第2話 彼女からのプレゼント⁉
クリスマスイブの夕方頃の自宅リビング。
彼女は怜依の近くまで歩み寄ってくるのだ。
今日は一体何をされるのか。そんな事を考えると不安な気持ちになり、後ずさってしまう。
「なんで逃げるの?」
「に、逃げてないけど」
「だったら、そのまま、その場所にいてよ」
「本当にさ。朝里さんって昔、俺と関わっていた子なの?」
「そうよ。アンタの母親と、私の母親が昔ながらの友達だからね」
「それ、知っていたのか?」
「一応ね。アンタの方はどうなの?」
「俺も一応は聞いていたけど。でも、母親の友達の子が朝里さんだとはね」
「それについても、私の方は知ってたけどね」
「そうなの? 知らないのは俺だけ? でも、ずっと前の事だし、女の子と遊んでいた記憶はあったけど……どんな子かまではわからなかったんだ」
「あ、そう」
美冬は不満そうな顔をしている。
むしろ、昔の事を覚えている彼女の方が凄いと思う。
「それはそうと、一緒に過ごすことになったんだし、これからどうするの? アンタの方でなんか決めてる?」
「何となくね」
美冬だとわかってから、全然調子がのらない感じだ。
彼女と二人きりで、この後どうすればいいのかと怜依は悩んでばかりだった。
「私……学校では何も言えなかったんだけど」
美冬の方から話題を振ってくる。
「私ね。本当はアンタに話しかけようとはしてたんだよ。でも、アンタの方は私の事を思い出してくれなさそうだったから」
彼女は真剣な顔つきで怜依の事を見つめて話しかけてくるのだ。
「アンタは、私の事があまり好きじゃないかもしれないけど……実際のところ、アンタは私のことをどう思ってるの? 正直な事を話してほしいの……」
彼女の声は震えていた。
真実を知るのが怖いのかもしれない。
「俺は朝里さんのことが好きとか、そういうのじゃないけど」
「だよね。やっぱり、好きじゃないよね。でも、それは私でもわかるわ。アンタにだけ、冷たくし過ぎたかもしれないって」
美冬は軽くため息をはきながら言葉を漏らす。
「アンタと関わっていたのは随分と前の事だし……殆ど昔の事なんて忘れてるかもしれないけど。私は昔からアンタに関心を持っていたの……だからさ、あのね、これを受け取ってほしいの」
そういって美冬が差し出してきたのは、持参していた袋だった。
「それは?」
「中身を見てみればわかると思うわ」
怜依は、その中身を確認してみる。
その中には、白色の布みたいなモノが入ってあったのだ。
「これは……服かな?」
「セーターよ」
「セーター? なんでこれを?」
「今まで色々な事を言って申し訳ないと思っていたから……だから、持ってきたの。それはアンタにあげるわ」
「いいの? あれ? 他にも入ってる?」
「そっちの方はマフラーなの」
赤色のマフラーは、セーターに隠れるような形で袋の一番下に入っていた。
怜依はそれに手を飛ばし取ってみる。
「結構したんじゃない?」
「そんなにしないわ。時間はかかったけどね」
「時間?」
「それ、どっちも私が作ったモノなの」
「朝里さんが?」
「ええ。私、裁縫が得意だから、記念になるモノを作りたくて」
「手作りなの? あ、ありがと」
実際に会話してみると、普通に優しくて他人を思いやる心を持った子だと思う。
案外、良い奴なのではと、手作りのセーターとマフラーを手にしながら感じていた。
「今の時期は寒いだろうから使って」
「う、うん、貰っておくよ。こんなに貰っていいのかな」
怜依はセーターを着てみる。
丁度いい感じであり、サイズ感も丁度良かったのだ。
「別にいいわ。高校生になって初めての再開があまりよくなかったから、こういう事でもしないとさ、アンタの思い出を潰してしまうでしょ」
怜依のセーター姿に、彼女は作ってよかったと言わんばかりの笑みを見せていた。
「私にできる事はそれくらいしかないけど」
美冬は照れ臭そうに言う。
「ありがと。ここまで親切にして貰って」
「……そもそも、アンタが高校に入学した時に私の事を思い出してくれなかったのが問題なんだからね!」
「そ、それはごめん。まさか、昔遊んでいた子が同じ高校に通ってるなんて思わなくてさ」
その点に関しては、確実に怜依の方に過失がある。
素直に申し訳なく心の中で思う。
「そうよね。私も入学した当初、驚いたわ。アンタと同じ高校に通う事になって。名簿量も何度も確認したくらいなんだから。でも、昔とは同じに関われないと思うけど。これから一緒に思い出を作っていきたいの。アンタはどうかしら?」
彼女は恐る恐る問いかけてきたのだ。
「まあ……友達からならいいけど……俺も全然、朝里さんの気持ちに気づかなくて」
「別にいいわ。お互い様よ。それに、私の苗字も変わっていたし、アンタと昔、関わっていた時期なんて半年くらいだったでしょ」
「え、意外と短かったんだね。一年くらい関わっていたような気がしていたけど」
ずっと前過ぎて、記憶が少々美化されているようだ。
過去には色々なことがあったと思う。けれども、いつまでも過去の思い出ばかりに捕らわれてはいけないと思った。
今こうして、目の前には彼女がいるのだ。
それに、彼女の方から心を開いて話しかけてきている。
美冬の想いを素直に受け取っておこうと思った。
「友達からね……わかったわ。こんな私で良ければ」
美冬の方から手を差し伸べてきた。
怜依は彼女の想いを受け取るかのように手を伸ばす。
手を繋いだタイミングで、玄関の方からチャイムが鳴るのだ。
怜依が玄関先に向かうと、ピザ屋のデリバリー店員がやって来ていた。
その場で会計を済ませると、頼んでいた商品を受け取るのだった。
「それ頼んでいたの?」
「一応ね、朝里さんも食べるよね?」
リビングに戻って来た怜依は、ソファ前のテーブルにピザとコーラ二本を置く。
「もちろん、食べるわ」
「じゃあ……今から一緒に準備をしようか。あとは冷蔵庫の中に、チキンが入ってるんだ。それを温めればいいし。大体の準備はそれくらいで終わりかな」
「ありがと。怜依、クリスマスらしくなってきたわね」
「うん……美冬」
彼女の名前を口にすると、物凄く懐かしく感じる。
昔、彼女の名前を呼んでいた時の事を、一瞬だけ思い出せた気がした。
「ねえ、今から外に行かない?」
「なんで?」
「だって、クリスマスケーキとかってないでしょ?」
「確かに。それは頼んでなかったな」
「でしょ。近くのスーパーにあるはずだから。行かない?」
「いいよ、行こうか」
怜依は頷いて反応を返した。
怜依は彼女に貰ったセーターの上から、いつものジャンパーを身につける。
首元にはマフラーをつけた。
美冬もジャンパーを着た後、マフラーをつける。
お揃いのモノだった。
二人は一緒に外に出る。
外は寒いが、美冬と一緒にいると温かく感じるのだ。
二人でスーパーに向かってクリスマスの準備を始めるのだった。
今日のクリスマスイブの夜は長くなりそうだ。
クラスメイトの嫌いな女子とクリスマスイブを過ごすことになったんだが、その時から彼女の様子がおかしい 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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