第10話 本当の夫婦に……
セリーナによる洗脳が解けたエレノアは、己の浅はかさを思い知らされ、頬を紅潮させていた。なぜ、自分に人を不幸に陥れる力があるなどと思い込んでしまったのだろうか。そんな力が存在するとすれば、それは神か悪魔だけが持つものではないか。エレノアは自身の心の弱さを噛みしめ、知らぬ間に操られていた日々を悔いた。
夜会が開かれている大広間には、煌びやかな装飾と優美な楽曲が満ちていた。招待された貴族たちは温かい視線でエレノアを見つめている。エレノアに同情を示し、次々と彼女に声をかけてくれた。
「お気の毒に……本当に大変だったでしょう? あのような邪悪な従姉に、辛い目に遭わされるなんて。ですが、もう安心ですわ」
「悪夢は終わったのです。どうぞ、これからは心安らかにお過ごしくださいね。私たちはエレノア様の味方ですわ」
優しい言葉に、エレノアの胸はじんわりと温かさで満たされた。そして、彼女は瞳を伏せながら控えめに応じる。
「私……恥ずかしいです。自分が人々に不幸を招く存在だと思い込んでいました。そんな特別な力があるはずもないのに……」
その時、夫であるデイミアンが彼女の隣に歩み寄り、深みのある声で囁いた。
「エレノア。君には特別な力があるとも。それは人を幸福にする力さ。その歌声は、他の誰にも真似できない天上の響きだよ。久しぶりに、その清らかな声で皆を癒してあげたらどうだろう」
デイミアンの真摯な言葉に励まされ、エレノアは小さく頷いた。彼女は胸の鼓動を整えるように深呼吸し、大広間の中央へと進む。その姿は、まるで月の光を纏った女神のようだった。
会場が静まり返り、すべての視線がエレノアに集中する。そして、彼女が口を開いた瞬間、その美しい声がその場を満たした。
清らかで澄み渡る歌声が、空気を震わせる。エレノアの歌は、まるで人々の心の奥底に眠る痛みを癒し、喜びを芽生えさせるかのようだった。曲が進むにつれ、貴族たちは次第に微笑みを浮かべ、歌声に酔いしれる。涙を流す者もいれば、そっと手を握り合う夫婦もいた。その場にいたすべての者たちが、幸福感と大いなる感動に包まれていった。
最後の一節を歌い終えた瞬間、静寂が一瞬訪れる。そして、割れるような拍手が沸き起こった。人々は一斉にエレノアに賛辞を送り続けた。
「素晴らしい!」
「まさに天使の歌声だ!」
「エレノア様は人を不幸にするどころか、人を幸せにする女神様ですわ」
デイミアンは満足げに微笑み、エレノアのもとへと歩み寄った。そして、彼女をそっと抱きしめる。その腕の中は温かく、彼の心の奥底に秘められた愛情が伝わってくるようだった。
「エレノア。これからはもっと素直になって、私に甘えてほしい。そして、君の愛を惜しみなく注いでくれないか? 私はそのすべてを受け止める覚悟だよ。もちろん、けっして私に不幸が訪れることはない」
エレノアは涙ながらに頷き、小さな声で答える。
「デイミアン様……今まで、ごめんなさい。これからは心を隠さず、あなたと共に歩んでいきたいです」
二人の間に漂うのは、深い信頼と愛情の絆だった。その光景を見守る貴族たちもまた、祝福の眼差しを向けていた。
夜会は幸福感に包まれたまま、やがて幕を閉じる。エレノアの歌声が人々の心を満たし、彼女自身もまた愛する人と共に新たな未来を歩み出すことを決意した。その夜は、彼女にとっても、そして集った人々にとっても忘れられない特別なひとときとなった。
こうして、エレノアとデイミアンは再び強く結ばれた。さて、引き延ばされていたふたりの初夜は――夜会が終わり、二人きりの時間が訪れると、デイミアンは優しくエレノアの手を取り、夫婦の寝室へと導いた。
暖かな灯火が揺れる室内で、二人は静かに見つめ合う。エレノアは恥じらいながらも、その瞳には確かな愛情が宿っていた。デイミアンはそっと彼女の頬に触れ、低く穏やかな声で語りかける。その声は柔らかさと力強さを併せ持ち、彼の真摯な想いをそのままに伝えていた。
「君を一生大切にすると誓うよ。今日から僕たちは、本当の意味で夫婦だ」
エレノアは頷きながら、彼の胸に顔を埋めた。その瞬間、デイミアンの腕が彼女を包み込む。温もりに満ちた抱擁の中、二人は心からの安堵を感じていた。
窓の外では静かな夜空に星々が瞬き、二人の新たな門出を祝福するかのようだった。エレノアの心は、これまで感じたことのない充実感で満たされていた。彼女はそっと目を閉じ、デイミアンの愛情を全身で受け止める。
こうして二人は、深い信頼と愛の絆で結ばれた夫婦として、新たな人生を歩み始めた――幸福という名の光に照らされながら。
完
✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽:゚・⋆。✰⋆。:゚・*☽
途中、更新が滞り大変申し訳ありませんでした🙇🏻♀️
愛してもいいんですか? 青空一夏 @sachimaru
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