第2話 バカには全員思い知らせてやるぞ!

「どうされるのですか?」


迷っていたら処刑される。

なんでこんなタイミングで前世のゲームのことなんか思い出したんだ。

勘弁してほしい。


そもそも前世で死んだ記憶はないし、成人してなくて素敵な人と結婚もしてない。ハーゲン〇ッツで冷凍庫を埋める夢も叶えてないし、稼いだお金で温泉三昧もしてない。

いつ死んだんだ?

まぁ、今ここに私がいるということはきっと前世では死んだんだろうし、今さら何を言っても無駄だ。何も変わらない。恋人もいなかったし、ろくな就職ができたとも思えないから気にしないで行こう。


今考えるべきはこの状況をどうやって回避するかだ。

バカ王子はもうどうしようもない。切り捨て決定だ。なんなら王妃もポイでいいや。あいつに愛情なんかない。ただの政略結婚だし、今まで20年近くただただ面倒な人だった。


バカ王子が勝手にやったことにしよう。廃嫡決定な。

きっと明日になればすぐにあの男爵令嬢と婚約させろと言ってくるだろうから、その時に切り捨てよう。

王妃はきっと怒り狂うから、これまで貯めに貯めた不正の嵐を全部暴露しよう。そうだ、隣国に賠償請求するのもいいな。

なに、結婚した時はこっちが帝国を押し返したころで不利な条件で押し付けられたが、今は帝国との関係は悪くないから問題ない。


そうだな。帝国には連絡しておこう。

そう言えばエルシリアは昨年訪れた帝国の第三王子から高い評価を受けていたな。彼は婚約者はいないはず。

どうせ国内には目ぼしい男子はいないから、なんなら嫁いでもらって今後の両国の関係の礎になってもらおう。

エルシリアは王族の血も引いていて、14位と低いながらも王位継承権まで持っている。


今後はバカ王子の弟のリュート王子を王太子にするが、彼も失敗するならなんならエルシリアを立てて帝国の第三皇子を王配に立てた方がいいかもしれないな。


まぁ、現時点では行き過ぎた考え方だが、オプションとして持っておこう。

バカ王子とあの化粧塗れの男爵令嬢はどんな未来でも邪魔だから魔の森の領主にでもしておこう。

生贄だな。


それからなぜかバカ王子の援護をした宰相の息子。あれはダメだ。

今の宰相には黒い噂があったな。


「陛下? 耳はついてますか? どうされるのですか?」

「うるさいな。今考えている」

この露骨に失礼な女は私の部下だ。公式には存在しない影だ。

存在しないのをいいことに、言葉遣いは最悪だ。

まぁ、私が記憶を取り戻す前の国王自身も最悪だったから仕方がないか。

無理やり抱いたりしてたしな。


今は生き延びることに集中しよう。

謝罪は後だ。


「考えている間にも事態は進行しますよ? 手遅れかもしれませんよ? 馬鹿なのですか?」

「えぇい、うるさい。バカは王子だ」

「おぉ? どうしたのですか? どこかに頭でもぶつけたのですか? まともになったならケーキでも買ってきますよ?」

うるさい……考えに集中できない。


「エルシリアを救出してくれ。可能なら公爵家まで送り届けて欲しい。その際に、例えば帝国の第三皇子と縁をつなぐことについてどう考えるか探ってくれ」

「無理でしょ。どんなどんでん返しなのですか? 悪くはない案ですが、なぜ今になって?」

「バカを断罪することは内密にと言いつつ伝えて構わない。王妃も捨てる。良い機会だ。膿を全部叩き出すのだ」

「膿の親玉が何を?」

「うるさい。行け!」

「わかりました。報酬はちゃんとくださいね」

「ほれ」

私は金貨の入った袋を投げた。それを慌てて受け取る女。


「冗談で言ったのに、あのケチでケチで死んだ部下へのお供えすらケチる王様が!?」

「早く行け!」

「はい~。良いですね。楽しくなってきました♪」

まったく騒がしい。


しかしまず第一手を打った。


やるなら一気にやらないといけない。

バカ王子、王妃、宰相、それに財務大臣とあとは王家を食い物にする悪役商会だな。


「誰か」

「「「はっ……」」」


3人の汚い顔をどう切り刻むか考えながら部下に声をかけたら、ちゃんと3人で来るとは、良い教育がなされているな。


「リジュとのやり取りを伺っておりました。ついに動くのですな」

「あぁ」

あっぶね。いつから見てたんだ?

こいつら3人はめちゃくちゃ真面目で、真面目過ぎて王城の闇とか暴いてきてしまうから適当に宰相とか大臣とかの権威あるやつらを探らせていたんだ。


最も黒いのは私自身だがな……。


「財務大臣は徴税権を悪用して私腹を肥やし、それを宰相に賄賂として送って便宜をはからせていました。宰相はその金を使って商国と内通し、王国を牛耳る機会を探っていました。バロア商会は商国の手先です」

調べるまでもなく全てそろっていた乙。



くっくっくっく。明日が楽しみだ。

バカには全員思い知らせてやるぞ!



「陛下。あとはエルシリア様を慕っている貴族たちを抑える必要があります」

「いつから私の後ろに立っていたんだリュート……」

そんな気配はなかったはずだろ?

なんだ?

私が何も動かなかったらもしかして刺されていたとかか?

怖すぎるだろう、息子よ。


「いつからもなにも、最初からここにいましたよ? それにしても陛下。ようやく動かれたのですね。てっきりエルシリア様を捨て駒にしたのかと思いましたが、そうではないようで安心しました」

「もちろんだ。あの娘は優秀だ」

「まさか陛下からそのような言葉があるなど。ゴミを見るような目をしていたので、彼女もいつも思い悩んでいたのですよ?」

……まずい。そうだった。


国王は自らの安寧……と言う名の散財、豪遊のために優秀なものを遠ざけていた。

なぜか賄賂だけは嫌いという意味不明な性格だったためにそれを行ったものは悉く解雇されたが、正当な豪遊が大好きだった。

つまり予算配分で国王と王妃のものがとても重大なものとして考慮されてしまっていた。


そういえばゲームでもリュートだけは高潔な王族として民衆に迎えられ、王国が滅んだあともリーダーとして活躍するらしかった。

らしかったというのは、ゲームではこれ以降の描写がないからわからない。



「ふん。だからといって婚約破棄に加えて投獄というのはやりすぎだ。そんなこと許していない」

「そうでしたか……」

「聞いていたなら話は早い。あのバカは廃嫡して、お前を王太子にする」

「ありがとうございます。では、私も"内密"に彼女の支援者たちを抑えに行きます」」

「あぁ……」

頼む、とは言えなかった。


その理由が自分の保身だからだ。

なんであいつはあんなに極まった目をしてるんだ?

もしかしてエルシリアに気でもあったのだろうか。

それをみすみす帝国に取られることが気に入らないとか?


まずいな……うまくいってもずっと次代の国王に恨まれるとか、私の安寧が脅かされてしまう……。








翌朝……

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