聖夜のプレゼント

砂漠の使徒

今年もやってきた

「ふぅ……」


 今日はクリスマス。

 異世界にクリスマスがあるのかって思うかもしれないけど、あるものは仕方ない。

 ここはゲームの世界だからなんでもありなんだろう、うん。


「……」


 でも、クリスマスだけじゃなくて仕事もある。

 今日も今日とて、僕はギルドでモンスターの調査をしていた。

 これも世界の平和を守るためだ、仕方ない。


「ただいまー」


 あれこれ考えていると、いつの間にか家に着いていた。

 というか、この家が職場から近すぎる。

 徒歩5分だ。


パーン!

「メリークリスマスー!」


「うわぁ! え……?」


 ドアを開けた瞬間、大きな音とカラフルな紙が辺りを舞った。

 その奥には、彼女のいたずらそうな顔が浮かんでいる。


「え……? じゃないでしょ、佐藤! 今日はクリスマスだよ!?」


「あー、そうだった。うん、わかってたけど……」


「もうー、だいぶ疲れてるみたいだね?」


「うん、そうなんだ。今日は早いとこ……」


「ダーメ! まだベッドには行かせないよ!」


 そう言うと、彼女はなぜか羽織っていたマントを脱ぎ捨てた。

 その下に着ていたのは、なんと……。


「さ、さんた……?」


「そう、サンタ服! かわいいでしょ!」


「う、うん……」


 得意げにポーズを決める彼女はいつにも増してかわいくて……少し大人な感じがした。

 幼い彼女には似合わないようで、すごくしっくりくる不思議な衣装を僕はまじまじと見つめる。


「せっかく買ったんだからさ! 行こ、クリスマスデートに!」


「あっ、ちょっ!」


 未だ開けっ放しだったドアの向こうへ、彼女は僕の手を引いて飛び出していく。


――――――――――


「クリスマス限定! スカイバードの焼き鳥だよ〜!」


「あ、おじさん! それ2本ください!」


「おおっ、今夜はまた一段とかわいいじゃねぇか、お嬢ちゃん! 素敵なサンタに免じて、一本オマケだよ!」


「わーい、ありがとうございます!」


 通りは色とりどりの飾りできらめいていた。

 この世界に電気はないので、頭上にあるランプに灯っているのは炎。

 ぼんやりとした灯りが、僕らを照らしている。


「おいひーね、さとー!」


「うん、そうだね」


 そして、通りに並んでいるのは数々の屋台。

 あれ、クリスマスってこんなんだっけ?

 夏祭りと混ざってない?

 とも思うけど、ここは異世界なので気にしても仕方ない。

 とにかく、屋台があるおかげで楽しめているのだから感謝すべきだろう。


「楽しーね、佐藤!」


「うん、そうだね」


 さっきと同じ返事をする僕。

 だって、緊張してるんだもの。

 こんなにかわいいシャロールが隣にいるんだ。

 いつも通りにしてるなんて無理だよ。


「ねぇー、佐藤?」


「うん、そうだね」


「もう……。大事なもの、忘れてない?」


「え?」


「こっち来て!」


「わっ!」


 シャロールが突然僕を引っ張った。

 引き込まれたのは、薄暗い脇道。

 たまに良からぬことも起こる場所だ。


「シャロール、ここは危ないよ。戻ろう?」


「うん、わかってる。でも」


「うん?」


「佐藤が、プレゼントくれるまで動かないから」


「え……!?」


 サンタがプレゼントをねだるとはこれいかに。

 いや、問題はそこじゃない。

 そうだ、プレゼントだ。

 ここ最近忙しくて……。


「忘れてたんでしょ? 佐藤はうっかり屋だから」


「うっ……」


 図星だ。

 彼女の冷たい視線が突き刺さる。


「だから、なんでも良いからなにか買ってきてよ!」


 一瞬、明るい通りの方を見る。

 たしかに、先ほどまでの屋台を思い出すと、彼女の喜びそうな髪飾りや服も売られていた。

 それをプレゼントしてほしいのかな。


「わかった」


 こうなったら、彼女はテコでも動かない。

 要求通り、プレゼントを渡すしかなさそうだ。


「ほんと!? じゃあ私ここで待ってるか……ら? 佐藤?」


 僕はそっと彼女の両肩に手を置いて、目を合わせる。


「わざわざ買う必要なんてないよ。これが僕の君への最大のプレゼント」


「んっ……!」


 目をつぶり、唇を重ねる。

 仄かに感じたのは……焼き鳥だ。

 少々ロマンに欠けるけど……。


「さぁ、満足した?」


 ゆっくりと唇を離す。

 さっきまで目を合わせてくれていたのに、今は斜め下を見つめている。

 顔がサンタ服と同じくらい紅く染まっていた。


「もう……佐藤のバカ……」

「こんな……こんな……」

「こんなプレゼント……」


「これじゃあ嫌だった?」


「……ううん。もっと……ほしい」


「シャロールは欲張りだなー。あんまりおねだりする悪い子には、プレゼントはお預けかな」


「ええ!?」


「帰ろう、シャロール!」


「あっ、佐藤!」


 今度は僕が手を引く番だ。

 明るい通りに出て、人混みを縫って駆けていく。


「ね、ねぇ!」


 なにか言いたそうに、声をかけるシャロール。

 僕は足を止めずに、一瞬だけ振り返って笑いながら告げた。


「続きは家で! 良い子なら我慢できるでしょ?」


「もう……わかりましたよ〜だ!」


 不満そうな言葉とは裏腹に、彼女は繋いだ手に力を込めるのだった。


(おしまい ?)


「シャロール」


「ん〜?」


 僕はソファに寝転んで本を読んでいる彼女に声をかけた。


「これ、クリスマスプレゼント。遅くなってごめん」


 昨日はあんなことを言って誤魔化したけど……いや誤魔化してはないけど!!!

 ちゃんとした、形に残るプレゼントも渡したかった。

 だから、朝からいろんなお店を回ってきて選んだんだ。


「……」


「受け取ってくれるかな?」


 本から顔を上げて、キョトンとした顔で僕を見つめている。

 これは……どっちだろう?


「佐藤」


「な、なに?」


「ありがとうー!!!」


「わっ、シャロール!」


 まさしく猫のように、シャロールはいきなり飛びついてきた。

 僕達はそのまま床に倒れ込む。

 ちなみに、床には柔らかいカーペットが敷かれているので痛くはなかった。


「佐藤、だーいすき!」


「ふふふ、僕もだよ」


「……でも」


「ん?」


「プレゼントなんかなくっても、私は佐藤のこと好きだよ」


「……ありがとう」


 こうして、クリスマス延長線は幕を開けたのだった。


(ほんとうに おしまい)

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聖夜のプレゼント 砂漠の使徒 @461kuma

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