ふたりだけのミートアップ

Hugo Kirara3500

スムーズな日本語を話すのに驚きました


 今日は出張でカナダから来日したペンフレンドのナタルカさんと合う約束をしました。彼女とは数年前から「ポストスワップ」というサイトで知り合って絵葉書の交換を始めてから三年くらい。そこは送りたいときに先方の宛先を一定数請求することが出来てランダムにそれが発行されてそこに送るとまた別のところから送った数と同じだけの葉書が別の人から来るというシステムになっています。ある日彼女から受け取った葉書にたまたま「個人的に交換しませんか?」と書いてあったので、そうすることにしました。彼女から来る葉書はいつもきれいな筆跡で書かれていました。英語圏から来る手書き文字は読みづらいことが多かったので、これはありがたかったです。また、これはカナダに限ったことではありませんが、手紙の需要減少とあの戦乱以降のインフレで国際郵便料金が高騰して、今では葉書でさえそれがもう五ドルの大台に迫っているのが悩みの種だそうです。


 紅葉の美しい十二月初めのある日、とある駅の冷たいからっ風が吹き込む改札前で待っていたらストロベリーブロンドでセミロングヘアの女性がやってきました。

「こんにちは、ナツ」

彼女は意外ににもきれいな日本語で挨拶をした。

「ナタルカさん、はじめまして!」

わたしたちは思わずハグしました。

「ここだと騒がしいから喫茶店に行きませんか?」

「はい」

というわけで近くにあった喫茶店に行きました。


 彼女は席に座っても何も口にしたりお冷を飲んだりしませんでした。その代わりに落ち着いた表情でポケットからUSBケーブルを取り出しテーブルの上にある充電ポートに片方を差し込んだ後頭部に手を伸ばしてうなじから髪の毛をどけた後もう片方をそこに差し込みました。


 わたしが目を丸くしながらそれを見つめていると彼女は、

「そう、私はやむを得ない理由で『機械』になったんです。話すと長くなるし、辛い思い出でもあるの」

わたしがハグしたときは着ぶくれでそのことに気づきませんでした。ふたを開けてみたら異文化交流を通り越して生まれて初めてのアンドロイドとの出会いだったので、心の中では戸惑いながらも興味津々でわくわくしたところがありました。そして今回の来日まで日本と全く接点がなかったはずの彼女が淀みのない日本語で話していたのに驚いて、

「来る前に日本語の猛特訓受けたんですか?」

と言ったら、

「一夜漬けと言うか小容量会話データをインストールしただけなので日本語ではあまり深い話は出来ませんが……」

「すごいじゃない。わたしのためにインストールしてくれてありがとう」

「業務命令だけどね。だからデータ代は会社持ち。だから業務会議にも通訳無しで参加できて、うちの方の業務状況とかをわかりやすく伝えられたんじゃないかなって思います」

You did a good job.お疲れさんそれで、飛行機に乗るときの準備は大変だったでしょう……」

「ええ、もちろん。家を出る前にお腹を開けて電池を航空会社が認める最低限まで減らしてから空港に行って成田空港で入国してすぐレンタルして試着室のようなスペースでまたお腹開けて電池を入れてもらったの。そしてスカイライナーという列車に乗っている間に足元にあったコンセントにケーブルを繋いで『食事ランチ』を済ませました」


 そして、彼女の話は続きました。

「私はもともとカナダ生まれではありませんでした。母国で戦乱があって、ある日進駐軍が来て村の人たちを襲ってまとめて穴を掘って雑に埋められたんです。そのときまだ十六歳だったの。それから国際調査団が発掘して私達のことを調べました。そして有志が機械の体を持ち込んで意識を移してもらった後、家族の知り合いのつてをたどってカナダの大学に行ってそのまま行って就職しました。元の腐りかけのミイラのようになった私の体は証拠品として保管されていると聞きました」


 たった十年そこそこで戦禍の傷など癒えるはずもなく、わたしは彼女の話をじっと聞くことしか出来ませんでした。

「こんな話しか出来なくてごめんね。でも、いつかはナツに言わなくてはいけないことだから」

「ううん、ありがとう」

わたしは涙ながらそう言うのが精一杯でした。

「仕事が終わったら京都行くんだけど、なにかおすすめの場所はありますか?」

「うーん」

わたしは悩んだ。


 日本語が使えたこともあって濃厚なまでに充実した話を済ませたわたしたちは喫茶店を出て駅前からの大通りで行われていたイルミネーションの中を人混みの中、一緒に歩きました。

「ナツ、なんてきれいで素晴らしいの……」

と、言いながら彼女はきれいな夜景を見て感極まって涙を流しそうな表情でわたしに抱きつきました。わたしにはBGMのクリスマスソングが少し物悲しく聞こえました。


 そして、わたしたちはそれぞれホテルと家に戻るため、駅に戻りました。

「さよなら、ナツ。あなたと会えて本当に良かった」

「ナタルカさん、またね」

「こちらこそ」

彼女は少し吹っ切れたような感じの笑顔で去りました。京都でいい思い出作ってくれるといいなと、わたしは心から思いました。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ふたりだけのミートアップ Hugo Kirara3500 @kirara3500

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画