第3話
でもまぁ、どんな理由や因果があるにしろ、私たちがこうして同じクラスになったのは紛れもない事実である事には変わりない。
「え、でも私はこの学校に入る前からの知り合いだって聞いたよ?」
「え? それ本当?」
そう、これは彼女たちの言っている通り。
どうやら御子柴はもっと前から私の事を知っているらしいのだ。それこそ高校で同じクラスになる前から……。
「うん。私もらしいってくらいしか知らないんだけど」
中学の頃の卒業アルバムでも見れば……と一度見た事があるけど、そこに「御子柴」の文字はなかった。
それに、御子柴自身がそれを自分から言うつもりなど毛頭ないらしい。おかげで私の中で妙に「思い出せなくて申し訳ない」と言う謎の感情が燻っている。
「……」
「……何」
小さく息を吐き、再び読書に集中しようとした矢先。机に教科書類を入れ終えた御子柴の視線ががジーッと私の方に向いている事に気が付いた。
「いやぁ。随分と色々と言われているなぁと」
「……」
チラッと視線を向けた先にいるのは私の様子を見ながらコソコソと話している彼女たちの姿。
「好きに言わせておけばいいでしょ」
「それはそうだけどな。なぁんか面白くないんだよな」
「は?」
「真山の事を簡単に『クール』なんて一言で片づけられるのとか、なんか仲良くなろうとタイミングを窺っている感じとか……どうもな」
「仲良くだなんて……私みたいなタイプが彼女たちの周りにいなくて物珍しくて見ているだけでしょ?」
「いやいや。それは自分を過小評価しすぎだって。でもまぁ、仲良くなりたいっていう気持ちは分かるけどな」
ニッコリと笑う御子柴に当の私は「はぁ」と頭を抱える。
「どうした?」
「……なんでもない」
私自身「自分がクールだ」なんては思っていない。面倒事が嫌いだからと言って周囲と距離を取りたい訳でもない。
「ねぇ、やっぱりあの二人ってさ」
「うん。やっぱりそうだよね」
「いつも二人で話しているし――」
何やら彼女たちの間で盛り上がっている様だけど、私と御子柴は特に恋愛関係はない。
ただ、こうして彼と話しているだけで周囲の人たちから「付き合っているのでは?」とあらぬ誤解を招いてしまっているらしい。
「あ。そういえば、今日遅いな。渚ちゃん」
そんな彼女たちの会話を知ってか知らずか……御子柴はサラッと話題を変えた。
「そうね」
教師に対して「ちゃん」付けはどうかと思うけど、当の本人はそれを諫める事がないのでそのままになっている。
でも、確かに言われてみればいつもより遅い様な気もする。
御子柴が「渚ちゃん」と呼ぶ『
「はーい、席についてー」
そんなやり取りをしている内に話の話題になっていた渚ちゃんが来た……んだけど。
「……」
「どうした?」
「ううん。先生の手元」
「手元? あ」
御子柴が私の言葉を受けて神薙先生の手元を見ると……そこにはA4サイズ程の紙の束を持っている。
「えー、先生が今日遅れて来た理由が分かりますか?」
そう言いながら神薙先生は手元の紙の束を揺らす。
「え」
「嘘だろ」
「マジ?」
何人かは何となく察しがついているらしく、その中には顔を真っ青にしている人もいる。
「え、何々?」
ただ、中には分からない人もいる様だ。
「――も、もしかして……テスト?」
御子柴本人としては小さい声で言ったつもりだったとは思う。しかし、思ったよりも大きな声になったらしく、先生は「正解!」と御子柴の方を向いて指さした。
『えー!!』
御子柴と神薙先生のやり取りの後途端に聞こえて来た驚きとブーイングの声。
「聞いてないって!」
「事前に教えてよ!」
「なんで今テストすんだよ!」
「もうすぐ中間なんだから今しなくてもいいだろ!」
そのブーイングのほとんどが「抜き打ち」に対する不満で、中にはテスト自体を嫌がっている人たちもいた。
「……」
でもまぁ、その気持ちも分からなくはない。
テスト自体に関してはともかく、普段から勉強をしている私ですら「抜き打ち」というのはあまり好きではない。
「まぁまぁ聞いて」
ただ、神薙先生もこうしたブーイングが来るのは想定済みだったらしく、みんなをなだめる様にニッコリと笑顔を見せる。
「今日の連絡事項など伝え終わったらそのままテスト勉強の時間にするから、その後の授業の最初にテストを行います」
つまり、ホームルームの時間の残りと一時限目の間の休み時間を勉強の時間に充てられるという事の様だ。
この形であれば完全な「抜き打ち」という訳はない。
「べ、勉強する時間があるのなら……」
「ま、まぁ……うん」
基本的に何か行事で決めなければいけない事さえなければホームルーム自体は十分もあれば終わる。その後の休み時間も含めれば三十分は取れそうだ。
何となくクラス全体的に「勉強する時間があるのであれば……まぁ、いいかな」という雰囲気になり、神薙先生の提案が受け入れられつつある。
ただ一つ問題があるとするならば……それはテストの範囲だろう。
「よし、それじゃあ決まりね! テスト範囲はここから――」
教室全体を見渡した神薙先生は黒板にテスト範囲を書き出した……のだけど。
「いやっ、広すぎるって!」
「いくら事前に勉強する時間があっても無理無理!」
「ええ! これくらい大丈夫だって!」
そのテスト範囲の広さにまたもやブーイングが起き、隣の教室の先生から「うるさい」との苦情を受ける羽目になったのであった――。
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