【異世界奇譚】
涼風刹那
第1話~異世界人、転移を知る~
「いったいここはどこなんだ!!!」
一人の男が町外れの小さな公園で叫ぶ。この男の名はリヒト。ドラゴンやゴーレム、トロールといった数多の怪物たちと激戦を繰り広げたその身体には勲章ともいえる傷が残っている。
何を隠そうこの男は異世界人である。ファンタジーの世界から、なぜか2024年現代の日本に転移してきてしまったのである。ちなみに彼は自身が異世界転移したことにはまだ気づいていない。
「ワイバーンは!?グリフォンは!?いや、この自然の中ならオークの一体くらい!!!」
当然だが周りを見渡すもモンスターは1匹も見当たらない。せいぜい周りにいるのは余生で散歩を日課にしている高齢者くらいだ。この世界がシンボルエンカウント形式のゲームなら、ちょっと歩いただけで体当たりをかまして戦闘を始められるくらいはいる。
「なにあれ〜?」
「コスプレかな?」
「今日って何かイベントあったっけ」
しかし、騒ぎを聞きつけて若い人がぞくぞくと集まってくる。よりにもよって今日は週末で人だかりが出来るのにそう時間はかからなかった。
「なんだあいつらは…同じ人だよな…??」
目の前にいる人が本当に自分と同じ人族なのか疑心暗鬼になっている。女子供が華奢なのは分かるが、男さえも貧弱な体つきをしていて傷の一つも見えない。
「まさかモンスターが化けているのか!?」
途端に腰に携えていた短剣を周囲の人だかりに向けて威嚇する。彼が生きていた世界なら間違いではない行動だが、ここは現代の日本。そんなことをしてしまうと…
「きゃーっ!!」
このようにただでは済まない。女性の悲鳴を皮切りに携帯で動画を撮りはじめる人や警察に不審者として通報する人、短剣を捨てるように声をかける人や全力で逃げる人、一瞬で慌ただしくなる。
「すみません!通ります!」
通報を受けて警官が駆けつけてきた。そこには短剣を人に向けている身体中に傷を負った体格の良い男性がいる。となると、警官としてすることは一つ。
「○○公園に短剣を持った危険な人物を発見!応援をお願いします!」
リヒトの冒険はここで終わってしまうのか!?
次回!リヒト、捕まる!乞うご期待!
きっとアニメや漫画なら、こういう描写をされるだろう。そして、次回の煽りは「リヒトの冒険はまだまだ続く!」みたいな打ち切りエンドだ。
「ピポパ!リヒト様、朝から騒がしいですよ〜」
打ち切りエンドまっしぐらかと思われた矢先、リヒトのズボンのポケットから平べったい円形の機械が出てくる。
「パムか!ちょうど良かった!敵に囲まれてしまったようだ!どうすれば切り抜けられるか作戦を考えてくれ!」
「敵ですか〜?朝くらいゆっくりしましょうよ〜」
そう言いながらパムと呼ばれた機械が周囲を見渡すも途中で固まってしまう。
「おい!どうした!寝てる場合じゃないぞ!」
急かすようにリヒトは声をかける。しかし、パムは何かに驚いている様子。
「ピピピ!!リヒト様、これはどういうことですか!」
「知らん!!俺が聞きたいくらいだ!!
「何を言ってるんですか!ここは私たちが暮らしていた世界ではありませんよ!!」
おや、どうやらパムは気付いたようですね。流石はこちらの世界でいう人工知能AI。
「は?何言ってんだ…?」
「ここはモンスターなど一体もいない世界!いわゆる、異世界というやつですよ!!」
「い、異世界〜!?」
ギャグみたいな反応を見せるリヒト。まぁ、異世界転移っていったら普通現代から飛ぶものですよね。
「とりあえず、その短剣を下ろしてください!あそこにいる人は私たちの世界でいうギルドです!逆らったら牢屋行きですよ!」
「なん…だと…!?」
「いいですか!私が切り抜ける方法を考えますから指示通りにしてくださいね!」
そう言ってリヒトに短剣を地面に置いて手を頭の後ろで組むように指示する。
「す、すみません。ちょっとコスプレしてみたいと思いまして。朝なら人も少ないと思ったのですが、どうやらご迷惑をおかけしてしまったみたいで…」
パムから電波信号で脳内に直接送られてくる台詞を、そのまま読み上げて警察に害意がないことを伝える。
「申し訳ありませんが、このままあなたを放っておくことは出来ません。一度、署に同行願えますか。そこで話は聞きますので」
「はい。同行します」
「では、手錠をつけさせてもらいます」
地面に置いた短剣は警察に回収され、リヒトは大人しく手錠をかけられる。そのまま少し待っているとパトカーが到着し、警察と一緒に後部座席に乗せられ署へと連れて行かれるのであった。
果たして、リヒトの運命は!?
次回!異世界人、現代を知る!
乞うご期待!
【異世界奇譚】 涼風刹那 @ryohu_setsuna
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