星を降らせる魔法は夜空に輝く

つきレモン

第1話 星に願いをのせて

 当たり一面、闇に覆われている……夜の出来事。


 ペルセウス座流星群って知ってる?

 八月の中旬によく見える流星群こと。

 みんなもよく知っているんじゃないかな。


 ここ最近は学校でもペルセウス座流星群が話題になってるんだ。


「あ、流れた」


 それは一瞬の出来事。

 静かな公園のベンチに座る彼は、夜空を見上げてポツリとつぶやいた。

 隣に座るわたしは「え?」と必死に目を凝らす。


 でも視界には、ところどころにちりばめられた星が漂う海があるだけ。

 さっきから何回か流れているらしいけど、わたしには一つも見えなかった。


「……また見逃しちゃった」

「ほら、よそ見してると見逃すよ」


 ふわりと笑う彼はわたしからそっと視線を外して、また空を見上げた。

 紺色の瞳に夜空が反射し、少し長い漆黒の髪が風にあおられる。


 ここは、嫌なことがあったときによく来る公園。と言っても、家のとなりにある小さな公園だ。


 一週間前、その公園で彼を見つけた。今みたいに、じっと何かを探すようにして空を見上げていたんだ。


 沈黙が苦手で思わず名前を聞くと、彼は戸惑ったように名乗った。

 それが、彼との出会い。


 名前は、星影ほしかげ 秀人しゅうと。年齢不詳、見た目はわたしと同じ中学生。呼び名はホシくん。まあ、呼び名なんてわたしが考えたものだけれど。


 でも、わたしの中学で「星影 秀人」という人は見かけない。

 また同じように、「星影 秀人」という人を知っている人もいなかった。


 それほどに、不思議な存在だった。


「……そういえばなんてお願いしたの? もう三つも見てるでしょ?」


 ずっと空を見上げていると夜空に吸い込まれそうになる。そのうちにウトウトとしてきて、いつの間にか眠っているのだ。


 ホシくんは星が輝く暗闇を見つめて言った。


「二つは一瞬だったから願う暇もなかったよ」


 苦笑交じりのその声に、わたしは「じゃあ一つはお願いできたんだ」と独り言のように言った。


「ね、願い事ってなに? 気になる」


 彼はうーん、と悩むしぐさを見せる。


 将来のことかな。

 それとも、家族のこと?


 ホシくんはわたしの方を向いて少し寂しそうな笑顔をわたしに向けた。


「ないしょ」


 長考の末、それが彼の出した答えだった。


「ギリギリだったから微妙だし」

「え~……」


 残念そうな声を上げながらも、内心とても焦っていた。


 さびしそうな顔は、わたしが原因?

 わたしがあんなこと聞いたから?


 わたしが不安に思って彼を見つめると、さっきの寂しそうな表情が嘘だったみたいに、わたしを安心させるように微笑んでみせた。


 二人で上を向いて、流星をじっと待つ。




 流れ星に願い事をするとその願いは叶う。




 古くから伝えられている迷信だ。

 信じるか、信じないかは人それぞれかもしれない。


 わたしは信じてる。

 この一瞬の流れ星が、願いを叶えてくれるということ。

 願いが星にのって、星の神様が願いを叶えてくれるということ。


 わたし、夜風よかぜ なみは次こそと意気込んで、彼と同じように宙を見つめた。

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