第2話生死と善悪
どのくらい寝ていただろうか、気づけば空は熟した林檎の様に真っ赤に染まっていて何処からか楽しそうな子供達の声が聞こえてくる。きっと友達と遊んだ帰りなのだろう。
『懐かしい』
こぼれ落ちるようにふと言葉がにじむ。思わず漏れ出たそれに私はハッとなった。あんな事があったのに未だに過去を懐かしむのか。そして、感情が絡み合う。決して解けない感情はぐしゃぐしゃに丸まって涙となった。冷めた熱が頬を伝っていく感覚に、私はまた悲しくなった。
いつものように泣くだけ泣いて落ち着いた私は、ふと外を見た。日は沈みかけていて、真っ赤な林檎も黒ずんでいる。その時ちょうど父が帰ってきた。車のエンジン音が止まりドアが開く、車を降りた父と目が合った。父の悲しそうな顔が一瞬だけ目に留まる。私は咄嗟にカーテンを閉めた。
『お父さん、ごめん。』
絶対に聞こえない声でつぶやいた。父も母も弟さえも、誰一人私のことを悪く言わない。言ってくれないのだ。沢山傷つけて沢山失った私、それでも寄り添っていてくれるのだ。そのことがどうしてもわからない。もう私なんかの為に傷つかないでほしい。私の願いはただそれだけなのに。
放課後に友達と遊ぶなんて、私がまだ学校に行っていた時の話だ。もうあれから四年経つ。月日というのは残酷で、深い影を残しながら過ぎ去っていく。
この四年で何度死を覚悟しただろう。初めて死を望み、歩道橋から身を投げようとした時、私を止めた人がいる。人は生きる事に囚われている。死を嫌い生に執着しているし、老いることを忌み若さに取り憑かれて、病気を避け健康を取り繕う。そんな社会の構造では、老・病・死は〝悪〟当然で、人はそれを駄目だと言う。
私はそれに気づいて、疲れたてしまった。囚われて縛られている人達とそれを産んだ社会に。そして『普通』を望むなんて贅沢を諦めたのだ。
『ごめん。』
そしてまた、泣くのであった。
朝には零れるくらいの愛を 苺桃 栃銘 @itou_tomei
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