第31話 エピローグ
――眩しい。
目覚めると、世界は真っ白い光を放ってわたしの目を刺した。
「起こしちゃったね」
上には月丘の顔。ああ、わたし、月丘の部屋に泊まったんだ⋯⋯なんだか急にぼっと身体が熱くなって、恥ずかしくなる。布団に潜る。買ったばかりの布団は清潔な匂いがする。
「ああ、ごめん。そういうつもりじゃなくて、明け方、雪の音がしたものだから」
雪⋯⋯月丘の開けた雨戸の向こうには確かに雪の積もった街があった。
「雪の音なんてするの?」
「するとも。ニコの音もしたけどね」
ニコの音⋯⋯それってイビキとかじゃないの? ヒヤヒヤする。
月丘はくすっと笑ってわたしの頭に手を置いた。
「寒いね」
「うん」
そのまま窓を閉めると、するすると布団に入ってくる。するすると、だ。そして、わたしの両足を自分の足で挟んだ。
「こういうのって、よく母親がやってくれたりしない?」
「うちはかなり小さい時からベッドだったから」
ああ、と彼は言って、わたしは身体を緊張させる。「同衾しない」と言ってきたのは月丘だったのに。
気が付くと、すーすーと静かな寝息が聞こえてきた。ああ、これが月丘の音なんだな、と納得する。
小鳥が枝から飛び立つ度に雪の落ちるささやかな音が聞こえる。
世界は静寂に満ちていて、同時に健やかな音に満ちている。
わたしを湯たんぽにして寝てしまった月丘を持て余す。その髪を指で梳く。いつもならわたしより背の高い月丘にはできないことだ。
昨日は眠れなかったに違いない。女と同じ部屋で平気ではないはずの人だ。
世界は静寂に満ちている――。それならわたしももう一度温かくて静かな彼の胸の中へ。
(了)
揺れる三日月 月波結 @musubi-me
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