第2話 星を降らせる魔法

 ――『ホシくんって、叶えたいことってあるの?』


 初めて会ったときだった。話題を探しているうちに、まだこれを聞いていないことを思い出したのだ。


 ――『うーん、あると言えばあるよ』


 何とも言えない答えだった。

 そのときはそうなんだ、と言って流してしまったけど、聞いてみれば教えてくれたかもしれない。


 聞こうと思ってもいつも忘れてて、またね、と友達に声をかけるみたいにして、夜の公園を出ているんだ。



 ……ホシくんの願い事って、何なんだろう?


 *⋆゜* ☆ *⋆


 ホシくんは毎夜、この公園にいた。

 そして必ず、空を見上げている。


 上を見上げるその顔は、どこか悲しそうで、寂しそうで。

 でも、わたしがそばに駆け寄ると優しく笑いかけるんだ。


「今日も来たよ。今日こそ、流れ星を見るんだ」

「今日はたくさん流星が流れるよ。チャンスはたくさんあるね」


 落ち着いた、のんびりとした口調のホシくんにそう言われ、余計に気合が入る。


 と、その瞬間。


「……流れた……!」


 ホシくんが嬉しそうな顔でわたしに報告する。

 一方わたしは、見事に見逃していた。


 どこどこ? と聞き返すも、そんなのはもう意味がない。


 それほどに儚く、一瞬の出来事なのだ。


「……見えなかった……」

「あはは。落ち込む必要ないよ。次こそ、

「え? 今、って……」


 ホシくんは何も答えることなく、上を見上げる。

 そして夜空に向かって指を指すと、わたしに「見てて」と言った。


 そんな、タイミングなんてわかるものなのだろうか。

 ホシくんの指先を見つめて、わたしは「うん」と言う。




「いい? まばたき禁止だからね」




 さあーっと。


 今まで全く見えなかったはずの流星が、わたしの視界に映った。

 暗闇を切り裂く、一筋の光。

 軌跡を残して消えていくそれは、確かに目に焼き付いた。


 見えるものは一瞬だ。でもこの光景は、深く深く、心に刻まれる。

 本当に一瞬で。まばたきをしていたら、見えないくらいに。


「きれい……」

「でしょ?」


 得意げに話すホシくんに、わたしはブンブンと盾に首を振る。

 その間にも、ヒュンっと勢いよく星が流れた。


 あとを追うようにして流れたそれは、さっきよりもずっと速く、小さな光を残して消えた。




「……魔法だ」




 わたしの声は、静寂に包まれた公園によく響いた。

 そして、暗闇に溶けるようにして消えていく。



「魔法、かあ。確かにそうかもしれないな」



 ホシくんは楽しそうにわたしに言った。

 そしてその声もまた、夜の闇に溶けて消える。


 わたしが「え?」と聞き返すと、ホシくんはしょうがないなあという感じで口を開く。




「僕、星の使いなの。人間じゃないんだ」




 まさかの告白と、彼の悲しそうな顔を、星の光が温かく見守っていた。

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