元義姉をナンパしてしまう

三葉 空

第1話 ナンパの相手

 ナンパなんて、これまでの人生で1度もしたことがない。


 大学に入学した当初、チャラい連中に誘われたことはあったけど、柄じゃないからと断った。


 その後、同じサークルで仲良くなった女の子と付き合って。


 けれども、先日、破局した。


 彼女は悪くない。


 いつまでも未練がましく女々しい、僕に原因があるのだから。


 そう、女々しい。


 そんな自分を変えたくて、人生初めてのナンパに挑戦するところだ。


 やって来たのは、ショッピングモール。


 僕の地元にも、同じチェーン、ブランドのショッピングモールがあった。


 というか、全国展開している有名ブランドだから、みんな知っている。


 店舗は違えど、小さい頃から訪れていたその場所なら、不慣れなナンパも多少はしやすいかと思ったのだ。


 しかし、現実はそう甘くない。


 行き交う女性に対して、声をかけることさえ出来ない。


 そう考えると、ナンパ師って本当にすごいな。


 声をかけて、その上、女子をゲットしてしまうのだから。


 もちろん、どんなイケメンナンパ師でも、容易く一発で成功する訳ではないのだけど。


 そのチャレンジ精神というか、ある種の男気は見習うべきところがあると僕は思う。


 とは言いつつも、誰にも声をかけることが出来ぬまま、小一時間ほどが経過している。


 まあ、今回は行動の一端を起こしたということで自分を許して、軽くお茶でもして帰ろうか。


 一人さみしく。


 そんな負け犬モードに入りかけていた時。


 僕の視界に、鮮烈に映り込んできた。


 一人の女性が。


 思わず、ハッと目を見開く。


 なぜなら、その女性は、僕がずっと憧れていた、あの人にそっくりだったから。


 これは、何かの運命かもしれない。


 それまでの体たらくが嘘のように、僕はスッと歩みを進めていた。


「――あの、すみません」


 意を決して僕が声をかけると、彼女は颯爽とした足取りを止める。


 きれいなロングヘアーのなびきも止まる。


「その、突然ごめんなさい。あの、その……」


 まずい、言葉が出て来ない。


 これじゃあ、ただの不審者だ。


 通報されてしまう……


「――もしかして、ナンパですか?」


 ドキッ!とした。


 こ、これは……死ぬほど恥ずかしいパターンかもしれない。


「いや、えっと、その……」


聖人まさとくん、そういうことするタイプだったんだ、意外だなぁ」


「ごめんなさい、ごめんなさい……へっ?」


 いま確かに、僕の名前を呼んだような気が……


「お兄さんの悪い影響でも受けたのかな?」


 そして、振り向いたその女性は――


「……み、聖月みづきさん!?」


 清楚できれいなロングヘアーをさらりとなびかせつつ、快活に笑う彼女。


 似ているどころか、まさか本人だったなんて……


「で、不届き者のナンパ男くん。このお姉さんを、どうするつもりなのかなぁ?」


「いや、その……ごめんなさい」


「なんて、冗談だよ。でも、今のご時世、色々と厳しいから、気をつけなくちゃダメだぞ?」


「そうですね……」


 僕はいま、夢を見ているのだろうか?


 さっきからずっと、フワフワと浮足立っている。


 それでいて、胸のドキドキが止まらない。


 って、そういうところが、女々しいんだっての。


「1年と少しぶりかな? こうして、聖人くんと会うのは」


「えっ? ああ、まあ、そうですね」


「そうだ、遅ればせながら、大学合格おめでとう」


「あ、ありがとうございます」


「今は2年生?」


「はい、そうです」


「大学は楽しい?」


「まあ、そうですね……楽しいです」


「彼女は出来た?」


「……出来たんですけど……最近、別れました」


「あら、そうなの? そっか、それでヤケになって、似合わないナンパなんかしちゃったのね」


「まあ、ヤケというか……女々しい自分を変えたくて」


「そっか、なるほどね」


 聖月さんは小さく腕組をして頷く。


 同時に、豊かな胸のラインが気になった。


 僕は最低だ。


「よし、そのナンパ、乗った」


「はい?」


「彼女と別れて傷心の弟くんを、このお姉様が慰めてあげよう」


「な、慰めるって……」


 不覚にも、瞬間的に、股間のあたりが疼く。


「とりあえず、お茶しよ」


 聖月さんはあっけあらかんと言う。


「……あっ、はい」


「よし、じゃあ、レッツゴー♪」


 可愛すぎる。


 こうして僕は、元兄嫁であり、元義姉をナンパしてしまった。







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