第5話


「……大丈夫かな」


 御子柴の様子を少し不安に思いながらも部室へと向かう。


 ちなみにこの学校では生徒全員が何かしらの部活や同好会に入らなければならないという規則がある。


 ただ、中にはこうした活動に興味ない人達は適当に入り、後は幽霊部員になるパターンがかなり多い。


 しかし、部活動に限ってはその辺りかなり厳しいらしく、無断で休む生徒は強制退部にされてしまう様だ。


 そうなれば内申書などに響くので、そういった人達は基本的にルールが緩めな同好会に流れる。


「……」


 そして、私が所属している『オカ研』もその例に漏れる事なく、本来所属しているはずの人数の内三分の二が幽霊部――。


「残念。四分の三よ」

「こ、こんにちは。いたんですね」


 活動場所として使っている教室のドアを開けると、私と向き合う様に椅子に座っている一人の女子生徒。


「ええ。今日は早くホームルームが終わったから」

「へぇ、そうなんですか」


 ニコニコと「そうなの」と微笑みかけるのは三年生で『オカ研』の部長『緑山みどりやま照子てるこ』である。


 そして実は生徒会長でもあり、そうなった経緯は生徒たちの間では結構有名な話だ。


 なんでも先輩の母が外国の人らしく、先輩の髪は生まれつき金髪で先生に怒られたのがきっかけらしい。


 昔は「黒く染めて来い」とまで言われたらしいけど、今はそこまでは言われないものの苦言は言われる。


 生まれつきなのに。


 この事で先輩は生徒会長になる事を決意し、実際に「地毛登録」が出来る様にした。


 コレは小さい頃の写真を持って来て自分の髪の色や毛質などを事前に登録出来るもので、これにより元々髪の色が茶髪っぽい人や癖っ毛の人達は嫌味など言われる事も減り、かなり感謝されたらしい。


 しかし「なんでそんな人が『オカ研』に?」と思う人もいるだろう。何せ私も最初はそう思っていたのだ。


「――だから、オカルトとか都市伝説とか怪談が好きだからって言ったじゃない」

「……人の思考を読まないで下さい」


「だって真山さん分かりやすいから」

「……」


 先輩はいつもそう言う。


 ただ、そんな事を言うのは緑山先輩だけである。元々表情は乏しい自覚はあるけど……。


「それより……御子柴君は?」

「……」


 いつも来る時は一緒な事が多いからなのか気になったのだろう。


「あーっと。ちょーっと遅れるみたいです」


 ただ、今回は理由が理由な為、正直素直に言いづらい。


 何せ先輩は基本的に自分にも厳しいけど、人には優しい……けど、自分の努力でどうにかなる事に関してはかなり厳しい。


 そんな人に「再テストで遅れている」なんて……。仮にこれが「サッカー部関係で……」とかそういった理由なら良かっただけど……。


 ただ、先輩は大体の部活動の活動日を把握している。さすがに部活動関連で嘘はつけない。


「……」

「まぁいいわ。それより、今日の活動内容なんだけどね」


 私の表情を見て何となく察したのか「本人に聞けば良い」と思ったのか、意外にもあっさり引いてくれた。


 いや、それ以上に私に話したい事があるのか先輩は深刻そうな顔で私を見つめる。


「実はちょっと相談……というかここ最近気になる事があってね」

「……何でしょう」


 先輩の様子を見るに、あまり愉快そうな話では無さそうだ……。そう私は感じていた。


「気になる事……ですか」

「ええ。少し前にこの周辺にある神社の池を見て回った事があったでしょう?」


「ああ。河童伝説の」

「ええ、この学校に伝わる『七不思議』の一つの」


 結局のところ。これといった成果はなかった。


 ただ、基本的に『オカ研』の活動何て大体こんなモノだ。いつもはこういった「七不思議」や噂話などを調査し、それらをまとめて文化祭で冊子にしたり掲示したりしている。


 それがいわゆる「活動報告」みたいになっている……という訳だ。


「実はね。その後くらいから放課後に学校内で姿を消す生徒が出ているらしいのよ」

「え……そ、そんな話……」


 聞いた事がない。


「あ、言い方が悪かったわね。確かに姿は消すけどずっとじゃないの。正確には数十分程音信不通になる。会話の途中でいきなり電話が切れるなど連絡が途絶える。こちらからも向こうからも連絡が一切取れなくなるらしいの」

「その間にその人を見た人はいない……」


「ええ。確実に学校内にいるはずなのに」

「……」


 普通に考えてそれまで普通に会話が出来ていたのに突然連絡が取れなくなるのは怖いだろう。


「電波が悪いところなんてこの学校ではないはずなのに、突然連絡も取れなくなり、その生徒の姿を見た人もいない」

「まるで神隠しですね。充電がなくなったなどの偶然という事は?」


 私の問いに先輩は首を振って否定した。


「ただ、その数十分後には何事もなく電話も通じるし、その子も見つかっているから今のところは大事おおごとにはなっていないけど……」

「確かに気になりますね」


「当の本人曰く、突然歩いていたはずの廊下が真っすぐに伸びてそれがずっと続いている様な感じだったらしいわ」

「ずっと……ですか」


「後。この現象が起きるのはどうも学校の中だけ……。何かありそうって思わない?」

「そうですね」


 確かに今の話はオカ研としてはそそられる話ではある。


「でも、これって言ってしまえば誰に起きるか分からないって事ですよね?」

「……そうね。今のところこの現象に巻き込まれたのは生徒会の書記との子とテニス部でミーティングをしていた子。クラスも違えば部活動も違う。多分その読みで合っていると思うわ」


「それって完全な運任せじゃないですか」

「……そうね」


 私がそう訴えかけると、先輩はなぜか「フフ」と笑い、私はそれに思わず呆れていると……。


「すみません! 遅れました!」


 教室のドアが突然大きな音と共に開き、そして大きな声と共に礼儀正しく頭を下げる男子生徒の姿があった――。

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2024年12月18日 18:23

囚われた影 黒い猫 @kuroineko

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