魔力ゼロだが魔法具を使って魔法使いに!

らせん

第1話 魔法植物を求めて森へ冒険!

擦り切れたページをめくる音だけが、静かな部屋に響いていた。

僕の手元には、父さんが旅先で買ってきてくれた植物図鑑。旅から戻るたびに珍しいものを必ずおみやげにしてくれる父さんが、僕は密かに大好きだ。


その中でも、僕が夢中になっているのは魔力を持つ植物たちのページだ。

「ワスレソウ、カエンカ、フロストベル、マンドレイ樹……」

名前を口にするたびに、まだ見ぬ植物たちの姿が脳裏に浮かぶ。魔法の源である魔素が世界に満ちているおかげで、この世界の植物たちはただの緑ではない。魔力をまとい、不思議な力を秘めているのだ。

そして今日、新たな興味を掻き立てるページを見つけた。

「マヨウソウ(魔容草)……魔力を蓄える習性をもつ植物……これだ!」

僕の心臓は一気に高まった。魔力の回復薬や、光や火のエネルギーにもなるというこの植物。もしこれを見つけることができたら、新しい魔法具を作ることができるに違いない。

「我が家の周りは植物の宝庫だし、きっとどこかに生えているはずだ。」

そう思った途端、じっとしていられなくなった。急いで身支度を整え、階段を駆け下りる。

「ずっと部屋にこもってたと思ったら、何か急いでるみたいね。」

階下で作業をしていた母さんが、手を止めて僕に声をかけてきた。

母さんは父さんいわく「絶世の美女」らしいけれど、僕にはよくわからない。確かにその金色の長い髪と琥珀色の瞳は近くの村の市場に行くたびに注目を集めるが、そもそも僕は母さん以外の女性をあまり知らないから、比べようがないんだ。僕も母さんと同じ琥珀色の瞳をしているけれど、髪は父さん譲りの明るい茶色。森を駆け回ったり、図鑑を読みふけったりしているせいか、いつも少しボサボサしている。小柄な体だけど、毎日の冒険が僕を鍛えてくれていると感じる。

「素材集めに行ってくる!また面白い植物を見つけたんだ!」

僕がそう答えると、母さんは少し眉をひそめながらも頷いた。

「いいけど、あまり遠くには行かないこと。それと、暗くなる前に必ず帰ってきなさいよ。約束だからね。」

「はーい! ママ~!」

母さんは心配性だ。僕が森の奥に迷い込んで、魔物や盗賊に襲われるんじゃないかと気が気でないらしい。でも大丈夫だ。僕は丸腰で森に入るほど命知らずじゃない。自作の魔法具や、父さんから譲り受けた便利な道具たちをしっかり持っていく。これさえあれば、たいていのトラブルは乗り越えられるのだ。

それに、約束を破る気なんて毛頭ない。家族の心配を無視してまで無茶をするつもりはないんだ。何せ、僕は家族が大好きだからね。

リクニス王国の片隅、オネスト領の小さな集落に、僕たちパトローネ一家は暮らしている。

家族構成は母さんのフラウ・パトローネ、父さんのバテル・パトローネ、そして今年で十歳になる僕、キュリオ・パトローネ。二桁の年齢になったら、少しだけ大人になった気がするよね。

実は、僕にはもう一人兄がいる。兄はその優れた魔力の才能を買われて、ある貴族の家に養子として迎えられている。今では家を出て、僕たちとは離れた場所で暮らしているんだ。

魔法があふれるこの世界では、王都生まれの人間の多くが魔法を使えると言われている。でも、僕たちの暮らす田舎の集落では魔法が使える人間は貴重で、とても珍しい存在だ。

両親も魔法は使えない。だから、兄がどうして魔法の才能を持って生まれたのか、僕にはわからない。きっと何か特別な理由があるのだろうけれど、それが遺伝子の気まぐれか、それとも奇跡みたいなものなのか誰にもわからない話だ。

もちろん僕も、兄とは違って魔法を使うことはできない。だけど、その代わりに僕には「魔法具を作る」という楽しみがある。それが、僕なりの魔法との付き合い方なんだ。

外にでていつもの森に到着して「マヨウソウ」を探し始めた。

図鑑の挿絵では細く長い茎の先に、小さな灯火のように輝く花が描かれている。

森の空気は澄んでおり、葉の擦れる音が心地よい。

何度も通ったこの森だが、いつ来ても新しい発見がある。

「おっ、これは……サイレンヴィードだ」

つる草のように絡まりながら微かな音を発する植物。慎重にそのつるを数本採取し、専用の小瓶に入れる。風に揺れると、かすかな音を出すつる性の植物。音には催眠作用があり、長時間聴くと眠気を誘う。安眠、魔物の鎮静などに利用できる。

さらに歩みを進めると、ひんやりと冷たい青色のベル状の花が目に入った。

「フロストベルもあるなんて、今日はついてるな。」

小さなベル状の花が咲き、透明感のある氷のような青色をしている。 氷のように冷たい花を咲かせる植物だ。

その後も歩き回り、気になる植物を見つけるたびに手を伸ばした。採取しているうちに時間を忘れていく。しかし、マヨウソウの姿だけはどこにも見当たらない。

気がつけば、いつもよりも森の奥深くに足を踏み入れていた。周囲は静かで、鳥のさえずりも聞こえない。不思議な冷たさが肌を刺し、わずかに緊張感が漂う。

ふいに、背後の茂みが揺れた。

振り返ると、そこに立っていたのは、黒々とした毛並みと燃えるような赤い瞳を持つ狼の魔物。鋭い牙を剥き出しにして、低く唸り声を上げている。

そこにいたのは「ダスクウルフ」という魔物だ。黒い体毛と鋭い牙を持ち、魔力をまとった存在で、目が赤く光っている。夜になると魔力が増す習性があるが、まだ日暮れ前なので安心だ。

ゆっくりとこちらへ向かってくる。

僕は目を逸らさないように気をつけながら、音をなるべく立てないようにバッグから魔法具をとりだそうとした。

するとダスクウルフが低い唸り声をあげ、僕に向かって飛びかかってきた。ダスクウルフが飛びかかる瞬間、私はバックから取り出したバリヤージェムを握りつぶした。青白い半透明な障壁が私を守り、魔物の爪を跳ね返す。バリヤージェムは強い衝撃を与えると使用者を中心に攻撃を防ぐシールドを一定時間展開する。バリアが残ってる隙にバックからルーンが刻まれた石と腰から短剣を取り出した。

相手に向けてルーンが刻まれた石をダスクウルフへ向ける。すると医師に刻まれたルーンが緑色に発光し始めた。

すると強風が森を駆け抜け、葉が風に舞い、枝が一斉にしなり、木々はその勢いに抗うように揺れはじめた。これも一度だけしか使用できないが、風魔法が使用できる石だ。その風がダスクウルフの動きを一瞬鈍らせる隙に、風の力を利用して短剣でダスクウルフへ切りかかる。


「うおおおおお!」

叫びながら短剣で切りかかったが、手ごたえがほとんどない。ダスクウルフの黒い毛皮は硬く、短剣がわずかに傷をつけただけだった。

風が止みはじめ、ダスクウルフが動きだそうとしているその時、短剣が突然輝き始めた。

短剣に刻まれた魔法陣が光を放ち、まばゆい雷が一気に放出される。稲妻がダスクウルフを包み込み、森全体が一瞬明るく輝いた。ダスクウルフは大きな唸り声を上げ、その場に倒れ込む。

恐る恐る近づくと、ダスクウルフは気絶しているだけだった。こんな強い魔物の素材を採取できる機会は滅多にない。早速解体しよう。

魔力を扱う生物の素材はとても貴重だ。黒い毛皮と赤い牙は、魔法具の材料として取っておこう。食べられるのかは分からないがお肉も家に持ち帰りお母さんにプレゼントしよう。

「これだけでも十分な成果だ。」

マヨウソウは見つけられなかったが、収穫は多い。森を抜け、空が赤く染まる頃には家に着いた。

「どうしたの、このお肉!?」

「大丈夫、ちょっ

奥でダスクウルフに会っちゃって……でも倒したから平気だよ。」


その言葉を聞くなり、母さんの顔が青ざめた。

「ダスクウルフですって!?そんな危険な魔物に……どうして森の奥なんかに行ったの!」

「倒したから平気だって…ほら、怪我だってしてない!」

母さんは大きく息を吐き、私の肩に手を置いた。

「お願いだから、もう森の奥には入らないと約束してちょうだい。命を失ってまで手に入れるものなんて、何もないのよ。」

私はうなずいた。「わかったよ…もう奥には行かない。」

「約束よ。」

母さんの言葉を胸に刻み、次はもっと安全な範囲で材料を集めることを心に決めた。

自分の部屋に戻り、僕はバッグから取り出した素材を見つめた。次の冒険と新しい魔法具制作への意欲が、心の中で大きく膨らんでいくのを感じた。

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