第5話 間上翔也と村瀬優

 家に着いた。明日は全休だからまだゆっくり出来るかな。 

 今日は翔也と課題も出来たし久々に楽しくお酒も飲めた。すごい楽しかった。

 でも翔也は私と居ても辛そう顔してる。ずっと。

 喫茶店行ったときも夜ご飯のときも結局一度も翔也から話しかけてくれることもないし。嘘まで言われちゃった。

 あそこの飲み屋はさ、三回目のデートで翔也が誘ってくれたじゃん。もう覚えてないんだね。それともそれも嘘?

 私と話してるときも翔也はずっと何か考えてた。

 どうしてなんでも私のことは全部気付くのに自分のことは全部隠すの?

 翔也は私を救ってくれた。付き合ってる時も沢山助けてくれた。だから恋をして、夢中になっちゃって、別れても諦められなかった。

 あの時は今にも壊れそうだった、もう壊れてたかも。だから私も救いたい。でも翔也が何であんな別れ方にしたのか私には分からない。そんなの自分が苦しいだけなのに。

 翔也は先が見えすぎてるし人の気持ちを理解するのが上手い。少しの間だけでも一緒だったから分かる。見たくないものまで見えちゃうんだ。だから私には分からないけどあういう別れ方にしたんだよね。

 でもさ、私はもう翔也しか見れないんだ。こんな簡単な事は分からないんだね。そんなとこも好き。

 かっこよくて、優しくて、面白くて、なんでも分かってくれて、でもどっか抜けてて。

 私が幸せにしたい。私がするんだ。

 そのために翔也を変えてみせるよ。


 私が翔也を救って、一緒に居たいから。


ーーーーーー


 家に着いた。明日は全休だからまだゆっくり出来るな。

 今日は油断した。こんなに考えを読まれる異性は初めてだ。何とか隠し切ったと信じたい。

 おそらく、いや確実に。村瀬はあの飲み屋に行ったことを覚えている。俺が覚えているか確認をしたかったのだろう。俺が村瀬にどこまで関心があったのか確かめるために。そうでなければあんな話は振ってこない。

 しかし村瀬は何故あそこまで俺に固執するんだ。他の男なんて沢山いる上に村瀬のルックスだぞ、すぐ作れるじゃないか。

 俺は村瀬のことは全部分かってきたはずだ。でも自分のことはなにも話してない。

 「何かあったら頼ってよ!」が苦しかった。その期待に応えられないと知っていたから。

 告白は村瀬からだった。好きになった理由は「救ってくれたから、かな。」と言われた。あの時はたまたま俺だっただけで世話を焼いてしまった。好意でもなんでもない。あの状態の村瀬を見て見ぬふりをする自分が許せなかっただけだ。

 俺は人より先が見えすぎるし人の気持ちも分かる。本当は何も見たくないし分かりたくない。その方が楽だから。幸せだから。でもこうすればこうなると、数ヶ月後は大体こうなってんだろうというのが想像出来る。

 だから傷付けて振った。これが最善だと判断したから。これ以外の方法も分からないから。

 村瀬は可愛いし、優しいし、何より俺を助けるという気持ちが嬉しかった。感謝はしている。

 でも恋愛は辛い。だから、俺の人生に必要ない。今回で改めて理解した。

 もう相手を傷付けるのはこりごりだ。あの時の相手の泣いて声も出せないような状況には俺がしたんだと自覚させられる。

 もう相手を傷付けたくない、嫌いになりたくない、辛い思いをさせたくない、時間を無駄にしてほしくない。

 なら、答えは簡単だ。恋愛しなければいい。

 村瀬には明後日時間を貰って伝えよう。

 これ以上は時間の無駄だと、何年やろうが変わらないと、恋愛するつもりもないと。


 俺はこれでいい、村瀬と一緒に居るべきは俺ではないから。


ーーーーーー


 不快なアラーム音に起こされた。何故全休で予定もないのにアラームかけてんだ俺は。まったく、可愛いな俺は。

 まだ朝だし今日は午前中に筋トレと課題を片付けて午後から読書といくか。まさしく最高の休日である。

 まずは煙草だと気合を入れてベッドから起きあがるとスマホの通知音が鳴る。柊だと思ったが、優の文字が目に入った。

 村瀬の連絡先は全て別れた直後に消去したが、「さすがに連絡できないの不便すぎるって!」

 とお叱りを受けたのでインスタだけもう一度交換した。

 今日くらい一日中家に居させろと言いたいところだが、内容は『今日夜電話したい!』だった。

 明日直接伝えるより電話の方が顔も合わせなくていいし楽かと思い、『22時からでいいか』と送った。すぐ返信は返ってきた。

 『いいよ!またあとでね、寝るなよ?』

 『寝ませんよ勿論』

 『ならよし』

 ここで会話を終わらせ至高の一服だ。やはり寝起きは美味い。美味すぎるんだよな。この為に生きてるまである。

 しかしまた傷付けるのか。自分に嫌気が差す。

 必ずここで終わらせる。村瀬の為にも。


ーーーーーー


 無事に筋トレと課題も全てこなし読書も出来たので良い一日を過ごせた。あとは電話を終わらせるのみ。時刻もちょうど22時といったところ。いいタイミングで連絡がきた。

 『おきてるー?』

 『起きてる、いつでも出来る』

 『おっけい!かけるね』

 本当に最後だ。これ以上の時間はかけられない。

 

 

 村瀬が幸せになる上で俺は不要だから。


 


 

 

 

 

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俺が振った元カノがしつこすぎる。 れぷりか。 @Ru_ba927

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