第4話
「おーい。採点終わったってよー!」
一時限目に行われた小テスト自体は授業時間の三分の一も使わず終わり、昼休みに入るタイミングには採点も終わって本人たちの手元に戻って来た。
「……ふむ」
そもそも問題数もそこまで多くはなく「漢字テスト」の様なモノだったのでそこまで「勉強しないと全く解けない」という程ではなかった。
その証拠に「あ、良かったぁ。大丈夫だった」などとあれだけブーイングをしていた割には意外に良い点数でホッと胸をなで下ろしている人たちがチラホラといた。
ただまぁ、中には「赤点」を取ってしまう生徒も当然いる訳で……。
「あ、いつもの如く赤点のヤツは合格点が取れるまで再テストだとよ」
「はぁ!?」
サラリと告げられた「再テスト」という係の言葉に教室内で沸き起こるブーイングと「ど、どうしよう」といった困惑の声。
でもまぁ無理もないとは思う。
ただ、神薙先生の小テストを受けたのはこれが初めてではない。しかし、小テストの度赤点の生徒は再テストになるけれど、内心「今回は違うかも」と期待してい待っていたのだろうから。
「そんな事、一言も言ってなかっただろ!」
「いちいち何度も言わなくてもいい加減覚えなさいだってよ」
「……マジかよ」
「今までずっとそうだったんだから例外はないって事なんだろ」
係の生徒はそう言って友人と思しき生徒を慰めていたが、要するに「こうなる前に日ごろからちゃんと勉強しておきなさいよ」という神薙先生なりのメッセージなのだろう。
なんて思いつつ再度赤点ではないモノのそれなりの点数を確認し、ファイルにテスト戻した瞬間。
「……ん?」
不意に感じた後ろからの重苦しい空気。振り返らずとも分かってしまう。きっとこれは……。
「……」
わざわざ声をかけるまでもなく、この「どんより」とした空気は御子柴から発せられたものだった。
「……」
御子柴の視線は完全に下に降りており、その先には先程返されたテストが握られている。
こちらから「どうしたの?」と聞いた方が良いかも知れないけれど……普段向こうから話しかけてくるのでこちらからはどうにも声をかけにくい。
ただ、私的には今回のテストで赤点を取るのは正直……難しいと思ってしまっていた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
国語教師で担任の神薙先生の小テストはとにかく「合格点を取ればそれでいい」という事で有名だ。
普段は物腰柔らかく可愛らしい雰囲気で下手をすると女子生徒よりも小さく「なぎさちゃん」なんて生徒からは呼ばれている。
ただ、こうした規則や決まり事はキッチリと守るタイプでもあり、だからこそこうした小テストでも「見逃して!」なんて言葉は通用しない。
いくら予定があろうが余程外せない……それこそ危篤などでなければ最悪の場合は次の日に繰り越してでも受けさせる。
つまり、たとえ部活動で大事な試合や大会が近かろうと再テストになってしまえば部活動に参加すらさせてもらえないのである。
「はぁ……」
「何。重いため息なんてついて――」
ここで私はふとそのまま「御子柴らしくない」と言いそうになり思わず止めた。
「いや。赤点取っちまって」
そう言って御子柴が見せた点数は「三十四点」と言う何とも微妙な点数。しかもよく見ると、バツよりも微妙な三角がほとんどだ。
小テストとなると、普通のテストと違い一問の配点も大きいのでたとえ三角でも積み重なってしまうと赤点になってしまうのだろう。
「はぁ」
御子柴はサッカー部のレギュラーである以上にサッカー自体が大好きなスポーツ少年。いや、青年。どちらにしてもやはり再テストは絶対避けたかっただろう。
「早く合格点を出せばいいだけの話でしょう? それくらいの点数だったらちょっと見直せばすぐに取れると思うけど」
そう。再テストがあるのは放課後。早い段階で合格点を取りさえすれば部活動に参加する事が出来る。
ただ、この合格点は「八十点」とかなり高いモノになっているけど……それは多分。最初に受けたテストと全く同じ物を出しているかららしい。
「それはまぁ……そうだけど」
しかし、御子柴の表情はどことなく浮かない。これはきっと相当自信がないらしい……と、いつもとは打って変わってしょんぼりとしている御子柴を見てそう思った。
「そ。そういえば、今日オカ研の活動だったよな」
「え、うん」
私は部活動には所属せず『オカルト研究会』通称『オカ研』に所属している。
一応「研究会」と言う名前になっているけど、形式的には「同好会」と呼んだ方が分かりやすいかも知れない。
どうして「部活動」ではなく「同好会」という形を取っているのか。それはこの学校では何も実績などがなければ「部活動」として認められないからである。
ただ「同好会」でも立ち位置としては「部活動」とあまり差がない為、生徒たちの認識としては「本気で大会で成績を残したければ部活動に入る」みたいな感じだ。
だから「みんなでワイワイ楽しくやりたい」という人たちは大体「同好会」に入りみんな楽しく活動を行っている。
要するに「自分がどうしたいか」で部活動か同好会か選べる形になっているという訳だ。
だからこの学校では「バスケ部」もあれば「バスケ同好会」もある。そして「サッカー同好会」では日によってフットサルもやっているらしい。
ちなみに御子柴はサッカー部に入りつつもオカルト研究会にも所属……といういわゆる掛け持ちをしている。
だからオカルト研究会の活動日を知っていたという訳だ。
私としてはただでさえサッカー部だけでも忙しいと思うのだけど、御子柴曰実はサッカー部は週二日で休みがあるらしく、その内の一日がちょうど毎週のオカルト研究会活動日と重なるから無理なく参加出来る……という事らしい。
でも、正直「休みたいと思わないのかな?」という疑問が浮かぶ事もあったけど……。
「はぁ、行きたかったな」
どうやら御子柴本人はあまり「休む」という事をしたくない人間らしく、どことなく凹んでいる。
「え、サッカーじゃなく?」
「この間の活動日にも行けなかったからな。それに、サッカーの方はしばらく試合とか大会の予定はない。ゴールデンウィークは練習漬けになるけどな」
そう言いながら笑うけど、正直。未だに御子柴がわざわざ兼部をする理由は謎のままで、いくら本人が休む事をしたくない人間だったとしても兼部をする理由にはならない。
当の本人に聞いても「気分で」という事らしいけど、私としてはどうにも腑に落ちない。
ただ、本人にそう言われてしまったら「ああそう」としか返せないのもまた事実だ。
「はぁ、やるしかねぇか」
「……そうね」
ここで一言「頑張って」と激励の言葉でもかけられると良かったのかも知れない……そう思った時には既に遅く、結局その言葉をかける事は出来なかった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「……じゃ、頑張って」
「!」
そうして迎えた放課後。
昼休みの時には声をかけらなかったものの、とりあえず一言声をかけた方が良い気がし、再テストに向けて勉強していた御子柴の方を向いて軽く会釈をしてしながら声をかけた。
「お、おう。またな」
当の御子柴はまさか応援されると思っていなかったのか、驚きを見せつつも私にちゃんと返事を返してくれた。
「……」
思えば今まで朝に挨拶はするものの、自分から声をかけた事がなかったことに気が付いた。
いつもは向こう。つまり御子柴の方からだったから……。
だから御子柴がかなり驚いた様に見えたのはきっとそういった経緯からだろう。ただ、当の御子柴としては返事を返したものの、あまり余裕はなく正直それどころではなさそうではあった。
なぜなら……。
「はーい、それじゃあ席に着いてー始めまーす」
これから彼には「いつになったら帰れるのか」という「再テスト」という名の戦いの火ぶたが切られるからである。
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