11人のプレーとは……?
3
「え……こ、交代?」
「うん」
「ちょ、ちょっと待ってくれよ、シャイン姉ちゃん……俺たち、姉ちゃんの力になりたいと思っているのに……まだ前半だぜ?」
「旭、ここは監督に従おうや」
「くっ……」
昇になだめられ、旭たちはベンチに下がる。
「……時差ボケがまだキツいでしょ。先制点は取ってくれたんだから、後は任せて」
シャインが笑顔で告げる。
「こ、これくらいなんともねえよ!」
「無理は禁物よ。あくまでも練習試合なんだしね」
「ちっ……」
シャインが視線をグラウンドに向けながら語る。
「ベンチでよく見ていて、これからのチームメイトたちの戦いぶりを。昨日はドタバタしていて、簡単な自己紹介くらいしかしていないでしょう。私が紹介するわ」
「……紹介」
「そういえば、昨日は軽いランニングだけだったね……」
天の横で日が思い出したように呟く。
「まずは同点だ!」
相手チームが巧みな連携で抜け出し、松美館のゴール前に侵入する。
「もらった!」
「はっ!」
天の代わりに入った金髪のゴールキーパーが低いシュートを防ぐ。昇が声を上げる。
「おおっ、ナイスキーパー!」
「低いシュートによく反応したな……」
天が感心する。シャインが口を開く。
「彼はフランシス=バーバー……」
「外国人?」
「乙女ちゃん、補足をよろしく」
シャインがウインクする。おさげ髪でジャージ姿の女子が旭たちの近くに立つ。
「えっと……あ、あらためまして、あたしは……」
「マネージャーの
日がウインクする。乙女は戸惑い気味に頷く。
「は、はあ……彼はカナダ出身で元アイスホッケーのゴーリーです」
「ア、アイスホッケー⁉」
天が目を丸くする。シャインが呟く。
「速いシュートへの反応がなかなか良いのよ……」
「まだだ! こぼれ球を拾え!」
「ふん!」
「うわっ⁉」
褐色でずんぐりとした体型の選手が相手チームの選手に強烈なタックルをかます。
「彼はアレックス=モー……」
「オーストラリア出身で元ラグビー選手です」
「ラ、ラグビー⁉ 確かに凄いタックルだね……」
乙女の補足に昇が驚く。
「凄い迫力のタックルでしょ?」
シャインが微笑む。
「お、落ち着いてパスを繋げ!」
「よっと!」
「なに⁉」
片目が隠れるほどの前髪が長い選手が絶妙なパスカットを見せる。
「彼は
「滋賀県出身で麻雀の腕前はプロ級です」
「ま、麻雀だって⁉」
「勝負の流れを読むのは大したものよ」
驚く昇にシャインがまた微笑む。
「中央は避けろ、サイドから崩していけ!」
「へっ!」
髪型を七三分けにした選手がドリブル突破を防ぐ。
「ぎゃ、逆サイドだ!」
「へへっ!」
「むっ!」
逆サイドにボールを展開して、突破を試みた相手チームだったが、髪型を逆七三分けにした選手が突破を防ぐ。
「七三分けの子が
「高知県出身の双子で元テニスのダブルスの選手です」
「テニスのダブルス⁉」
「サイドステップはなかなかのものよ」
驚き続ける昇にシャインがまたまた微笑む。
「い、一旦下げろ!」
「カバデイ、カバデイ……!」
「ぬおっ⁉」
褐色で坊主頭の選手が粘り強く、相手チームの選手を追いかけまわす。
「彼はパーニー=ダス……」
「インド出身で元カバデイ選手です」
「カ、カバデイ⁉」
「スプリントの速さとそれを繰り返せるのが強みよ」
驚く日に対し、シャインがにっこりと笑いかける。
「ボ、ボールがこぼれたぞ!」
「そらっ!」
短髪の選手がこぼれ球を素早く拾い、松美館ボールにする。
「彼は
「北海道の釧路出身で元バレーボールのリベロです」
「バ、バレーのリベロ⁉」
「ボールへの反応速度はとてつもないわ」
また驚く日に対し、シャインがまた笑いかける。
「ディフェンスだ!」
「……」
「うっ!」
眼鏡をかけた小柄な選手が正確なサイドチェンジを見せる。
「彼は
「福井県出身で元eスポーツの選手です」
「イ、eスポーツ⁉」
「フィールドを俯瞰で見られるのよね……」
またまた驚く日に対し、シャインがまたまた笑いかける。
「と、止めろ!」
「はん!」
「は、速い⁉」
ツンツン頭の選手がスピードで相手チームの選手を振り切る。
「彼は
「和歌山県出身で元陸上選手です」
「陸上⁉」
「ちょっとしたスピード違反でしょ?」
驚く旭に対し、シャインが笑みを浮かべる。
「クロス長いぞ! ライン割る! ……なにっ⁉」
磯野が放ったクロスボールはやや長かったが、茶髪で長髪の選手がラインぎりぎりで追いつき、自らのボールにする。
「彼は
「島根県出身で、日本とブラジルのハーフ……元野球選手です」
「野球⁉」
「フェンス際というか、ライン際のボールに追いつくのよ」
また驚く旭に対し、シャインがまた笑みを浮かべる。
「クロス上げさせるな! あっ⁉」
「おらあっ!」
「おわっ⁉」
金髪リーゼントの選手が秤の上げたクロスボールをヘディングで豪快に叩き込む。
「彼は
「三重県出身で……元ヤンキーです」
「ヤ、ヤンキー⁉」
「負けん気の強さが良いのよ」
またまた驚く旭に対し、シャインがまたまた笑みを浮かべる。昇が呟く。
「カナダ、オーストラリア、インド……サッカーが一番人気でない国か」
「よく気が付いたわね、昇。意外と逸材がいるのよ……」
「北海道東部、三重、福井、滋賀、島根、高知……Jリーグチームが無いところか」
「そうそう。それにサッカー経験者は大体青田買いされちゃうからね~」
「しかし、宣伝もしないのによく集まったな……」
「みんな監督のやっているYouBroadチャンネルの熱狂的視聴者なんです」
「えっ⁉」
乙女の言葉に昇が驚く。
「みんな、私の趣味でやっているチャンネルを見て、サッカーの技術を学んである程度まで上達しちゃったのよ~」
シャインがケラケラと笑う。
「そ、そんなことが……」
「あり得ちゃったのよね~」
シャインが啞然とする昇に対し、笑顔を向ける。
「ミ、ミーハーが集まるのは嫌だから、監督就任も秘密にしていたんじゃ……」
「ええ、そうよ、私は本気で勝ちたいの」
笑顔から一転、シャインが真顔になる。
「YouBroadで釣られた連中なんて、下心あると思うけどね……」
日が呆れ気味に髪をかき上げる。
「……人のことを言えるのか?」
天が横目で日を見つめる。
「な、なんだよ……」
「それは良いとしてよ!」
旭が声を上げる。
「ん?」
シャインが首を傾げる。
「それなりの連中だって言うのは認める。でも、まだまだ粗削りだ! あれで高校サッカーを勝てるのかよ⁉」
旭がグラウンドを指差して、シャインに問う。
「ふふふっ……」
「な、なにを笑っているんだよ……」
「仕掛けはこれからよ」
「仕掛け?」
「へい!」
シャインがグラウンドのメンバーに声をかけ、身振り手振りでサインを送る。すると……。
「ポ、ポジションが入れ替わった⁉」
フィールド中央にポジションを移した平末兄弟の見事な連携からのスルーパスに抜け出した毒島がシュートを放ち、ゴールネットを揺らす。
「あ、あの麻雀男、ディフェンスから前線に移った……」
日が再び啞然とする。
「相手のディフェンスラインとの駆け引きも見事だったわね~ナイスパス! そして、ナイスゴール! その調子よ、みんな!」
シャインが拍手を送る。
「仕掛けとは……まさか……」
「そのまさかよ、天。私は彼らに全てのポジションをこなせるようになりなさいと言っている。単純計算で11×11通りの戦い方が出来るのが目標よ」
「なっ……⁉」
旭たちが絶句する。
「私はこのチームで日本サッカー界に維新を起こすわ!」
シャインがさわやかな笑顔を浮かべながら、ボールを片手に力強く拳を握りしめる。
芦田シャインによる日本サッカー維新! 阿弥陀乃トンマージ @amidanotonmaji
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