第5話

棚からぼたもちならぬ、棚からシフォンケーキと表現したらいいのかもしれない。


『これからもこういう時間を一緒に共有したいので、私と付き合ってくださいっ!』


 先に好きだと告白した俺に、ショートケーキのイチゴみたいに、真っ赤な顔で告げられたセリフは、自分が考えていたものよりも心に衝撃を与える、アイツらしいものだった。


 すごく嬉しかったくせに、いつものごとく憎まれ口で切り返してしまったのは、正直なところ失敗だった。


 ちょっぴり反省しながら、繋いでる手に力を入れる。柔らかくてあたたかいアイツの温もりが、手のひらからじんわりと伝わってきた。


 こうして直接触れ合える幸せを噛みしめつつ、エレベーターのボタンを押したタイミングで、やっと気がついた。


「……やべっ!」


「どうしたの?」


「嬉しすぎて、昼食のゴミをベンチに置きっぱなしにしてきた……」


 このまま仲良く部署まで戻りたかったのに、現実はそう甘くない。


「ここで待っててあげるから、早く取りに行きなよ」


 思いっきり白い目で見られても平気でいられるのは、さっきキスした唇の両端が上がっているから。もしかして内心で俺のドジを笑っているから、こんな表情になっている可能性が無きにしも非ず!


 そんな考えごとをしていると、さっさと行けと言わんばかりに、力いっぱい押されてしまった背中。小柄なくせにその力は相当なもので、屋上の扉に向かって足が自動的に動いた。だけど繋いだ手を放しにくくて、思わずまごつく。


「ほらほら、早く!」


「おう、行ってくる……」


 俺の気も知らずに、アイツは振り切る感じで手を放した。自分の手と目の前にある顔を見比べると、犬を追い払うような仕草をされる。


「あと20秒で戻ってこなかったら、手を繋いであげない。お昼休みはあと少しで終わっちゃうんだから、早くしなさいよ!」


 どこか冷たい態度に納得できず、渋々踵を返した俺に向かってかけられる、弾んだアイツの声。それを聞き終わる前に、ベンチまで全力ダッシュした。


 アイツが言ってた、一緒に共有できる時間を大切にしなければと、突きつけられた時間よりも早く戻り、無事に手を握りしめることができた。


 乗り込んだエレベーターの扉が閉まると同時に、アイツの唇にキスして、念入りに触れ合うことも忘れない――。


Happy End

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ほろ甘さに恋する気持ちをのせて【完】 相沢蒼依 @aizawa_aoi

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