第3話 責任
「陛下」
「どうしたのだ、朝から」
ゴミにしか見えない息子を前に取り繕う必要も感じない私はゴミに向けるのと同じ視線をバカ王子と男爵令嬢と王妃に向けた。
「エルシリアとの婚約破棄に同意くださりありがとうございます。私は王太子としての責務を果たすべく、このマリアと婚約し、今後王族、王太子としての役目を果たしてまいります」
"同意"という言葉のあたりで周囲は騒然となる。これはまずい。
バカの背後でニコニコしている厚化粧女は気持ち悪いし、その後ろで何に感動したのか涙を流している王妃はもっと気持ち悪い。
どれだけの人間の気持ちを踏みにじってそんなきれいごとを言っているのか。
これを伝えるのは私の役目だな。
「許可などしておらぬ」
「は?」
私の言葉にきょとんとするバカ王子。
誰かこの顔を描いて欲しい。そして代々、バカなことをするなと言う戒めの絵として語り継いでくれないか?
「どういうことですの、陛下。昨日は……」
王妃が慌て始め……たんじゃないな。ただ怒り出しただけだ。
「同意などしておらぬ。なにやら喚いているから王家としての責務を果たせと言ったまで。つまり、正当な婚約者であるエルシリア殿を立てよと言ったのだ」
「なっ……。恐れながらあの毒女はか弱い女を虐め、それを隠し、周囲を脅すような女です。そのようなものが国の母たる王妃に相応しいとは思えません。王妃とはクシャナ様のように暖かく、慈しみを持っていなければ」
お前の母が暖かいのは自らの希望、野望、プライドを満たしてくれる相手だけだ。
慈しむのはおためごかしを喋り続けるやつらだけだ。
「まったく。謝罪にでも来るかと思えばなにをバカな夢を見ているのだ。お前はもう廃嫡だ」
「廃嫡ですと!?」
「陛下! なんということを仰るのですか!? それはまさか公国の血を排除したいがため、ということでしょうか? それなら私にも考えがありますわ」
さらにこの期に及んでこちらを脅してくる始末。
こちらはもうすべての準備が終わっているのだ。
「陛下……」
そうこうしているうちに3人が戻ってきたようだ。
この場で見えているのは1人だが、彼だけは表向きの役職もあるからだろうな。
「無事終わらせたか?」
「はい。宰相は逮捕。財務大臣は抵抗したため両腕を切り落としましたが無事確保しました。商会についても数々の不正の証拠を商務大臣に渡して処理を始めております」
"両腕を切り落としましたが無事確保"というパワーワード。笑ってしまうからやめろ。
「「「なっ」」」
一様に驚くバカ(王子)と、バカ(王妃)と、バカ(男爵令嬢)。
「それからエルシリア様についても無事に公爵家に送り届け、謝罪をし、一応はおさまっております」
「うむ。ご苦労」
「「はっ」」
1人しかいないはずなのに2人の声がするのは怖いからやめろ。
「どういうことですか陛下!」
バカはいまだに理解できていないバカだな本当に。
「エルシリアは聖女であり、とても優秀で献身的な女性だ。彼女との婚約を破棄したお前に価値はない。だから廃嫡する。王妃は長年不当に金を使い続け、様々な不正に手を染めている。だから商国に着き返す。宰相は商国と内通している。だから罷免する。財務大臣は徴税権を悪用して真面目な貴族や商会や民を苦しめ、さらに宰相に賄賂を贈っていた。だから罷免する。バロア商会は商国や宰相、財務大臣や王妃の手先となって動いていたから営業許可を剥奪する。そこの男爵令嬢は王子を篭絡して無用の混乱を引き起こした。だから貴族籍を剥奪する。以上だ。ちなみにすべてに証拠があるから抵抗は無駄だ」
「「「なっ……」」」
どうしようもないと崩れ落ちる3人。
おいバカ王子。せめて足掻くとか言い返すとかそれくらいの気概は見せろよ。そうしないと少なくともそこの男爵令嬢は可哀そうだろ?
「ただ廃嫡しても周囲に迷惑をかけるだけだろうから、貴族籍は残してやる」
「えっ?」
打てば響くバカ。全く理解できていないのに嬉しそうなのはなんでだ?
「そこの男爵令嬢との婚約は認めてやろう。というか既に認め、教会の書類は作成して提出済みだ。良かったな。おめでとう。で、お前の任地はパトリアだ。魔の森に封じられて来い」
「「いやだ~~~~~~~」」
まぁ1年くらいは生きてられるんじゃないか?
2年生きてたら凄い。凄いだけで何もしてやらないが。
なんとか無事に収められた。
その後、王国を訪れた帝国の第三皇子とエルシリアとのお見合いは私が全力で支援し、無事成立した。
「おめでとう」
私は心の底から祝意を伝えた。
帝国とは新たに同盟を結び直した。
なんとエルシリアの返礼として、帝国の高位貴族の娘がリュート王子の伴侶となった。
近年帝国では悪霊の出現が増えており、それの対処ができる聖女であるエルシリアはとても重宝されることになった。
それを快く送り出した王国と仲良くなるのは当然だった。
ゲームの世界では悪霊に苦しめられた帝国が対処する武器を作り出し、それによって押し出された悪霊が王国を魑魅魍魎の世界に変えてしまうんだ。
それが端から対処された。
喜ばしいことだ。
そして帝国は感謝のしるしを最大限に示してくれた。
助かった……。
ホッとした私はこれまで迷惑をかけたものたちに謝罪し、リュート王子への禅譲を企図し、実行した。
あまりに早い交代となったが、こうでもしないと覚悟を示せないと思ったからだ。
思い出せば思い出すほど、以前の私は酷かったからだ。
バカ王子と一緒に処刑されてもおかしくはなかった。
それがのうのうと生きていくなんて許せない。
そう思うやつがいてもおかしくない。
だから逃げたんだ。
そうして今は……
「元陛下。早く起きてください。二度寝ですか? 永遠に?」
「おぃ!」
「早く行きますよ。今日はファーニの丘でピクニックです」
責任を取って、影の面倒を見ているよ。案外楽しくな……
***
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