しての謝罪? 謝る要素なかったでしょ?」


 にっこり笑う彼は黒髪を風になびかせながら言った。



「ねえ、ナミは願い事ある?」



 紺色の瞳に見つめられる中、わたしは少し考えてから言う。



「うん。ある。あるよ」



 もう一度上を見上げて、星の輝く夜空に目を細める。




「わたし、流星を見てみたい。もっとたくさんの、流れ星」




 そう言うと、ホシくんは何も言うことなく、また一緒に空を見上げた。

 何かを決意したような、胸の内に秘めた想いを隠すような、そんな寂しそうな顔だった。

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