クラスメイトの嫌いな女子とクリスマスイブを過ごすことになったんだが、その時から彼女の様子がおかしい
譲羽唯月
第1話 高校生初のクリスマスイブは絶望の始まり⁉
「サトイ、今日時間ってあるかしら?」
「時間ならあるけど、どうして?」
高校生になってから初めてのクリスマスイブ当日の朝。
リビング内には、一メートルくらいのクリスマスツリーのおもちゃが置かれてあった。
冬休みという事もあって、
そんな時に、母親から声をかけられたのである。
「暇なら丁度いいわ。今日の午後からね。昔の友達と出会うことになって」
「うん」
怜依はスマホ画面を見ながら相槌を打っていた。
「それで、その友達に娘がいるの」
「へえ、そうなんだ」
「私の友達はシングルマザーでね。その娘さんもクリスマスイブの日を一人で過ごす予定らしいの。だからね、暇ならその子と一緒に過ごしてほしいんだけど。いい記念になると思うから」
「……まあ、別にいいけど」
怜依は少し考えた後、スマホ画面から顔を離して問題はないと答えた。
「ありがと、助かるわ」
母親は笑顔を見せ、安心した口調になっていた。
「それで、どんな子なの?」
怜依はスマホをソファ前のテーブルに置いて、母親の方を見て話す。
「昔、サトイと遊んでいた子だから、少し会話したら思い出せるかも」
「昔の? どれくらい昔?」
「あんたが、小学二年くらいの時かしらね」
「へえ、そうなんだ」
高校一年生の怜依からしたら随分前の出来事であり、過去を振り返るが、何となくそんな子がいたかなと若干思い出せるレベルだった。
どういった子まではわからない。
だが、クリスマスイブを一人で過ごすくらいなら、誰かと一緒にチキンを食べた方がいいと思った。
今まで恋人すら作る事が出来なかった自分にも転機がやって来たのだと考え、怜依は心を躍らせながら、クリスマスイブを楽しむ事にしたのだ。
「あとの事は大丈夫ね」
お昼を少し過ぎた時間帯。
母親が冬服に身を包み込んで玄関に佇んでいた。
玄関先で怜依は、後の事は自分で出来るからと言って、母親を見送る。
「じゃあ、帰るのは、明日のお昼前になると思うけど。サトイも頑張ってね」
――と、母親から意味深な口ぶりで言われ、逆に変なシチュエーションを妄想してしまい、怜依は気恥ずかしくなっていた。
気が付けば、母親が玄関の扉を閉める音が聞こえたのだ。
そして、怜依は一人きりになった。
「まあ、夕食の準備でもするか」
怜依はリビングに戻る。
まだ母親の友達の娘が来るまで二時間ほどあった。
怜依はエアコンの暖房を消し、今の内に窓を開けて簡単な掃除をする。
冬真っ只中であり、外から入ってくる寒さに若干肌が辛くなってきた。
今から訪れる女の子に変な場所だと思われないように、真剣に掃除をしようと思い、必死で作業を続けるのだ。
掃除が終わった瞬間、早急に扉を閉めると、リモコンを片手に再びエアコンの暖房をつけるのだった。
「はあ、寒かった。でも、これで問題ないな。あとはお母さんがチキンを買ってきてるから、それをチンして。そうだ、コーラとかってあったっけ?」
怜依はキッチンまで向かい、冷蔵庫を確認してみる。
その中には一ℓのコーラのペットボトルが入っていた。が、その残量は僅かであったのだ。
「これじゃあ、無理か。一杯分しかないし……」
うーんと考えた後、外に出ようかとも考えたが、さすがに冬の時期に軽々しく外出するのは無理だと感じた。
「そうか、お母さんから貰ったお金があるし、宅配サービスを利用すればいいのか」
朝の時点で母親からは、五千円ほどお小遣いを貰っていた。
ある意味、クリスマスプレゼントみたいなお金である。
怜依は早速、スマホを耳に当て、宅配可能なお店のメニュー表を見ながら電話を掛けた。
注文内容はピザLサイズと、五〇〇mlのペットボトルのコーラ二本だ。
クリスマスシーズンと雪の影響も相まって、店員曰く、注文した品が届くまで一時間ほどかかるらしい。
気長に待つしかないだろう。
怜依はソファに座り、残り僅かなコーラをコップに分け、それを飲む。
普通に美味しい。
どんな子が来るのかを想像し、リビングでソワソワしながらスマホを弄って過ごしていると、その一時間後に玄関のチャイムが鳴るのだ。
時間的にピザ屋のデリバリーかと思ったが違った。
玄関の扉を開けると――
「朝里さん⁉ なんでここに⁉」
怜依は素っ頓狂な声を出す。
目の前にいた彼女も目を丸くしていたのだ。
怜依の視界の先に佇んでいたのは、クラスで嫌いな
黒髪のショートヘアが特徴的な彼女は、ジャンパーを身につけており、服には少しだけ雪がついていたのだ。
クリスマスイブの日まで、彼女と過ごす事になるとは全然想定しておらず、急激テンションが下っていく。
「……」
「……」
互いに気まずい時間が訪れていた。
だが、母親と約束してしまったのである。
美冬は電車で四〇分ほどかけてやってきたのだ。
今さら彼女を追い返す事も出来ず、仕方なく家の中に入れてあげる事にした。
「……あんたさ、私が来る事を知ってたわけ?」
「いや、知らないから。昔、遊んだ経験がある子って話は聞いていたけど」
まさか、その昔の子が、美冬だとは想定外だ。
昔の思い出を汚してほしくはない。
「ねえ……ジャンパーはどこに置けばいい?」
「……ちょっと待って、ハンガーを持ってくるから」
怜依はリビングからハンガーを持ってくると、玄関で靴を脱いでいた彼女に渡す。
「スリッパはそこにあるやつを使えばいいから」
「わかったわ。それで私はどこに行けばいい?」
「一先ずリビングにくればいいから」
「わかった……上がらせてもらうわね」
互いの会話は希薄なもので、カタコトみたいなやり取りになっていた。
彼女は程よく温かくなっていたリビングに入ると、ホッとした顔を見せていたのだ。
そんな姿を見、一瞬可愛らしく思ってしまった自分を殴りたくなった。
そもそも、美冬の事は好きじゃない。
美冬は他の人に対しては優しいのに、普段から怜依にだけ嫌味な話し方をしてくる。
別に嫌な事をしたわけでもないのに、彼女からの当たりが強いのだ。
馬が合わないというか、住む環境が違うのではと、冬休み前から怜依は思っていた。
怜依はあまり関わりたくないという思いが心の中で渦巻いていたのである。
今日は一緒に家で過ごす事となり、クリスマスという一年で大切な日を奪われた感じになっていたのだ。
現実から目を離そうと思っても、同じリビング内には彼女がいる。
逃げる事も隠れる事も出来やしないのだ。
怜依は頭を悩ませながら、その場に佇んでいた。
「ねえ、今日はクリスマスイブらしく過ごすって聞いていたけど」
「ま、まあ、そんな感じ」
「何も用意してないの?」
ダイニングテーブルにはまだ何も置かれていない。
「一応、用意するよ。でも、朝里さんの方が早く来たから」
二人は変な距離感を維持しながら、リビング内で立ち、やり取りを交わしていた。
「あ、あのさ……」
なぜか、彼女の方から話しかけてきたのだ。
「え?」
「私。この際出し、ちょっと話したいことがあるんだけど」
「なに、急に?」
美冬の様子が少し変わった気がする。
怜依が彼女の方を見やると、美冬の方から距離を詰めてきたのだ。
お、俺……これから何をされるんだ⁉
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